横っ面引っ叩く様に
感想ありがとうございます。
上手く締めれず長いですが、暇潰しにでも見てってくれれば幸いです。
良く濡れた船上でドルアーは鼻息を漏らす。先程まで死ぬ程降ってた雨を落とす曇天こそが、今ドルアーの頭上に広がる蒼天よりは心に寄り添った天候だったろう。元傭兵だった故に戦争には慣れているし、戦いたく無い戦に行くのにも慣れている。だが今回の行き先は特段に気の進まない戦場だった。
先ずアーウルムの事が嫌いではない。あの王太子は醜悪な己の容姿を一切気にせず一人の将軍として接し今では手紙を交わす仲だ。
続いて敵総大将がバウバである。傭兵時代のドルアーの渾名は傭兵王の右腕、即ちバウバは敬うべき元上司で自分が将軍になれたのも彼のおかげだった。
そして王がその事を、敵大将がバウバである事を知ってしまったのだ。諌めたり落ち着かせるのが大変なので一刻も早く落ち着いてほしい。マジで。
あとゴミ処理。戦争に面倒事が付随してくるのは軍事関係者にとって不愉快である。
何より。
「あ“ぁ〜嫌だぁあああ。嫁に逢てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。大団長と殿下と戦わなきゃなんねぇ俺を癒してくれぇぇぇぇ……」
美人な嫁さんに会えないのがマジで辛かった。美女と野獣的な意味合いで妖精と怪物と呼ばれる夫婦である。
夫婦仲はとても良く、それはとても良い事だ。だが身体中に戦傷を持つ凶相の部下達がまたかと辟易している程の反応。
「旦那、あれを」
「うわぁ……」
ドルアーは部下の指先を見て最悪の状況に頭を抱えたくなった。有り体に言えば湖に沈むラタ街道の先に堅牢な陣営が立っているのだ。
バウバがユグドランドで戦っていた頃の戦役の中でドルアーにとって印象深い戦いがある。その戦いはバウバの名戦の中でも有名な一戦で、十二倍程の敵を撃退するとか言う訳分かんねぇ戦果を持ってバウバとその部下達の勇名を知らしめる物だった。
見捨てられた形で戦場に残された傭兵達をバウバが取りまとめ、渓谷合間の街道に馬車や魔法で簡易的な防衛陣地を製作して敵を迎え撃ち、自分達を置き去りにしていった鉄砲と大砲撃で敵を撃退。バウバ自身が兵を引き連れ迂回路を通り夜襲を仕掛けてトドメを刺した感じの戦いだ。
対して目の前に広がる丘陵とラタ大河に挟まれた野戦築城は馬車の壁と浅い掘りが重なった程度の物ではない。低いが重厚な石の様な壁と馬防柵に広がる沼か湖とでも言いたくなる様な水溜り。
圧倒的な強化版的な状況である。
「本気じゃねぇか大団長」
ドルアーはさっきまでの情け無い雰囲気を消しとばし愕然と言う。先ずあのラタ大河が氾濫して出来た巨大な湖は進軍が出来ないし、できる状況になっても足を取られる合間に撃ち殺されて壁前の馬房柵までさえも進めない。更にアーウルムとストアが仲が良いのは知っているが大砲の数が遠目に見ただけでだけで三十門はある。鉄砲の数は分からないが大砲の数を考えれば少ない事は先ず無い筈だ。
ドルアーがどう攻略するか考えていると名もなき渡し場に船団が止まる。渡し場を背に野営する為の陣営を設営して軍議が開かれた。
大きなテントの中でワクワクしてる王が携帯玉座に。その左右にドルアーとラフィランが座し、続いて2名の軍政官が来て後は規模名声と縁故等の順番で傭兵団長達が続く。不敵に笑う王の左右に能力のある臣下と強者たる傭兵達が並んでる光景は第三者が見れば威圧的で勇ましい。
でも違う。実態は違うのだ。
ただただ機嫌のいい王が餓狼が逸れた子羊見つけた様な顔で鎮座してるってのが正しく、ドルアーと軍政官は寡黙に座っているのでは無く枯れた雑草みたいにゲンナリしてるってのが正しい状況。
ラフィランが根拠もねぇ慢心に浸って愉悦を浮かべて、年取った王みてーな傭兵と盗賊みてーな傭兵団長がヤバそうな雰囲気撒き散らしてんの。
ドルアーと軍政官、その他ビビり散らしてる傭兵がが不憫でならねぇ。
特にアレなのは狂喜してる王と企む阿呆。確証は無いがドルアーの頭がバーコード禿げの縦バージョンになったのはコイツらの所為だと思う。
……ログラムの事を鑑みてみればアダマティオス四世は周りにいる人間をハゲさせる能力でも有るのだろうか。
ラキのいた世界では有り得ないが、この世界なら……ねーな。
閑話休題。
