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開戦

「さて肴にするには苦いものだ。傭兵王の力量を見るにしては十二分過ぎたな」


アダマティオス四世は天幕の玉座にて黒く鋭い瞳を閉じ愉快そうに歪め言った。少なくともこの世界の常識的に考えて魔法戦で敗北した軍の大将が浮かべる類の表情では無い。


と言うかグルム王国の軍全体が王直魔導師長と言う重役が捕虜になった割にはどうでも良さげで有る。なんだったら水が合わず腹を下した兵が出た事の方が心配されていた。


後に傭兵に聞かれた正規兵達が曰く、アーウルム殿下なら無体な事はしないし魔導師長はこの際死ねば良いのに。


だそうだ。


まぁ、うん。傭兵達の困惑さておき王の出で立ちが戦の時を告げていた。


竜皮の黒い鞘に入った三振りの宝剣を背負い、竜の頭骨を正面から象り両眼に宝石を埋め込んだ装飾の王冠を兜飾り代わりに取り付けた、T字の鼻当てが付いた古代ギリシャの兜コリュスの様な兜。


嘘か誠か黒竜の白鬣と皮を使った黒いマント、幾度も戦塵を潜り突破してきて傷一つ無いアダマンタイトに竜の鱗で出来た黒い銀縁の全身鎧。

視界を取るため肩周りは外套の白鬣を除いて王の体躯に合わせた物で、前面は外套を鎖骨辺りで止めていた。


フォールズにあたる部分には腰のベルトにハの字に吊るされた大腿を守る長めの蝙蝠付に当たるパーツと馬に乗る関係上短めの草摺りが付いている。

四肢を覆う鎧は逆鱗の様に逆立ち黒い竜を擬人化した様な出で立ち。


一挙手一投足が威圧的で破滅的。兜の下より垂れる黒い髭を撫でながら。


「ドルアー」


「はっ」


ドルアーは頭を垂れると地図を持って来させ卓の上に置いた。


ーーーーーーーーー北ーーーーーーーーー

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ー凹

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◯◇ー凹凹

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ーー◯◯凹凹

ーー凸凸ーーー◇ー◇◇◇〓ーーー◯ーー

==凸凸=====◇◇=〓======

ーー凸凸ーーーー◇◇◇◇〓ーーーー◯◯

ーーーーーーー◇◇ー◇◇ーーー◯◯◯ー

ーーーーーーーーーーーー◇ーー◯◯◯ー

ーーーーーーーーーーーー◯ー◯◯◯◯◯

ーーーーーーー◯◯ーーーーーーー◯◯◯

ーーーーーーーーー南ーーーーーーーーー

凸グルム王陣営

凹カテナ・トゥーリムフェルロ古城

◇水

◯丘陵

〓バウバの野戦築城

=ラタ街道


傭兵達は唸った。自身の目で見た水上の要塞とも言うべく陣営。あんな所に陣取られては手の出しようが無い。


それこそ今回の戦争目的が戦争したいからとか言う意味のわからない理由で無ければ少数の兵を置いて戦わず糧道を断つべき状況だ。敵は5、6千で指揮官が傭兵王バウバともなれば割りの良い仕事でもな無ければ自軍が10万でも戦いたく無い。


ドルアーは咳払い一つ傭兵達の注目を集める。


「じゃ適当に魔法戦やったら王が街道に沿って真っ直ぐ突撃するから続け」


笑う所だ。腹を抱えて、無礼に大きな声で笑うべきだ。


だが誰も笑わない。


点在する足場の悪い水溜り、並みの馬なら先ず避ける鋭利な馬防柵、人の腰程の高さも在ろう土壁、並ぶ火砲に矢礫は幾ばくか想像も出来ないだろう。

もしそんな物を正面から越えて行け等とホザくバカがいれば殺されて然るべき。魔法というものがあるからこそ一概に言えないが指揮官として民と軍と国の為に死ぬべきだ。


それこそあの陣容に鉄砲が千丁有れば射程に入って一歩で千人、10歩進んで万人が死ぬ。数万程度の軍なら辿り着いた頃には全滅必至。


だが誰一人笑わない。それは王の率いる第一軍団、黒竜近衛軍団と呼ばれる部隊と宝剣を背負うグルム王国国王がいるからだ。


野戦にて不敗、国王が宝剣を振るようになってからは攻城戦でさえ負け無しの軍である。


この陣営に王が連れて来た、たった2,000の竜翼重騎兵を見れば不思議に思う事ではない。

と言うかドルアーに言わせれば相手が敬愛すべき団長でないのなら竜翼重騎兵500もいれば目の前の軍程度の兵力なら魔法使いがいようが城に篭っていようが無傷で壊滅させられる。


