人事を尽くして天命を待つってアレが有るけどデカイ肉をブチ込み野菜が消滅するまで煮込んだカレーは至極とかで良くない? 良くないな長いし
カテナ・トゥーリムフェルロ古城に入ったアーウルム軍は総勢凡そ5,200であった。
内約は以下の通り。
アーウルム私兵団600。
ペイード家騎士団と義勇兵1,200。
ストアの私兵400。
雇った傭兵3,000。
傭兵3,000はバウバを総大将にグゥロア、カルコに兵を纏めさせる。また巨人の傭兵達の中で投擲を得意とする部隊はヤガーナートに一括で統率する事に。
魔法使いは6人、大砲が28門、二連装対空飛槍9門である。そしてラタ大河には三隻のストア麾下の戦艦と、ログラムの戦艦五隻が配置される予定だ。大砲を載せたガレー船でラタ大河の封鎖を目的とした物であるが牽制程度の存在だった。
流石に輸送船団の方は地元貴族であるログラムの出した物だがアーウルムの軍費の半分近くがストアの供出だ。特に火薬などは外界のモンスターに備えてシルヴァ・アルターからは出せないのでストアが山の様に輸入した。
はっきり言ってストアの財力おかしい。大砲載せた戦艦とかポンと出せるモンじゃねぇから。
で、一方ラキはと言うと。
「ぬぉっふぉおおおおおお……」
兵と物資を収容した本陣の対岸に建つ、ひっくり返したバケツの如き石と鉄で出来た塔でラキは顔真っ赤にしてた。ラタ大河封鎖に使っていたとされる鎖を魔法を使って対岸の塔に掛けていたからだ。
もう鎖をかける用の塔についたクレーンもとうの昔に壊れており魔法使いがやるしか無かったのである。
魔法を使ってるのに何か踏ん張ってしまっているが、そりゃぁ岸の塔の間が凡そイーテル・トーリムも有れば然もあらん。勿論その長さな訳では無く中洲に建てられたいくつかの塔に其々封鎖用の鎖が有るわけだが、相応の長さと重さなアダマンタイト製オリハルコン鍍金の極太な輪が連なっているのである。
もう絵面が重い。防衛の為とは言え昔の人はよくもまぁこんなモンを作ったものだ。
「ぬぉおおおおおおおおおおおお……っ」
なんか鱗の手さえ力ませながら魔法を使って高さの割にずんぐりとした印象を受ける塔の天辺まで鎖と共に浮に飛んでいき、固定されたまま錆び付いて動かなくなったクレーンのフックに鎖をかける。
反りの薄い刀の様に弛んと金色がかった銅鍍金の鎖が等を経由して遠い遠い対岸の城に向かって伸びていくのを見て肉の手で汗を一拭き。
「よし出来た」
バウバ曰くあくまでも万一に備えての作業である。敵の戦争目的が戦闘とか言う意味ワカンねぇ物なので無視される事は無いだろうが意表を突かれたり背後に回られると困る為だ。
そもそも本当に封鎖するなら艦艇が倍は必要である。
特に意味もなく手を払い、体を浮かせ空を飛ぶ。広大なラタの水面を見下ろしながら高度を上げて周辺を確認しながら古城へ。
曇天に覆われたラタの川上を見て。
「まぁ、未だ来ないよな。それにしても雲の切れ目ヤベー」
無駄に喋ったせいで口の中ヤケに乾いた。そりゃぁ髪が延びる程の速度で空飛びながらペチャクチャ独り言ホザいていれば当たり前だ。
空を飛んでいるが故に対岸の街道と河に挟まれたカテナ・トゥーリムフェルロ古城がすぐに見えてくる。
ラタ側の一番高い丘に建てられたゴシック建築っぽい外観の館を中心に武器庫と兵糧庫が並びそれらを囲う様に、平地方向に向かって家屋が広がり並んでいた。
外枠を塔と細い城壁が囲っていて砦の様な印象を受ける。てか城塞都市ではあるが九割九部九輪砦の特色が強いのだろう。
北側のラタに沿った城壁の上には大量の朽ち果てたオナガーだとかトレヴュットの様なデカいシーソーっぽい大型投石機とデッカい弩てかバリスタ。そんな兵器を乗せた城壁の門は大砲が出来る前の物故に細身で心細く、そこから階段が続き機能を失った小さな港に繋がっていた。
そんな蔦が絡む城壁に降り立ち、もう一度跳躍して飛び上がり城下を眼下に城館の二階の窓から中に入る。
窓から入室という御行儀の悪い事をしたラキが入ったのは長い卓に大きな地図を置いた作戦会議室だ。
バウバに任務完了と報告をするつもりだったのだが重い空気に口を噤んだ。そんな中でバウバがアーウルムの横に立ち諸将と傭兵達へ淡々と指示を出している。
「街道を塞ぐ様に城の西、半イーテル・トーリムに街道を挟んで陣を貼ります。泥濘地を前に、ラタ大河で側面を守り丘陵を背に本軍を置く。左翼南側は中軍から機動力と打撃力のある隊を配置して万一の備えに」
「王相手に野戦か」
アーウルムの騎士長ガグルが悩ましげに言った。ログラムが溜め息一つ何の慰めにもならないと分かった上で憮然と髭を撫でながら。
「レガリアの三剣を持つ王相手には籠城の方が難しいでしょう。此の地ならば王の騎兵突撃は一度のみに限定されます。そこに勝機はあるでしょう」
とは言いつつ深い溜息を吐く。
王の騎兵。この言葉に辟易と恐怖を持って反応するは普通の事だ。グルム王国に在ってこの言葉に何の反応も示さないのは余程の勇者か余程の愚者である。
先ず持ってグルム王国でそう呼ばれるのは第1軍団に所属する近衛騎兵達の事を指して使われる言葉だった。
王が選び抜いた武人を軍に入れ練り上げ、そこから更に選別された者だけが入る事の出来る軍団。グルム王国とアダマティオス四世が周辺国に恐れられ、臣民に王として認められる最たる理由。
若いキャラコの様な服を纏う水人の傭兵団団長が言う。
「俺は陸の事は疎くてな。強い強いとは聞くが何れ程の物なんだ?