笑みを絶やさぬ王は戦争始まってねーのに疲れ切ってる将軍に問う。
「ドルアー、アレは傭兵王が采配した野戦築城だな?」
ドルアーは辟易としながら、それを悟られぬ様に満面の、奸臣が阿る様にさえ見える笑みで顎の贅肉をプルプルさせ頷く。
「慧眼、深甚の至りに御座います陛下、アレは間違い無く大団長の物。このドルアーが見ますに最も強固堅牢な防御陣地と言えるでしょう」
「フハハハハハッ矢張りなァッ!!」
感情の爆発っぷりが凄い。声が軍太鼓の如しだ。てか天幕揺れてるからね物理的に。
フルスロットルな機嫌絶頂で深く弧を描く笑みを押さえながら王は言う。
「アーウルムめ、曲がりなりにも此の俺が従えられなかった傭兵王を口説き落とすとはなァッ!!」
それはドルアーも驚いた事だったが、バウバが総大将を受けたのは相手がアダマティオス四世だったからだ。王太子が王相手に野戦で戦うなど選択する事からして不可能で、もしシルヴァ・アルターで籠城戦をした際に何かの拍子に傭兵が暴走する事を恐れた所為だった。
傭兵王と呼ばれた男だからこそ、ラキのいた世界で言うマクデブルクの劫掠ほどでは無いにせよ此の世の地獄を目にした事もある。だからこそ宮仕えを避けていたバウバも総大将になった訳だ。
だが、王はそれを踏まえた上でアーウルムを見直した。こんなハタ迷惑な男だが、王である。理由はどうあれ有能な人材の、特に王好みの有能な将官を登用出来る可能性を切り開いたのだから評価しない訳が無い。
「ああぁ、合間見えるのが楽しみだぞ傭兵王」
空想の美酒でも味わう様に吐息を漏らすが如く。
まぁ正直グチャグチャ言ったけど此のオッサン純粋にバウバと戦えるのが嬉しくて仕方ないだけだけども。
戦に飢えた飢餓ならぬ飢戰の後に名将の戦いとか最高である。常人ってか普通の感覚で言えばサウナの後のコーラ、ダイエット後のケーキ、ダースやらホールでいけてしまいそうな感覚の極み。
機嫌良く髭を一撫で。
「王位をくれてやるとは言ったが、いよいよもって怪しくなって来たぞ。いや、傭兵王の一戦などと言う唆る物を献じられては褒美にくれてやっても良いか。
フハハ、本当に俺を殺せるなら文句は無いのだがな」
一国の主人を殺して見せろって半分マジで言ってるねコノ王様。
さてそんな話をされて気が気でないのがいた。無論ラフィランである。この小物の考えでは先ずドルアーお得意の用兵で乱戦に持ち込み、温存していた王直魔導師全員でゴタゴタを起こし、その合間にラバレロとアーウルムを殺すつもりだった。正確に言うと敗走中のアーウルムを偽名を使って雇った夜盗に殺させるの感じ。
だが、あの水上の砦みたいな場所に突撃したいと考える傭兵は居ない事くらいわかる。そもそも辿り着けないって事に気付いてないあたりアレだが。
まぁ即ち乱戦とか無理だ。
最悪、王が嫌ってる王太子だったら魔法戦で間違って殺しちゃったテヘペロで済むと楽観的且つ確信的に考えていたのだが現状アーウルムの好感度は爆上がり中。
つーか総大将がバウバならアーウルムがいねー可能性さえ出てきた。そんでバウバが総大将ならドルアーも使えない可能性がある。ドルアーの登用された理由を鑑みれば戦い難い相手であろうし、実際に目視した野戦築城を見れば王の騎兵はさて置き傭兵がどうこう出来る物では無い。
ラフィランは非常にマズイと思った。
確かにマズイ。こんな思い付きで考えたアホみたいな暗殺計画を半ば本気で成功させられると思ってたラフィランの頭が。つーか未だにドルアーを手駒だと思ってた辺り頭パーティーセットである。せめて手駒にする相手の人間関係くらい調べろやと言いたくて仕方ない。
小物が小物たる所以というかコイツ栄誉名誉を欲して止まない癖に、こーゆー小狡い事ばっかやっては信用を底に落とし掘削してんのだ。これ以上無いほど信用のない輩として信用のある男だろう。
そしてラフィランは初心に帰り考えた。最悪ラバレロを殺せれば良い、と。何とも嫌な初心だがラフィランとラバレロの能力差は魔法陣込みで一歩劣るが王太子の魔法戦力は最低3人、多くても10人を越える事は先ず無いはずだ。ならば今回、無理を言って十五人の魔導師を連れて来た自分に利がある。
ラフィランは気付かれ無いように平静を装い整った顔に薄い笑みを浮かべて。
「陛下、この王直魔導師長たる私めが一考献上致したく思います」
