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勇者と元勇者が平和の世を行く  作者: 凪沙一人
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旅之十九 圧が凄い

 マーエルフに海溝の淵まで送ってもらうと、再びR.テミスの気泡に入って深く沈み始めた。

「なんか、さっきよりも小さくないですか? 」

 ミントの言うとおり、気泡はさっきよりも小さく思えた。と云うよりも、どうやら今も少しずつ縮んでいる気がしていた。

「え、えと… その… こんなに深くに潜った事ないから。水圧の計算間違えたかも。アハッ。」

「アハじゃねぇだろう。」

 R.テミスはゼファーに小突かれて、一瞬戸惑った。まさか神が人間に小突かれるとは思ってもみなかった。普通なら一言、言うところではある。だが、相手は神々でさえ手を焼いていた魔王を瞬殺したゼファーだ。残念な女神に、そんな事が言える筈もなかった。

「で、でも目的地までは・・・も、もつかなぁ。」

 自信無さげなR.テミスの視界には海皇の言っていた巨大な海の魔物がうじゃうじゃと泳いでいた。

「あんたも女神の端くれなら魔物ぐれぇで、ビビってんじゃないよ。みんな、耳塞ぎなっ! 」

 全員が言われた通り、両耳を塞ぐとボーマンはおもいっきり息を吸い込んだ。

「手前ぇら、ボーマン様のお通りだっ! ぶっ殺されたくなかったら道をあけやがれっ! 」

 言葉遣いはともかく、水中を伝導してきたボーマンの一声で巨大な魔物たちは蜘蛛の子を散らすように姿を消した。

「さすが魔王の娘だな。」

「だろぉ~。」

 ゼファーに誉められてボーマンもドヤ顔を見せた。

「さすが、親の七光りっ! 」

「あんだってっ!? 」

 刺のあるミントの言葉には突っかかった。

「騒ぐな。空気が減る。」

 ゼファーが二人を止めて事なきを得た。実際、興奮して呼吸が荒くなると酸素の消費は多くなる。この小さな泡の中では死活問題になりかねない。

「なんだ、あいつら。屁の役にも立たねぇのかよ? 」

 頭の上の海中を見上げながらクォーターエルフが嘆いていた。魔物が暴れている間に逃げるつもりだったのだろうが、あてが外れた。そしてR.テミスが追って来るのは予想していたが、ゼファーやボーマンがついてきているなど夢にも思ってはいなかった。

「貴様がクォーターエルフか? 」

 到着したばかりのゼファーにいきなり見つかった。

「な、な、なんだよ。俺にもカトルって名前があるんだ。」

 強がってはいるが、少し震えているようにも見えた。

「そうか。俺の名はゼファー。おとなしくホワイトベルを返してくれれば悪いようにはしねえ。」

 するとカトルは後退りをして尻餅をついた。どうやら腰を抜かしたようだ。

「バ、バケモノっ! 」

「おいおい。いきなりバケモノはねぇだろ? 」

「う、う、噂で聞いたぞ。あの魔王を瞬殺するなんて人間業じゃねぇっ! 」

 そう言いながら、尻餅をついたまま、両手で後退ってなんとかゼファーと距離を取ろうとしていた。

「あのなぁ。こっちだって魔王っていうから、どんだけ強いのかと思って剣振ったら一撃で終わるとは思わなかったんだよ。皆、魔王って肩書きにビビってたんじゃねぇの? 」

「おいおい。あんなクソ親父でも、一応あたいの親なんだから、ちったぁ気をつかってくれてもいいんだぞ。」

 その声を聞いてカトルは今度は青ざめた。

「シャ、シャナ王かと思ったら… ボ、ボ、ボーマン!? 」

「はぁ… 」

 ボーマンにとって魔王の娘として驚かれるのは構わなかった。だが、シャナと間違われた事にタメ息を吐いた。

「はいはい、魔界のプリンセス、ボーマンちゃんですやよって。ちゃっちゃとホワイトベルを返しな。」

「い、嫌ですっ! 」

 カトルは慌てたように拒否をした。

「エルフの里の前でR.テミスの為とか言ってたそうじゃねぇか。何か事情があるなら話してみな。」

 ゼファーに声を掛けられてカトルは怪訝そうに首を傾げてから、ポンと手を打った。

「それ、“R.テミス様の為”じゃなくて“R.テミス様のところに居たらホワイトベルの為にならない”です。」

 それを聞いたR.テミスが、その場に座り込んでしまった。

「R.テミス様っ! 」

 そこへ白い伝書妖精が飛んで来た。

「ホ、ホワイトベル!? 」

 思わずR.テミスは抱き締めようとしたのだろうが、何しろ伝書妖精は身体が小さい。潰されそうになってスルリと手の中から逃げた。

「何で出て来たんだよ? せっかく残念な女神から逃げるチャンスなのに? 」

「私、やっぱりR.テミス様の所に戻る。でないとR.テミス様、駄目になっちゃう。」

「何、言ってんだよ。ホワイトベルがついてたって駄目なもんは駄目なんだぞ。」

 それを聞いていたゼファーが二人の頭を軽く小突いた。

「お前らなぁ。そんな駄目駄目って、いくら駄目で残念な女神でも傷つくだろ? 」

「そうですよ。いくら本当の事でも言い過ぎですよ。」

 そう言ったミントの肩にボーマンが手を掛けた。

「お前ら、天然に毒、吐くな。」

「え? 」

 気がつくとR.テミスが小さく丸まっていじけていた。

「え! あ、そういう意味じゃ… 」

 慌てて訂正しようと思ったが、何と訂正すればいいのかミントには思いつかなかった。

「ようするにカトル。お前、ホワイトベルと一緒に居られればいいんだろ? 」

「え!? いや、その、えっと… 」

 ゼファーの言葉にカトルは分かりやすく動揺していた。

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