話は良く聞く。敵国の王と宰相を一度の突撃で討ち取っただの、4倍5倍どころか10倍の敵を平然と壊滅させただの、魔法使いを討取るなんて無茶苦茶な噂ばかり。
どれくらい本当なんだ?」
彼は小金稼ぎに来た海の傭兵であった。純粋な好奇心と場の重い空気を読んでの発言だ。
「全て事実です」
「え?いや冗——」
水人の青年は一言を発してから真顔で答えたログラムの顔を見て口を噤んだ。空気の読める青年が粘性がやたらと強い嫌な汗を流す。
若い彼だけでは無い。情報に疎いユグドランドから出向いた傭兵達は皆同じ表情だ。軍事に携わり生業とする傭兵だからこそ、その異常性という物を痛烈なまでに理解出来てしまう。
端的に戦果が異常過ぎる。
もし泰然としたバウバが総大将としてこの場に居なければ傭兵達は皆逃げ出し、彼等らしく利を得て生き残る為に王に雇われに行っていただろう事は想像に難くない程の話。
帰ってきたばかりのラキは置いてけぼりである。戦争とか行った事ないからね、しょうがないね。
報告をし損ねた訳で必然的に居心地ハイパー悪そうに部屋に隅っこで突っ立ってる羽目に。話を聞いてもヤバイとは思うのだがいかんせん実感と言うもの欠け過ぎていて話題に入れない。
あの学校とかで周りの友達が自分の知らない話題でメッチャ盛り上がってる感じ。それの強化版。
徐にバウバが振り返り。
「ラキ。防鎖の懸架、御苦労だったな」
ラキは地獄で蜘蛛の糸を垂らされた様な心地である。何せこの大きな部屋に二十人近い人間が居て自分だけ輪に入れないって気まずいもの。
こう、程よく気の使える人って老若男女問わず良いよね、マジで。
ラキはここぞとばかり鱗の腕を上げて拳を握る所謂ガッツポーズで。
「確りと鎖繋げました。次は何したら良いですかね?」
「ああ、まだ余裕があれば魔導師長殿が陣営の設営をしてくれている。その手伝いを頼のめるか?」
「分かりました。任せてください」
唐突に現れた(様に感じた)魔法使いを冷汗を流しながら独特な視線で探る様に見送る傭兵達。外界と接していない内地の出の傭兵は得てして魔法使いに対する感情に於いて恐怖という代物の比率が強い。
取り分け内地の、特にユグドランド地方ではその乱世っぷりから下剋上や権力大好きな、または権力や地位を求めざる得ない魔法使いが少なくない。そういう意味で彼等傭兵からすれば余りお近付きになりたい存在とは言い難かった。
彼等にしてみれば戦場で理不尽に世の理を捻じ曲げながら自分達を屠る存在という認識が強いのだ。
その上ラキは竜目潰しなんて渾名だ。竜に殴りかかるというキチガイじみた嘘としか思えない事実を叩き付けてくる。挙句、外界の素材の中でも特に高価で高質の代名詞たる竜の素材の義手。
超、怖いって。
そんな存在と親しげに話し剰え親の様な振る舞いをするバウバ。実際にバンデ・カメラートであり傭兵王の大器を見るに加え、彼と彼の信奉者が認める魔法使いに傭兵達はある種の畏敬の様な物を覚えている。
ラキを見送る傭兵達の目はそういう複雑な物だった。
「んじゃ、行ってきます」
「気を付けてな」
シュビッと手を挙げて窓枠に足をかけるラキと穏やかに見送るバウバ。ラキが手をあげるのに合わせてちょっとビクっと身を構える傭兵達。
まぁ、んな周りの必死に隠してる空気に気付ける程聡いわけでも無いラキは漂う様にフワっと浮いて出て行った。
館の横の馬房に寄る。河に行くため出来なかった乗馬の練習をしておこうと考えたのだ。まぁリューネリン老とバウバの好意を無下には出来ないし何より馬に乗って風を切るのは存外に心地良い。
中に入ればリューネリン老の息子さん。父リューネリンの若い頃にソックリだと言われる洒脱で風情のある美丈夫が。馬の練習でお邪魔させてもらった時に40代だと聞いたのだがどう見て20代前半にしか見えない。
見目整った種族筆頭と言われる光人の面目躍如、いや面目ロケットブースターが馬丁達に指示を出していた。
ラキはそんな彼に元気よくズバッと手を挙げて一言。