王の全てを飲み込む、いや喰い尽くす様な黒く鋭利な瞳がラフィランへ向けられる。さっきまでのご機嫌っぷりは皆無だ。王の瞳に恐怖を覚えながらも滔々と吐くラフィラン。
「此度の戦、英雄同士の戦場が泥濘というのは不粋に過ぎます。私めが魔法戦の最中に水を消して御覧に入れましょう」
ドルアーが場を取り持つ様に。
「流石は王国魔導師長、このドルアーめ感服の至。しかし一般論として敵の魔導士が妨害をするのでは無いですかな。近くにはラタの水が御座いますぞ?」
顎の肉を揺らしながら問うた。
「何、こちらは魔導士の数で敵を圧倒しているのだ。尤も王直魔導師長たる私が居るのだから何を不満に思うのかな?」
「ほほぅ。で有れば我が軍団にも仕事が有りそうですかな?」
「ああ、勿論だとも。貴公が武功を挙げる様を拝見させて貰う」
ラフィランは我が意を得たりとしたり顔で王に向き直る。いや全然、我が意を得てないけど。
「陛下、是非に我が魔導を御笑覧下さいませ!」
王はバウバとの決戦に無粋な者が入り込んだ心地だったが。
「良いだろう。やって見せろ」
「有り難き幸せ」
そう言って頭を深く下げたラフィランの顔は罅割れた様な笑顔が浮かんでいた。黒い煙に変わったラフィランが天幕を出ると王は質の違う笑みのを浮かべて玉座の背凭れに身を預ける。
「さて愚か者がどこまでやるか」
そう呟く王の表情は言わば冷笑であった。
「ドルアー、奴はどうでも良い。
だが他の魔導士達に怪我でもされれば大事だ。万が一に備え撤退を援護出来るようにしておけ」
「はは、では機動部隊を集めておきます」
「うむ」
王は傭兵達に期待溢れる笑みを。
「お前達は時が来るまで俺と共に酒でも飲んでいるが良い。
無論、契約は違えんぞ。我等が王国の兵足り得、将足り得る者ならば個で在ろうが群であろうが歓迎しよう」
純真無垢たる傭兵達はタダ酒に歓声を上げ、ある程度の見識ある傭兵達は気合を入れた。
さて天幕を出たラフィランは魔導士達を集め戦争上の最低限の規則を満たす為の兵を集める。作戦を伝えれば露骨な肉壁扱いに眉を顰める魔導士達、単純な話ラバレロの功績の為に盾にしようと言うのは明白。
更にラフィランが自分にだけ侍らす兵士達だ。最低でも五十人程必要な訳だが全員が痩せ細り首と四肢に鉄鎖を垂らした首輪を付けられて虚な表情をしている。
この状況で眉を顰め無い者など居ないだろう。対してラフィランは嘲笑とも取れる人を下に見た様な表情で。
「さっさと侍兵を連れて来い」
見目と反比例する様に醜悪な小物。これだけ不快な存在が何故、魔導師長か。
魔導師達が自分の侍兵を連れて来るとラフィランが振り返る。魔法陣も呪文も動作も無く、突如戦場中央の王側陣地の空に雲を蹴散らしながら巨大な火球が現れた。
そう。ラフィランの魔法使いとしての素養が抜きん出ているからだ。そして故にこそ魔導師達は誰も逆らえないのだ。
小さな太陽と錯覚する様な火球が落ちる。
ジュッ……。とそんな音と共に。
日が沈む如く緩やかに落ちていく。
火球が消え熱波が轟き蒸気を払った後には急激に乾き亀裂が浮かぶ大地と、それを覆い広範囲に広がる霧が残された。
原始の魔法。即応性に富むが魔法の規模と等価の魔力を失う魔法でこの威力。この男は性格はゴミだが見た目と魔力の量だけは一級品だった。
「さて、行くか」
酷く調子に乗った歩みは無遠慮で無警戒。まだ後軍も来ていないのに。
だが、それも頷ける。
先程の火球がラフィランの歩みに合わせて空に現れるのだ。それも横一列に並んで水溜りの端から一気に水気を飛ばしていく。三度も火球を落とした頃には他の魔導士が追い付いて魔法戦が始まる距離にまで水が減った。
ラフィランの左右に追い付いた魔導士部隊が並び横陣を作って長方形のタワーシールドを横に倒した様な結界を貼る。結界の合間の魔法使いは攻撃の為の詠唱と魔法陣の展開を始めた。ラフィランは彼らの広げる魔法陣などは作れないが彼等が作る程度の物には価値を見出さない。
「さて」
ラフィランの遠目に見えるは六つ程の魔導部隊の存在を知らしめる隊旗。中央左側の三本の交差する杖を描いた旗が憎きラバレロの隊旗だ。
敵の防御担当の魔導師達が結界を張った。ラキのよく使う丸い水晶の様な物では無く楕円形のレンズの様な結界だ。霧が晴れていれば遠目にはいくつもの目が並んだ様にも見えるだろう。
