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勇者と元勇者が平和の世を行く  作者: 凪沙一人
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旅之二 賞金稼ぎの死霊騎士

 それはオークの巣まで、もう一息という場所だった。

「あのぉ、そろそろ休憩しませんか? 」

「はぁ? どうせ、携帯食糧も無いんだろ? だったら、早いとこオークを倒して飯代にするべきだろ? 」

 ゼファーは呆れて吐き捨てるように言った。元々、ゼファー1人でオークを退治するつもりなので、ミントが疲れて動けなかったとしても関係ない。だが、ミントとしては何とかついて行かねば経験値が増えない。それに、こんな所で待っていたらゼファーが戻ってくる前に魔物の餌食になりかねない。ミントは自分が居なくてはギルドも賞金を払ってくれないからと、何とかゼファーを説得した。

「ちっ、仕方ねぇな。」

 そう言うとゼファーはミントを担ぎ上げた。

「えっ? ちょっ、待ってください。あたし、荷物じゃないんで! 」

「うるさいな。ギャーギャー騒ぐな。勇者って肩書きが無けりゃ、ただのお荷物だろ? 」

 そう言われてしまうと返す言葉のないミントだったが、17歳の乙女が23歳の青年に担がれている姿というのは、さすがにメンタルに響く。

「じ、自分で歩きますぅ。」

「まぁ、その方が俺も助かる。」

 ミントをおろすとゼファーは肩をぐるぐると回した。

「お、重かった… ですか? 」

「まぁ、鹿くらいだな。」

 これは怒るに怒れない微妙な表現だ。猪に例えられたのなら、成体なら基本的にミントより重いのだが、鹿では種類によって猪よりはるかに重いものもいれば、人間の子供くらいのものもいる。

「ほら、自分で歩くって言ったんだろ? そのカモシカのような足が泣くぞ? 」

 これもまた、微妙な表現である。羚羊カモシカなのか羚羊レイヨウなのか。

「ひょっとして、からかってます? 」

「お、気づいたか? 」

「ちょっ」

 文句を言おうとしてミントはゼファーに口を塞がれた。ミントはゼファーに担がれたのを、ほんの一瞬だと思っていたが、実はオークの巣の目と鼻の先まで来ていた。さっきの『気づいたか』が自分に対してなのかオークに対してなのか分からなくなり、ミントはモヤモヤしていた。

「どうやら、気づいたのは向こうの方らしいな。」

 ミントがゼファーの視線の先を見ると1人の騎士が立っていた。

「おとなしくしてろよ。」

 ミントにそう言うとゼファーもオークたちの前に出ていった。

「きっ、貴様ゼファー!? 何故、ここに? 」

 ゼファーを見るなり騎士が叫んだ。

「ん? 前に会ったっけ? 」

「魔王の城で会っただろっ! 死霊騎士のガイストだ、ガイストっ! 」

「ん~ 覚えてないな。片っ端に倒したから。生きてたってのは運が良かったんだな。」

「俺様は、そもそも生きてないっ! 貴様が浄化していかなかったから残っただけだっ! 」

「んじゃ、浄化するか? 」

「そ、それは待て。今はしがない傭兵の妖兵だ。人間に敵意は無い。せっかく生き残った… いや、生きてはいないのだが… 取り敢えず浄化するのは思い止まってもらえるか? 」

「じゃ、こいつら退治するから邪魔するなよ? 」

「いや、それも待て。傭兵だと言っただろ? こちらもオーク退治を請け負った身。手ぶらで帰る訳にはいかんのだ。」

 よくよく話しを聞いてみると、どうやらミントに依頼してはみたものの、あまりにも頼り無さそうなのでギルドが別途、依頼したらしい。

「酷ぉいっ! 」

 それを聞いていたミントが思わず立ち上がった。

「バカっ! 」

 オークたちが一斉にミント目掛けて走り出した。本能的に一番弱そうな相手を倒して逃げようとしたようだ。

「えっ!? ま、待ってっ! 」

 言われて待つオークではない。言葉が通じないのだから。だが事は一瞬で片付いた。野生のオークなど、魔王倒したゼファーからすれば物の数ではない。ガイストの出る間も無かった。

「ゼ、ゼファー、この依頼、共同でクリアした事にせぬか? な、なんなら貴様らのパーティーに入ってやってもいいぞ? 」

「要らん。断る。不要。」

 即答でゼファーは断った。

「いや、貴様… 貴殿らのパーティーに入れてくれ… ください。お願いしますっ! 」

 あまりの懇願っぷりにミントが尋ねた。

「どうしてですか? 何か理由でも? 」

「この依頼に成功して人間の役に立てるところを見せないと聖職者クレリックどもが浄化に来るのだ。魔王亡き今となっては、奴らにとって経験値稼ぎの手段としか思われていないのだっ! 」

 確かに魔王が居なくなり冒険者も減り聖職者たちの経験値を稼ぐ場は格段に減っていた。治癒魔法は必要とされていたが村人を治しても経験値は増えない。するとレベルが上がらないので上級の治癒魔法が覚えられない。魔王が倒されたといっても、それほど時が経っている訳ではないから聖職者に寄付出来る余裕のある者は少ない。今、聖職者たちの最大の収入源は治癒なのだ。

「どうしよう? 」

「こっちに何かメリットあるか? 」

 戸惑うミントの言葉に、ゼファーはガイストに質問した。

「生きてないので食事も水も要らない。死体ではなく死霊なので臭わない。即死魔法無効なうえにトラップ確認要員にももってこい。夜間の警戒、無休でOK。こんなお得なガイストさんが今ならなんと無給ただっ! 」

「なんか卑屈になってないか? ここはミントのパーティーだ。任せる。」

「それじゃ、ガイストさん、よろしくネ。」

 三人はギルドの伝書妖精を飛ばすと街に戻る事にした。

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