傭兵達の落ち着いた様子を見てからドルアーは一人の男を見た。手入れはされているが傷まみれの革鎧と銃を二本と剣一本を腰に。無精髭と雑に切った短髪に挟まれた顔は小狡く酷薄な顔で筋肉質で骨太だが細い体躯の野盗の如き祖人。


ジロリとにらみ返す。


「何だぁドルアー。その汚ねぇ面を向けてくんじゃねぇよ」


粗暴な声、大小さまざまな傭兵団を恐怖でもって締め上げる盗賊と渾名され傭兵ダンアードは顔を顰めて言った。ドルアーは作り慣れた表情ンニチャァと笑って。


「一人頭銀貨2枚、千人だ」


「ああ“?」


ダンアードは顔を顰めながら宅に肘を突き前のめりに。


「南側側面から気を引く囮を用意しろ。オメェなら用意できるだろ。役に立ちもしねぇゴミ屑共を5千も連れて来てやがるんだらな」


淡々と言うドルアーにダンアードは背凭れに背を預け直しヘラヘラ笑う。


「ハッ、巫山戯んなよ犬のクソ蛙が。国に仕えてまだ数年だってのに、それだけの数を集めんのがどれだけ大変かも忘れちまったのか?」


「ダンアード、塵山の大将が懐かしい呼び方をしやがるなぁ。そらぁコッチがお前らみたいな役ただずにも餌を出してやってるってんだから五千でも少ねぇだろうがよ。


これ以上欲しがんのか、ええ?おい。

湖畔の戦いの時の事を忘れた訳じゃぁあるめぇな。あの時、裏切ったお前にやった様に半殺しにしてやっても良いんだぜ」


ドルアーの眼光、確かな怒りを内包した目にダンアードは脂汗を漏らした。振り払う様に。


「チッ、糞が!コッチは命を賭けるんだからよぉ!!銀版は貰わねぇとやってられねぇぜ!!」


「傭兵でも銀貨3枚が相場だ。塵屑と盗賊に2枚もくれてやるだけでも有り難く思えよ」


「運が良いだけの同類のクセしやがって。同じ穴の狢の死に際に金を惜しむってのかよ!!」


「ほぉ……。なら帰ってきた囮部隊には俺が直々に銀貨1枚をくれてやるよ」


「なっ、テメ。俺を通さずに兵を使う気かコノ野郎!!」


もうドルアーの勝ちが決まった。


「なぁダンアード。こっちとしちゃぁ大々的に宣言してやってもいいんだぜ。決死隊には銀貨1枚、帰って来た奴には更に1枚をくれてやるってな。

そもそも金はかかるしお前と違って惜しいモンだが他の傭兵団に任せてもいい。信用のねぇお前を含めた塵どもが間の抜けた事をしねぇ様にしてやってるんだ。分かってんだろうがよ」


「チッ、俺の集めた兵を俺を通さず使われるよかマシだ。良いだろう銀貨三枚、帰って来た奴に1枚で手を打つ」


アダマティオス四世は随分と自分本位な傭兵と元傭兵の遣り取りが終わると立ち上がる。


「さて……征くか」


第一軍団2,500

第三軍団3,500

ダンアード5,000

トゥトゥトール1,000

その他800


合わせ八千三百のグルム王国軍がついに動く。





ラキは立っていた。土壁の上、馬防柵の隙間で嫌に現実味を感じない光景を違和感と共に眺め立っていた。


湖の様な水溜りが点在する先に敵が並んでいる。兵が横に並び、その左右には対空飛槍を乗せた櫓の様な物が二つ。


己の、と言うべきかは悩ましい所ではあるのだが腕と共に倫理観を食べられたのか、それとも己が存外に耐性が有ったのかは知らないが戦場に立つ現状にあって、奪われる恐怖は有っても奪う恐怖という物は不思議と浮かんでこなかった。