だが今はラフィランの火球によってどんどん霧が濃くなっていく。敵が見えなくなる前に攻撃担当の魔法使いが試射を放つ。ほぼ同時に牽制だろう氷の柱が何本か降って来て着弾と同時に罅割れた地面を広範囲にわたって凍らせた。
ラフィランは不快感に顔を顰め自分がこの魔法を使えればと思わず歯軋りを。八つ当たりをする様に世の理を操り火球を矢継ぎ早に落とす。だが大地が乾くに合わせてにラタ大河から水、更に濛々と蒸気と霧が広がった。
「切りがないな。前進だ!!」
ラフィランの命令で前進が開始される。結界を張る魔導師が息を合わせ前進し各隊も前進した。
「中央左側を狙え!!」
距離を近づければ大砲や対空飛槍を併用出来、一つの結界を集中的に狙い破りやすくなる。ラフィランはラバレロを殺そうと魔法を発動させた。それは突風、大地の上を白く漂う霧を丸く吹き貫いて敵の位置を正確に把握する。
だが同時に水量と熱量の所為で霧がすぐに立ち込め視界の悪い中で魔法戦が本腰に。白い霧中で魔法が郁枝交差し敵を狙う。その内ラフィラン目掛けて岩や水、火どころか溶岩、氷に雷が飛来して結界に当たり弾け飛んだ。
「鬱陶しい!!」
ラフィランは何の動作も無しに膨大な量の魔力を使い魔法を放つ。一直線に延びていく青い炎が霧の中に消えていく。
「ッチ失敗だった。霧で効果が分からんな」
言うに合わせる様になんという事の無い様に見える弧を描いて降り落ちた火球の一発が魔導士の一人が張ったばかりの結界に着弾。爆裂の轟音に鳴動した結界がただの一発で硝子の様に砕け散った。
魔導師達が目を見開く。
漸く砲撃を開始した対空飛槍が魔法の曲射攻撃で被害を受ける。攻撃担当の魔導士も盾である結界が無くなった事で自分で自分の身を守らねばならない。
「俺が防いでる間に結界を貼り直せ!!」
魔導師の一人が焦った様に言う。
「流石はラバレロ様だ。格が違う……」
挙句、魔導師達の思いを代弁するかの様に魔導師が言った。
「ラバレロめェッッ!!!」
激昂したラフィラン。左右から聴こえてしまった憎い相手を賞賛する声に反応したと言うには尋常ではない。では何故か、即ち爆発した火の魔法を見てラバレロの挑発と受け取ったのである。
「貴様が魔法陣を教えていれば!!」
目をかっ開いて。
「俺は最強の魔導士になれたのだァ!!」
ラフィランの唯一使える原初の魔法で生み出せる魔法は呪文も魔法陣も不要だ。速射性に優れ型に嵌めていない為に万事において自由が効く。だが同時に魔力の消費量が起こした現象と等価と言う性質上どれだけ優れた魔道士でも限度があり何より回数が撃てない。
魔力を数値化したとして雑かつ下手で大雑把な説明だが。
法陣魔法を使えば100の現象を起こすのに、流れる魔力を10倍にする魔法陣を5使って出し、流すの魔力が10で合わせて15の魔力で100の現象を起こせるみたいな。
法陣魔法は100必要な現象を15の魔力で起こせる魔法、原初の魔法は100必要な現象100には100の魔力が必要。
無論、魔法陣を使う法陣魔法はもうちょっと複雑だが大体そんな風に考えてくれればいい。
速写性には劣るが絶対に習得した方が良い事で有る。
そりゃ魔法使いなら誰だって知りたい。特に自分の魔力量以上の規模の魔法が使えるのは大きな意味がある。ラフィランじゃ無くても知りたがるのは当たり前だった。
だが選民思想持ちの強欲な小物。こんな危険人物に誰が教えるかって話。魔法使いの暗黙の了解で、教えた場合は責任が伴うんだから余計にだ。
「目にもをの見せてやる!!」
んで、そうプライド。誇りでは無く自尊心の強過ぎるラフィランが自分の出来ない事を易々と見せつけられて黙ってはいられない。目を血走らせ両の掌の合間に渾身の雷を迸らす。右手にそれを移し纏わせ掌を突き出し。
「死ねぇッッ!!」
放った。
一線延び行く雷は衝突した魔法を全て巻き込み消滅させながら畝る様に進み結界を一つ砕く。だが新たに何事も無かった様に結界が張り直される。
お返しと言わんばかりにラフィラン側の結界が砕かれた。それも三つ同時に。
更には激流の様な水柱とラタから水が。泥濘地に戻そうと言う嫌がらせ。足元まで水が迫り泥水が一張羅を濡らす。
もう全てが不快だ。
