旅之十七 妖精王
「なんじゃ、騒々しい。」
「そ、それがR.テミス様と一緒に魔王の娘が…。」
知らせを聞くと妖精王はゆっくりと立ち上がった。
「わかった。儂がゆく。」
妖精王は歩いてゼファーたちの居る里の入り口へと向かった。そこには知らせの通り、R.テミスとボーマンが共に居た。
「これはこれはR.テミス様。今日は珍しいお連れですな。魔王の娘と御一緒とは。それに死霊騎士に人間の娘と・・・コホン・・・何故、ゼファーが此処に居る? 」
「まさか、死に損ないのオベロンが、まだ妖精王をやってるとはな。」
「生憎と人間より長生きなのでな。」
「憎まれっ子、世に憚るってのは妖精も同じらしいな? 」
「あ、あのぉ。」
今にも喧嘩を始めそうなゼファーとオベロンの間にミントが割って入った。
「なんじゃ? 人間同士ゼファーの肩をもつつもりか? 」
「い、いえ。今日はR.テミス様の御依頼で、伝書妖精ホワイトベルさん捜索の為、お話しをお伺いしたくて参りましたミントと申します。」
するとオベロンはマジマジとミントを見て言った。
「どうやら人間にも、まともな者が居るようじゃの。まさか、この地に二人目の人間が足を踏み入れる日が来るとは思わなんだ。」
「二人目… ですか? 」
「そうじゃ。お主で二人目じゃ。勿論、一人目はゼファー。儂が人間を妖精の里に出入り禁止にした原因じゃ。」
「ゼファーさん、ここで何したんですか? 」
「いや、ちょっと邪魔くさかったんで、像を3つばかり壊した。」
それを聞いてR.テミスの顔色が悪くなった。
「み…みみみ3つ壊したんですか… 」
R.テミスの視線の先にはテミスとL.テミスの像だけが立っていた。
「わ、私の像だけが壊されたと思っていたのに… 私の像だけが再建されていなかったのですね… 。」
「い、いや。里の者が縁起が… いや、そうではなくて… えぇい、そもそも、女神像を壊したゼファーがいかんのじゃっ! 」
「建て直さなかったのは、お前らだろうが。」
「そもそも、女神なんか崇めるから、そういう事になるんだ。ゼファーは悪くないっ! 」
「ボーマンさんは話しが面倒になるから控えてくださいっ! ゼファーさんとオベロン様は、どっちもどっちです。反省してくださいっ! 」
「レベル1の分際で、あたいに控えろだとぉ!? 」
今度はR.テミスを慰めていた筈のミントが落ち込んだ。
「ほらほら、俺様みたいな生きても死んでもない奴が言うのもなんだけど、せっかく魔王も居なくなったんだし生きてる者同士、仲良くしろよな。」
「せっかくぅ? 」
ガイストの一言にボーマンが反応すると慌ててR.テミスの陰に隠れた。
「と、ともかくだ。ホワイトベルについて知ってる事を全部聞かせてくれ。」
ゼファーに言われてオベロンも露骨に嫌そうな顔をしたが、R.テミスの依頼で来ている以上、無下にも出来なかった。
「知っている事と言われても、大した事は何もない。前にR.テミス様にもお話しした通りじゃ。あの日、妖精の里にやって来たホワイトベルは妖精の粉を買って帰っていった。それだけじゃ。」
「そん時の店番は? 」
ゼファーの問いにオベロンは眉間に皺を寄せた。
「儂の言うことが信じられぬと申すか? 」
「そうじゃねぇ。そうじゃねぇが妖精王自ら妖精の粉を売った訳じゃねぇだろ? 買いに来た時の様子が聞きたい。」
R.テミスに頷かれてはオベロンも折れるしかなかった。
「グラスベル。あの日の店番はお前じゃったな? 」
「はい。でも、あの時は休憩時間だったので。クランベル? 」
「ちょうど他のお客様のお相手をしていたのでブルーベル? 」
「え? その日は私、お休みですけど。」
妖精たちはお高いに顔を見合わせて困っていた。
「オベロン、どういう事だ? 」
「い、いや。その。なんじゃな… 。」
「あぁ、いい。ジジイの言い訳聞いてる暇は無ぇ。おい、お前らん中で、その日ホワイトベルをハッキリ見たって奴は居るか? 」
すると、恐る恐る一人の妖精が手を上げた。
「ホワイトベルが里の外でクォーターエルフと話しているのを見ました。」
「サンベル、何故黙っておったっ! 」
「ひっ… だってクォーターエルフって聞くとオベロン様、頭ごなしに怒るじゃないですか。ホワイトベルが可哀想かなって… 。」
「当たり前じゃっ! 」
「黙ってろ。話しが進まねぇだろ。サンベル、どんな話ししてたか分かるか? 」
更に食い下がろうとしたオベロンだったがR.テミスに止められた。
「詳しくは… 。でもR.テミス様の為だとか。それからクォーターエルフと一緒に何処かへ行ってしまいました。」
「行き先はわかるか? 」
「そこまでは… 。」
「・・・オベロン。」
「なんじゃ? 」
「オーベーローンっ! 」
「えぇい、わかっとるっ! まったく。恐らく海じゃ。マーエルフの所じゃろ。」
「よっし。半歩前進だな。でマーエルフってのは何処に居るんだ? 」
「海底じゃ。それも深海じゃ。並みの冒険者じゃ辿り着けまいて。」
「問題ねぇよ。俺は並みじゃねぇから。行くぞ。」
手掛かりが掴めた事にR.テミスは嬉しそうだが、1人だけが不安しかなかった。
「あたし、並み以下なんですけどぉ~。」




