旅之十三 真・魔王の娘
「ま、ま、魔王の娘が本当に居るんですかぁ!? 」
これにはミントも、ノワやアマンダも動揺した。何しろ、ここにゼファーが居ないのだ。
「娘って言っても、人間と違って魔王から分離した分身みたいなもんだがな。」
そう言って部屋に巨漢が現れた。
「これ、ベン・K。お客様に対して失礼ですよ。ご挨拶なさい。」
シャナに言われてベン・Kは頭を掻きながら豪快に笑った。
「ガッハッハ。すまんすまん。俺様の名前は妖神坊のベン・K。気軽にベン・Kでも、ベンでも好きに呼んでくれ。」
するとミントが少し首を傾げた。
「あの… ひょっとしてベンさんて魔族ですか? 」
「おぅよ。ずいぶん、簡単にバレちまったな。」
一応は誤魔化そうとしていたらしいが、バレだからといって気にする素振りも無かった。
「あたしのパーティーにも魔族の方が… いましたから。」
そう言ってからミントは俯いた。
「ました? 過去形か。まぁ、人間と魔族じゃ、色々あるよな。」
「いえ、どちらかと言えば人間同士の問題で… 。」
するとベン・Kは皆の視線を浴びた。ベン・Kだけが事の経緯を知らないのだから、仕方ないのだが。そこへ突然、大音量の爆音が響いてきた。全員が思わず耳を塞いでいた。
「どうやら、見つかってしまったようですね。」
冷静にシャナが立ち上がった。
「見つかったって… !? 」
「ボーマン姫です。」
アマンダの質問にもシャナは淡々と答えた。
「ここは俺様が引き受けた。皆は逃げてくれ。」
「あ、あたしも行きますっ! 」
一人で行こうとしたベン・Kの後ろでミントが立ち上がった。
「嬢ちゃん、震えてるじゃねぇか。無理すんなよ。」
「だ、大丈夫です。これでも勇者ですから。」
それを聞いてベン・Kは溜め息を吐いた。
「因果な仕事、選んじまったな。仕事柄、引くに引けねぇって奴だろ? 行くぜ。」
ミントとベン・Kが家の外に出るとゴーゼンの案内でシャナやルレ姉妹は反対側から脱出した。
「えっ!? … シャナ? 」
ミントの目の前には、シャナと瓜二つの少女が立っていた。
「よく見な。シャナにそっくりだが角も有れば翼も尻尾も有るだろ。魔王がシャナをモデルに作り出した娘、ボーマン姫だ。」
「誰かと思えば、裏切り者の妖神坊じゃないか。そっちの小娘は何者だい? 」
「ゆ、勇者です。ど、どうしてシャナさんを狙うんですか? 」
正面から当たっても勝ち目があるとは思えなかった。ミントは会話が出来るのなら話し合いの余地を探ろうとしていた。
「あいつが生きてると、あたいが偽者扱いされるからだよ。あいつを消して、あたいが本物だと世間に認めさせるんだ。」
「そ、そんな横暴な… 」
「横暴もへったくれもあるかよ。魔王が居た頃は魔王の娘と勝手に逃げ惑い、魔王が居なくなったら勝手にシャナと間違えて寄ってきて魔王の娘と分かると偽者扱いしやがる。魔王の居ない今、あいつが生きてると、いつまでたっても、あたいは偽者扱いなんだぞ? 」
二人のやり取りを聞いていたベン・Kが不思議そうに口を開いた。
「ボーマン姫。あんた意外と喋るんだな? 」
「はぁ? 勝手な事、抜かすんじゃないよ。人を見りゃ逃げるか攻めるしかしないだろ。まともに話しかけてきた人間なんて、その小娘が初めてだよ。」
「そりゃ、そっちが仕掛けて来るからじゃないか。」
「あたいが狙ってんのはシャナだけだよ。魔王の居ない世の中で、誰彼構わず襲ってたら、それこそ居場所が無くなっちまうだろ。そのくらいは、あたいでも解ってるさ。」
「いっそ、シャナさんを狙うのも、やめませんか? 」
恐る恐るミントは聞いてみた。
「言ったろ。あいつが生きてる限り、あたいは偽者扱いなんだよ。あんたなら少しは話せると思ったけど… あいつの肩を持つなら敵だ。あたいは、あんたら倒して、あいつを追う。」
ボーマンはいきなり魔力を両手に集め始めた。
「やべぇ。ありゃ俺様が体張っても嬢ちゃん守りきれねぇ… 。魔物と心中とは気の毒だったな。」
ベン・Kはそう言いながらもミントの前に仁王立ちした。
「消えろぉっ! 」
ボーマンの放った魔力の塊が二人を呑み込んで… いくことは無かった。その魔力の塊は直角に曲がって上空へと消えていった。
「な、何者だいっ!? 」
自分の魔力を片手で弾き上げられてボーマンは驚きの声を挙げた。
「ただの無職のお兄さんでぇす。」
「ゼファーさん、何やってるんですか!? 」
そこに座っていたのは間違いなくゼファーだった。
「昼寝だよ、昼寝。ジョブの無い奴にはギルドは仕事出せない決まりだって言うし、仕事の無い奴には宿は貸せないって言われるし、仕事が無いと飯代も払えないし。そりゃ野宿で昼寝でもするしか無ぇじゃないか。」
そういえば、初めて会った時も木の上で昼寝していたっけなとミントは思った。
「おいおい。そんな普通の無職が魔王の娘の魔力を弾き飛ばせる訳ないだろ? 」
「魔王、魔王って言うけどさぁ。瞬殺しちまったから、あいつの凄さって、よく解んねぇんだよな。」
「えっ!? 」
「俺はゼファー・ゼピュロス。魔王を倒した無職の元勇者だ。」