「クソあ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“!!」
ラフィランの喚き声に合わせて正面一帯を焼き尽くし霧さえ吹き飛ばす。
相対する敵陣を睨めばラフィランの膨大な魔力によって周囲の地面が蠢き畝って大地の土塊が頭上に集って行く。空に浮く土塊が球体に代わり固まって圧縮され敵陣目掛けて飛んでいき飛んでいく。
丸い岩山とかしたそれ、敵陣の上に落ちれば転がりまわって陣地を潰すだろう。
ラフィランの射出した山程の質量の攻撃が放物線を描いて敵目掛けて迫る。対して王太子の陣地がある方向から渦巻き登る赤い雷轟、いや雷の様な炎だ。それが岩山を貫き粉砕し焼き尽くした。
自身の魔法を砕かれたラフィランは何故か興奮して嗤う。
「ハハハ焦ったかラバレロォッ!もうその魔法を使うとはな!」
声には出さない。出さないが勝利と共にラバレロの命を手中に収めたと確信した。今の一撃はラバレロの奥義の様な魔法で1日に一度撃てるかどうかの大技だ。
あの魔法を撃ったと言うことはこれ以上魔法が使えないと言ってたも過言では無い。事実、霧からハミ出ていた大きな結果の一つが消えている。
「臭いゲロでも吐くのだな!!」
ご機嫌に言うとラフィランはもう一度掌の合間に雷を迸らせ、更に周囲に雷球を浮かばせる。本命が戦闘不能になれば後は押し潰せば良い。
五条の雷光が轟音と共に霧を貫くのを、確信した勝利に愉悦を浮かべてラフィランは見送る。後は己が雷が敵の結界を砕き攻撃担当の魔導士の攻撃で敵は何も出来なくなるだろう。
敵が結界は維持しつつも防衛陣地を囲う水の維持の為に攻撃を諦め、必死にラタ大河から水を汲むので嘲笑いながら蒸発させてやる。ラフィランはヘラヘラと笑い。
「敵も良くやるものだ。だが流石に霧が鬱陶しくてかなわんな。敵の慌てふためく姿も見えん」
掌を相対させ合間に雷を迸らせ雷鳴が潰え立ち込め始めた霧の向こうで結界が砕けた音が聞こえれば鼻高々に高笑う。
「え、こんな簡単な感じで良いんですかねコレ」
背から気の抜けた声。伸びた鼻を更に伸ばして。
「当たり前だ。この王直魔導師長がいるのだからな」
感嘆を交えた言い様に鼻高々と、イネトスである奴隷の中にも可愛げのあるやつがいたものだと得意げに振り返る。
「ん?」
グルム王国の装衣を纏い胸甲をその下に着た獣人と光人の軽弓騎兵の混成部隊。有り体に言って機動部隊。
ラフィランは首をかしげる。魔導士の侍兵は魔導士を守る為に大抵が盾を持った部隊だ。
その中から王馬に跨る三人。黒曜の如き長髪を後頭部で纏めた青い機甲鎧の腕の長いサーベルを背負う機人。
それと短毛で優美に引き締まった犬の頭を持つサーベルを握った獣人と、年老いて尚も美しいと感じる様な洒脱たる光人の老弓兵が出てくる。
「誰——」
ラフィランが高圧的に問おうとするが呆れた様な顔と突き出された青い鱗の掌を向けてられ口を噤む。広がる雷の魔法陣。
「凄いビリビリビーム」
なんか気の抜ける声と全身を迸る激痛を感じてラフィランは完全に気を失った。
「フゥー……何だコイツ」
ラキは側面を突かれてるのに全く気付かず一人で燥いでた変な魔法使いに対して相応な感想をつぶやき額の汗を拭う。
続けて戦果を眺める。敵の魔法部隊が酔い潰れ倒れており残りは凡そ潰走、いけ好かないマヌケ面の男が痺れてピクピクしている周囲の光景。
この光景を作り出すには簡単だった。簡単だったからこそ感嘆したのだ。
「スッゲェ……マジでバウバさんの言った通りになった」
バウバは微笑み。
「ああ、上手くいって良かった。皆の尽力と協力あってこそだ」
謙遜するバウバにリューネリンは笑う。
「いやいやラキの言う通りだ。流石バウバの旦那だな。本当に魔導部隊を潰せちまうとはな」
「爺ちゃんも凄かったよ。なんか機人重弓騎兵が居るのは聞いた事があったけど、どうやったら馬の上で弓とか射てんの?」
「ん、そうか。ハハ照れるな。経験だよ。
弓騎兵は機人だけのモンじゃねぇさ。それに弓の威力じゃ負けるが手札はコッチのが多いしな」
そう言って光人が使う矢の一つ、先端に長い筒のついた鏑矢っぽい長筒矢を矢筒にしまう。筒には小さな穴が開いていて、矢が射出されると空中に液体を撒き散らしながら飛んでいく物だ。
火矢と一緒に使い油とか撒き散らすのに使う。
「ま、香辛料でもあればもっと遠くから撃てたんだがな。飛距離が上だからよ」