だからだろうか。


整然と並ぶ我彼の陣容を見て、これから始まるのが戦争だと言う事に違和感の様な物を感じてる。何というか一つの精巧で悠々たる絵でも眺めている様な感覚。


考えて見れば昨日の事もおかしな話だ。


必死だったし霧も有った。逆に手に感触も無い。だが自分が奇襲攻撃の初撃を担ったのだ。それは敵を音を立てずに無力化する策だった訳だが、その後に確に自分の魔法は人を傷付けた。


1日経って初陣の浮かれの様な、己が物語の登場人物になった様なある種の陶酔から覚めて思ったのである。


ラキは前の世界で一般人だった。戦略シュミレーションとかも好きだったし兵器なんて物もカッコいいと思う感性はあったが暴力に関しては当然の事として忌避していた訳で。


オレこんなキャラだったけ……?と。


そう、こんな命の危機ある敵陣に突っ込み敵と戦ってスポーツで勝利した時の様な高揚感を覚える様な人間だっただろうか、的な。


何と言うべきか、自分はもう少し優しく脆弱な人間だと思ってた。とは言え違和感程度な訳で、今そんな事に脳を使うべきでは無いと己の両頬を引っ叩く。


「初志貫徹」


正直に極論を言えば恩人であるバウバに、延いてはシルヴァ・アルターに不幸が無ければ何でもいいのだ。


恩の欠片、その一つでも返せれば、それで良い。


「魔法戦準備!!」


背から聞こえるバウバの声と遠吠え、ラキは答える様に。続いてバウバの号令を別の獣人が遠吠えで伝える。


「法陣展開!!」


「オ、オーーーーーーーーーーーーーン」


グゥロアが出してくれた魔導侍兵がラキの喚呼を遠吠えで復唱する。


ラキは楕円形のコンタクトレンズの様な結界の狭間から魔法陣を展開。昨日の様に奇襲をする積りは無いので視界不良になる様な事はしない。


足元の濁った水を浮かせ作るは氷と土の魔法陣。氷で出来た文字入り二重円の中に六芒星を入れた正六角形、六芒星の三つの頂点を中心に三角形を含んだ土の魔法陣。


回り巡りながら広がっていく。


「展開完了!!」


「ォオオーーーーーーーーーーーーーン」


遠吠えを聞くラキの視線の先、敵陣の結界が二重になった。攻撃担当の魔導士が警戒して防御にまわったのだろう。


意味は分からないが遠くから、ラバレロの居る南の陣営から遠吠えが聞こえた。


「撃て!!」


バウバの声、応えて。


「フリーギドゥム・リーネア発動!!」


氷の棒が飛んでいく。出来損ないでヒョロ長くも竜をも殺す一条。


薄っすらだが見える敵の結界が音も無く砕け、そこに測った魔法の追撃が入り込む。


ラバレロの放った水柱だ。内戦の、特に魔導師は身内同士の戦いだから殺意が薄く普通の戦い程に過激では無いらしい。

因みに魔法戦がどうなるか問うたところ「少々、吹っ飛ぶ程度さ」とラバレロは笑っていた訳だが吹っ飛ぶって少々の内に入るのだろうか。


続いて狙った様に落雷が落ちた。勿論自然発生した訳では無くワングォの魔法であり敵を感電させる。


ラキは喚呼してから侍兵の遠吠えを聞き次の魔法陣を展開しながら。


「死ぬんじゃねーかなアレ」


至極真っ当な感想である。


あと顔引き攣ってるのも至極真っ当。


「とは言え堅実だな」