ラキは感心しきりだ。馬とか乗るのさえ必死なのに、その上で弓矢を使うなんて想像も出来ない。
バウバは二人が話し終えると。
「さて、急ごう。予定通り無力化した魔法使いを一人でも拘束だ」
バウバの立てた策は野戦築城を囮とした物だった。雨と川の氾濫で行軍さえ難しい状況に置かれれば攻め手の敵は戦闘できる状況を整えなければならない。
戦場を埋める水を消すと言うのは無茶に思えるが魔法という物が有る世界だからこそ選択肢に入ってしまう。おかしな事に敵の戦争目的が戦闘をする事ゆえに今回の戦いにおいては絶対に取ってくる一手と言えた。
そしてラフィランの事を考慮すれば魔法戦が派手な物に成るのは想像出来た。
ラフィランが力を誇示するのに火球を使ったので不要になったが霧を発生させ紛れて迂回、バウバや獣人の鼻で索敵し敵側面を魔法使いを含んだ最低兵力で奇襲し敵を無力化という物である。
普通、あそこまでガチガチに堅牢な陣地と足場の悪い地形、守りに偏った状況を見ればバウバ側から攻めてくるなど考えない。もっと言えば魔法戦最中に魔法使いの少ない側が攻撃するなど正気の沙汰では無く、またアダマティオス4世の率いる部隊に逆撃を受ける可能性も大いにある状況だ。
アダマティオス4世を知るが故にアダマティオス4世さえ陣地に篭って戦うと考えるだろうその意表を突いたのである。
そんな策を完遂させて誇るでも無くバウバは敵の後軍が来る前に指示を出す。急ぎ目の前に転がる敵の魔導士捕縛を優先した。
「将官も無視で良い。魔導士はだけを丁重に、だがしっかり酔わせ捕らえろ!」
ラキも魔法使いを浮かせ拘束するのだが時間もないので簀巻きだ。目隠しをして強力な酒精に漬けた悪酔いしやすくなる果物の皮を口に放り込み布で塞ぐ。
バウバも敵の魔法使いを拘束しながら。
「敵本体が来るぞ急げ!!」
そう言うに合わせた様に土煙が上がる。魔法戦中の半ばだったからこそ距離を取っていた敵軍が迫った。
「敵軽騎兵だ、欲張らずに退くぞ!!」
号令一下、捕まえた敵を馬に乗せようとしていた者達は即座に馬に乗り手綱を握る。ラキも魔法を使って三人ほど派手で金掛かってそうな服の奴を集めていたが放り出した。
尚、それでも一人は簀巻きにしてアルブトニトゥルスの背に括りつけてる。さっきの一人残されてドヤ顏してたアホだ。
しかし魔法使いを捕縛すると戦争後に貰えるという保釈金が高いらしく少しホクホクしてる。やってる事が実質人攫いだが血みどろの戦争を想像してた所為か感覚が麻痺してる様だ。
あと念押しされたのも有る。魔法戦力を少しでも減らすのが目的だと。
皆、馬を走らせ霧に紛れて逃げて行く。だが最後衛を走っていたバウバが馬首を返した。
「バウバさん!?」
「殿だ。先に行っていてくれ」
気負う事無く言ったバウバはサーベルを抜いた。高らかに掲げた刃に気体の様なものが漂い。
「シッ!!」
短い呼吸と共に落ち、何かを斬り落とす。
地面に落ちたのは真っ二つになった三本の矢。敵との距離は6フェッラリウス程だ。
目を凝らせば機人が長大に過ぎる弓こ構えを解いて笑っている。馬上鉄砲とサーベルを装備した軽騎兵を置き去りにした王馬に跨る老人が追う気は無いと言わんばかり。
バウバが少し困った様にウンブラの馬腹を足で軽く叩いて合図を送った。ラキを追うように王馬二匹が霧の中の駆けていく。
バウバはサーベルを鞘に仕舞いながら。
「今の矢の威力、古の剣豪殿だな」
アルブトニトゥルスに走って貰いバウバを援護出来る様にと魔法陣を構えていた為に先ほどの光景を見ていたラキは思った。
さっき飛んできてたの矢だったんだ。と。
続けてもう一つ気付く。
矢を射ってきたのに剣豪?と。
ラキはバランスを崩し慌てて両手で手綱を握る。乗馬に慣れてない様な者が手綱を握る中で気を逸らすのは自殺行為だ。そもそも戦闘中に下らない事を考えるべきじゃ無い。
気づけばアルブトニトゥルスも走りにくそうである。
「ごめんな」
ラキはそう言って首元を撫でて気を入れ直した。王馬の足故に何と言う事なく陣に戻る。軍を囲うどころか内側にさえ柵が張られている陣の中へ。
「バウバ団長、お疲れ様」
「此れは領主様」
バウバは直々に出迎えたアーウルムに驚きながら下馬して跪く。護衛の騎士であるガルグも居るが傭兵達も騎士達も驚いて慌てバウバに続いた。アーウルムは気にしないでと手を降ってバウバの手を取り手立たせて一兵まで労う。
ラキの前にもやってきて気の抜けた様な顔で。
「機人の、じゃ無いや。竜目潰しのお兄さんは一人捕まえたん、んー……?」
ラキの捕らえた魔法使いを見て首を捻り。
「この顔ってて王直魔導師長じゃない?」
全員の顔がモニュってなった。いや、何かこう……マジでモニュってなったとしか言えない。言葉の意味は判るが理解出来ない困惑といえばその通り。
国の魔導士のトップが捕まるってバカな的な事が有るのかって。
ラキは魔法で簀巻きの、いけ好かないイケメンを愛馬から下ろして後頭部を掻く。
「あの、殿下。御言葉ですがコイツがですか?」
ラキはいけ好かないイケメンを捕まえた時の事を思い出して言う。獣人の鼻で敵の位置を特定して光人弓騎兵が酒精を入れた長筒矢を放ち奇襲をかけた。
酷く酔った魔導士は戦闘不能になったが、魔導士を守る為に侍兵が果敢に防ぎ逃がされる者も出たし、または逆に側面を突かれた時点で侍兵に被害が出る事を嫌がり魔導士自ら降伏する者が大半だったのだ。
魔導士と侍兵の間には確かな信頼関係が伺えたので有る。
しかし今降ろした男は自分達が霧の中で行動したとは言え喧騒にも気付かず一人で燥いで置き去りにされてたのだ。
そんな人望ないのが王直魔導士長だとは思えなかった。ラキだけでは無く突撃を敢行した皆が同じ様に思う。
更にリューネリン老が言う。
「殿下、確かに魔導師長は人望がないとは聞いてましたが魔導侍兵が逃げる事など有り得るんですかね?」
バウバも俄かには信じがたいと頷いて。
「信用の無い者だとは聞いてましたが、ここまでとなると流石に……」
「うん。その人望のなさと間の抜けた行動は王直魔導師長のラフィランで間違いないね」
余りに致命的な物言いだがモニョりっぷりが増した。どうしたら良いんだろうかコノ居た堪れない様な空気。戦果としては後世に稀有な事象として英雄的に語り継がれる可能性がないでも無い感じなのに国一番の魔導士が王太子に人望無いアホと認識されてんのだ。
ラキ的にはうわぁコイツどんだけ酷ぇ事したんだ程度だが、他に人間からしたら笑えねぇ。何せ国の魔導士の長など国策にさえ影響を与える存在だ。
「奴隷の扱いは悪いし災害が起きても何もしない奸臣さ」
アーウルムは嘆かわしげに。
「才能の有だけの男だけど父上だから見逃してるだけだよ」
王太子を知る者程驚く痛烈な評価だ。
しかし、それもその筈。ラフィランは自分の地位を守る為に有能な魔導士や臣下を追い落とす事を平然とやった。
アーウルムも讒言を受け妙な噂を流されたし、ラバレロの二人の部下など実際に追い出され、ガルグも面倒な讒言を食らったクチだ。彼等を始め王には嫌われているが臣民には好かれるアーウルムの友人や知人がラフィランの所為で酷い目にあった訳である。
他にも違法だろう怪しい行動も多く分かっているだけでも挙げればキリがない。
「ラフィラン以外の捕虜はカテナ・トゥーリムフェルロ古城の館に連れて行って。ラフィランには拘束を」
ラキは魔法使いの拘束という言葉が出て一つの昔話を思い出した。端的に言うと悪い魔法使いが懲らしめられる話なのだが、本当に良いのか問う様な顔で。
「酩酊させるって事ですか?」
アーウルムは首を振る。
「泥酔させておこうと思う。
酒精水晶とその種を果汁に混ぜて飲ませたいくらいだけどね。気が向いたら昏睡させたって構わないよ」
酒精水晶とは作物の一つでその名の通り拳大の丸い無色透明の水晶の様な果物の実の事だ。
キウイの様に生えるこの実は成った当初は砂糖の塊より甘いが熟れきっても鉄槌が必要な程に外皮が硬く厚い。その糖分がアルコール化するに従って独特な色が出て皮が薄く柔らかくなっていき、中身がアルコール化すると最後は水晶というより七色の雫の様な形状になる。
大抵は甘みの残っている頃に採取して果汁を水で薄めて飲む物だ。基本は実を絞った果汁に水を足した安価なアルコール飲料を作る作物。
特に剛人が好んで栽培する物で彼等はドゥルグ古語で酒神の落涙と言う意味のディオニュシオスダクリと呼ぶ。
話が逸れた。
他の用途として麻酔に混ぜる素材の一つとして使われる。此方は皮と種を乾燥させ粉末化した物を混ぜて使うのだが、この皮と種は酒と一緒に摂ると死にかける程に酔う代物だ。丁度、リューネリン老が弓で撒いた酒精の正体もこの果実の果汁薄めた物である。