昨日の魔法戦は数が多いとは言え敵がアホみたいに前進してきた。しかし今回は結界の防壁を即座に埋めている。素人目にも分かる程度には規律ある動きだ。


侍兵の一人がラキの言葉に獣人特有の耳をピコピコさせながら笑った。


大団長(バウバ)のバンデ・カメラート。そりゃ昨日の魔法戦の結果を見りゃ数が多いと安易な事は出来ねぇさ」


実践の経験が無いラキは成る程と頷き魔法陣を広げたまま結界を張った。乗馬しながらの魔法を行使する訓練の副産物だ。


結界の合間に入りそうになった魔法と対空飛槍をラキの結界が難なく弾く。互いに千日手と錯覚する程に魔法を交差させ距離を縮めていく。王側の魔法使いは一人づつ脱落していき王太子側も傭兵の一人とラバレロの弟子の若い方が離脱した。


魔導士の質と量の戦いだ。


王側魔導士は魔力酔いの兆候が出れば即座に攻撃担当が結界を張りながら間を詰め隙間を埋める。正に戦い慣れている軍隊の動きであり、魔導士の質という戦の趨勢を決定づける筈の差を、数的に有利とは言え覆していた。


昨日の様な大仰かつ無意味に火で水を飛ばす訳ではなく足元の土を魔法で押し上げたり水を操り放水して足場を作る。


遂に足場は悪いが大砲と巨人の投石が始まり、巨人達が鉄鎖の付いた鉄球を握り回転を始め咆哮と共に放り投げ、馬に引かれた大砲が外され白煙と弾丸を放つ。


魔法戦も攻撃より結界の展開が増え防御に偏重していく。ラキの結界が大砲の弾丸を止め砕け散った。


「……あと一発かな」


ラキもそろそろ感覚的に押さえておかねばならない。侍兵が遠吠えで味方に伝え結界の砕き合いが始まっていく。


「ん?」


感じる違和感、左側の陣が騒がしい。魔法陣を展開しつつもラキが何事かと視線を向ければ轟音と白煙が発生した。


「——!!?」


凄いビックリして危うく魔法陣作り直すとこだった。


「左の陣に敵が少数突っ込んで来たな。あっちはカルコのジジイが率いる岩盾竜傭兵団か?」


侍兵の一人が言う。もう一人が銃を構えながら頷き。


「ああ、そうだな。異名通り敵に何が出来る訳でも無いだろう」


一方、その頃。話題の陣の左翼では現状、マジで傭兵達の言う通りだった。


「サハハハハハハハハ!!

撃て撃て、豪商が火薬も弾も土塊の様に用意してくれたわ!!」


団長カルコの言葉に答える様に馬防柵の隙間から片方の肩に大きな盾を着けた様な鎧を着た兵達が、銃とも大砲とも見える抱え大筒の様に大きな銃を構えて撃ちまくる。


厳密にいうと盾を構えて円錐状の長い槍を構えた剛人の肩に銃砲を乗せて撃ちまくっていた。白煙が消える度に次の白煙と弾丸が射出され敵の体に拳大の穴が開く。


更に彼らの後ろから長大な丸太の如き大砲が空を見上げる様に上を向いた砲口から轟音を。


縦一列、顔を弾き飛ばし腹を抉って四肢を千切る。


「口惜しいわ!!地が乾いておらんで弾が跳ねんのぉ!!」


「じゃから数撃つんじゃろ!ガハハハハハハハ!!」


弾を押し込んだ剛人が砲から離れ言えば狙いを定める剛人が応える。その満面の笑みの先では浮浪者の様な傭兵と言うにも烏滸がましい連中がバラバラ(物理)になってるけども彼等にとって見飽きた光景。