まぁ対猛獣用の麻酔代わりみたいな物でモンスターの拘束にも使用するのだが、コレを使いたいとか遠回しに死んでも良いって言ってるに等しい。
アーウルムが発する言葉にしては過激だがそれだけ恨まれる事をした訳だ。
「じゃあ魔法使いのお兄さん、悪いけど頼めるかい?」
ラキは頷く。領主が足下を指差したのでやっぱりかと。
「ええ、良いですけど本当に埋めるんですか?」
「全然構わないよ」
不貞腐れた様に言うアーウルムに皆がギョッとした。魔導士の、特に自国に加担している存在に対しては余りにあんまりな仕打ちだ。アーウルムが親しみ易いが故に、そこまでするのかという驚きの大きさも尋常では無い。
その反応に更に不貞腐れた様な顔で。
「被害が僕だけなら我慢も出来たんだけどね」
マジで何したんコイツ。ラキはそんな感想を抱きながら人一人、丁度ラフィランの首まで埋まる程度の深さで丸い穴を掘りスポっと簀巻き男を入れ土で固定、酩酊馬乗りシェイクでグロッキーに脱力してるラフィランの口に魔法で果実を皮ごと放り込んで口を塞ぐ。
思わず飲み込んだラフィラン。二つ目の酒精結晶を飲み込んだ顔は一瞬で真紫だ。
「お……ゔェ……」
必死に抑え両頬を膨らませ。
「ゥロロロロロロロ!!」
超、吐く。
生成される吐瀉物溜まり。
酸味のある匂いといけ好かないイケメンの鼻と口からモザイクをかけるべき物がデロデロしてる。バウバや獣人達が凄い顔顰め鼻を抑え、少し遅れてだが獣人以外も。ラフィランが王太子側に与えた最大の被害だ。
ラフィランは口の中の物を必死に出そうと舌を動かす。埋められてる所為で出せないからなのだが地獄みたいな光景。
「うわぁ……」
命令した本人である筈のアーウルムが一番引いてる。ゲロ溜りの中心に人の頭があって、その頭が必死に舌を使って吐瀉物をベロベロ押し出して……。
ドン引くて。
ラキが手を叩く。地獄絵図を土のドームが覆った。臭いのとアホなヤツだなーとは思ってたが流石に不憫だったからだ。ラキが被害を受けていないのもある。九割臭いの所為だけど。
鼻を抑えたバウバが。
「ラキ、それだと息が出来ないぞ」
「ああ、そっか。穴開けないと死んじゃいますね」
状況の流転っぷりと臭いで誰も考えてないけど完全に暗く臭いドームで数日過ごしたら死ぬんじゃねーかなコイツ。主に鼻と心が。
なんか微妙な空気になっている陣に騎士三人が喇叭を鳴らしながら来た。軍使というヤツだ。
まぁ普通なら魔導士が捕縛されれば停戦か降伏ないし敗北を認める使者だが相手が相手である。
先ずは捕虜達の状態確認と保釈金の話、まぁラフィランの状況を見てハハッザマぁみたいな顔した以外は置いといて続いて王の言葉が届けられる。端的にアーウルムに対するおざなりな褒め言葉とバウバに対する熱烈な士官要請もといラブコールだった。
何がヤベーって未だ決着付いて無いからねこの戦。なのに敵総大将勧誘ってマジ、アダマティオス4世の頭ヤバス、略してアタマヤバス4世。
バウバは犬の顔を困り顔にして片膝を突き右拳を地に伸ばし左手を腿に添えて。
「国王陛下の過大にして寛大たる御言葉は我が身に過ぎたる事、御礼の次第も御座いません。しかし昔、傭兵王と呼ばれた者としても、私個人としても受ける事は出来ません」
騎士達は流石だと言わんばかり頷いて軍使が言う。
「その言葉、確と王に伝えます。
あと、此れは個人的な願いですが、俺も元傭兵だったんでサイン貰えません?傭兵王バウバよりって」
「うわ、狡っ!!」
「横暴だー!職権濫用ー!!バーカ!!」
「フフン、煩い役得だ。……アレ、今バカって言われなかった俺は?」
コイツら本当に軍使……?いやグルム王国は元傭兵も多いし脳筋ばっかだしアマチュアがトップレベルのプロを前にした様なものと思えば分からないでも無い。
無いけどね。長身のムキムキ野郎どもが純真無垢なガキみてーな表情するのは止めて欲しい。
「・・・・・」
バウバは三回、皮ベルトにサインして霧の中へキャッキャ喜びながら帰る彼等を見送る。
「私は何をしているのだろうか……」
バウバはかぶりを振った。使者達が遠くに行った事を耳と鼻で確認してから兵達に指示を始める。何せ戦争は未だ終わらないのだから。