「うーん、おかしいな。腑に落ちん」


その光景に思わずカルコは呟いた。剛人らしいモッシャモシャの髭を岩の様な指で撫でながら。


「ああいった手合いは銃声を聞いただけで逃げ散るモンじゃと相場が決まっとる。どころか厭に統率が取れとるわ」


その答えは浮浪者達が泥濘に足を取られ足を抜こうと立ち往生しながら全滅して漸く現れた。


一人、機人特有の戦装束に身を包む老人が立っていた。弓と身の丈の倍は在ろう刀身の刀と弓の中で最も大きいとされる機人の大弓。


歴戦の強者供が集う岩盾竜傭兵団の面々が青く染まる。


「伝令を!!」


カルコが叫ぶ。獣人が遠吠えで伝えた報告に獣人達が尾を丸め騒めき出す。即座にバウバ側からの遠吠えが響いた。


伝令から命令を聞いたバウバ陣営の中央と左翼の合間に後詰めとして並んでいたへカントケイル傭兵団団長潰門のヤガーナートは頷きながら。


「グゥロアの小僧を向かわせるであるか。現状、それが最善の手であろうな。しかし古の剣豪ともなれば小石の一射くらいは手伝わせて貰うであるか」


ヤガーナートは腰に垂らした紐を握り。


「紐持てぃ、石挟め!!」


号令が空を揺らし発され巨人達が集め足元に置いておいた石を拾って投石紐に。


「転!!」


巨人の体躯に合った紐と石で有れば回転し風を切る音は破滅的な轟々と言う響きを持って友軍の士気をあげる。

大砲と言うものや対空飛槍などと言う物が戦場に現れて尚も消えない巨人達の投石という原始的で絶対的な攻撃。


特に投石紐を使った攻撃は一般的な大砲より長距離な160フェッラリウス(800㍍)の有効射程とそこらに転がる石が巨躯と膂力により必殺の兵器となる安価さ。


活用されない訳が無い。


「射!!」


ヤガーナートの号、紐から放物線を描き味方の頭の上を曲線を描いて越えていく。横に並んだ五十人、一列毎に紐を開放して計十列。


人一人に500の岩の雨が降る。


デュプレックス・クルスティーワン・プロトはつまらなそうに己に降り注ぐ其れ等を見上げ、白く染まる整えられた髭の上から太く真っ白な歯を支える顎を撫でた。

身体を動かしていないと錆び付いて仕舞うからこそ散歩がてら盗賊の部下達の督戦を買って出た訳だが顰めっ面で溜息を漏らすばかり。


水面、と言っていいのか。有りの侭を言えば水の上に立って構えるでもなく戦場の風に白髪を揺らす。


鋭い轟音、重なる岩の雨が。


「帰るか」


老人が呟くと共に石が消えた。


いつのまにか両手で握っていた大きな刀を片手で肩に乗せ陣営に帰る。


水面は小揺らぎもしない。


意味ワカンねぇと思うので説明する。


水の上で降ってくる岩500個を見えに見えない速度で振った刀の斬撃で砂にしたのだ。遠目に見てた剛人達には落ちる岩が消えた様にしか見えなかった。


うん、意味わからん。


だがこの異様な雰囲気を持ったジジイはこう言うジジイだった。ユグドランドと言うか世界に名を馳せる武人の一人で傭兵達の間では軍滅プロト、門斬りデュプレックスなどと呼ばれる。


尚、渾名は誇張でも何でもない事実だ。


グゥロアがカルコの援軍に到着した時、ヤベージジイは既に子供がつまんねーのと石を蹴飛ばす様に戦場を後にしていた。


全軍にヤベージジイが帰ったと遠吠えにて即座に伝えられる。誰もが弛緩した。


ヤベージジイはマジでヤベー。バウバでさえも小さく一息吐いてしまう程。


「ちょアレ!!」


たまたま。そう、偶然にもと言いたいところだが、実際の所ジジイのヤバさを知らなかったラキが敵軍の動きに気付いて声を上げる。


もう一人のヤベーのが現れる。


戦場のド真ん中、ドス黒く染まっていく。


最先頭は黒に銀縁の王冠と全身鎧を纏い宝剣三本を馬の前足の上辺りに付けられた鞘に入れ片手に長大な槍斧を握る王。続くのは半フェッラリウス(2,5㍍)の間を開けて横に25人並び列を作る黒一色の竜の翼を背負う黒い重騎兵。


ラキは思った。無理だ、と。


ヤバいとかそういうレベルじゃない。素人ながら直感的に正しい感想を抱いたのだ。


魔法使いであるラキが危機感に身を震わせる。


その視線の先、戦狂いの王様が余りに無邪気に笑った。


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