「お邪魔します」
「おお、ラキ君。アルブトニトゥルスは奥で親父が世話してるよ」
ニコッと笑って手を挙げ返す。
「有難うございます」
ペコっと返礼してラキは奥に向かう。
アルブトニトゥルスはラキの貰った白馬の名前だ。古アールヴ語で白雷と言う意味だそうで足の速い白馬に付ける名の由来としては一般的であった。
しかし普通は白馬に雷の意味のトニトゥルスだけを付ければ白雷の意味になる。だがリューネリン老に色々教えて貰った際に響きを気に入ってラキが付けたのだ。
尚、良い名前だと思って付けたのだが数日経って落ち着いた結果、ラキ的にはちょっと長かったと思ってる。偶に噛むし。
兎も角、馬の顔が並ぶ長い通路を進んで行けばウンブラとアルブトニトゥルス二匹の王馬をリューネリン老が世話していた。
因みにウンブラは影という意味で黒影だ。
ハクライとコクエイ。初期のポ◯モンみてーになった。と言うかハクライはいたな。
老練たる手際で高速だが丁寧に毛並みを整えてる。なんかもうブラシの通った後と先の艶っぷりが異常。元から王馬の毛並みは絹に勝ると言われるが、なんと言えば良いのかブラシ前が絹なら後は表現出来ず、してはいけないクォリティだ。
いわば人間の技じゃねぇ。擬音表現でもツヤツヤで不足に過ぎ、ツヤッツヤでもまだ足らず、トゥヤットゥヤとてもう一歩。
そんな腕を持つリューネリン老に二、三言葉を交わし世話をしてくれた礼を伝えて馬房からアルブトニトゥルスを引いて通路に出て鞍を付け跨る。
「なかなか様になってきたじゃねぇか」
ラキは少し照れて後頭部を掻き。
「有り難うリューネリン爺ちゃん。行ってくるよ」
「気ぃ付けてな」
「うん。行こうアルブドゥ“ッ……」
思いっきり舌噛んだ。リューネリン老は必死に口を抑える。肩はプルプルだ。
「ふぉめん、行こうアルブトニトゥルス」
そう言って赤い顔を伏せたまま馬首の付け根あたりを撫でた。
アルブトニトゥルスは優しい性格だ。耳をパタ付かせ仕方ないと笑うような鼻息一つ歩き出した。
厩舎を出れば蔦の多い家屋群。建築様式的にはバスティッドが近く、何というかアーチ橋の様な土台の上に集合住宅が建ったような街並みである。ここに来た時にバウバに聞いた話では古い時代から湿地帯や川の上の関所など水場に近い場所や山岳丘陵地などで多用される水人の広めた建築様式らしい。
ラキは昔習った高床式みたいなモノだろうかと考えた。
リューネリン老が曽祖父に聞いた話として城の事を話してくれたのだが元々此処にバスティッドっぽい町があり、それから他国との戦の為に城壁を立てたらしい。何でもその完成式典の際に大きな事故が起きて風土病が頻発した為に呪われた地として有名だったそうだ。
ラキは絶対、城壁作って風通し悪くした所為だと思う。湿度高いし砕けた石畳の道は所々陥没して水溜りを作り、そうでなくとも湿ってる。
家屋の壁など石の露出した部分は苔むした箇所さえあり、朽ちた城壁は風化による物だと言うことがラキでさえ理解出来た。そんな物見なくても風雨を凌ぐ陣営にする為に錆び付いてあかなくなった城門を破城槌で壊して入った程だ。
この半壊した城下。月日の流れの無情さとでも言う物悲しさは、まぁ傭兵達が忙しなくしてるから全然感じないけど。
さっきも「窓からウ◯コ放ってんじゃねぇぇぇ!!」とか「下水もねぇから壺ウ◯コまみれなんだぞ!!」とかってド汚ねぇ怒号聞こえたし。
尚、窓からウ◯コポーイは重大な軍規違反だ。それも傭兵団内で厳しく取り締まられる。疫病対策と金稼ぎの一環で厳しい罰がありポーイしたヤツは片付けは勿論の事、便所掃除当番として糞運びをやらされるだろう。
破城槌で壊された城門を潜り城の横のラタ街道に。街道とは言うが此処は大半が船舶輸送が主で整備も行き届いておらず馬車一台が辛うじて通れる様な道だ。
城を出て直ぐの街道は丘陵側なのでだいぶマシな部類で、バウバが陣営を設営した先の街道ともなればほぼ放置された状況で小さな池とか泥の下に沈んでいる様な惨状だった。
城から出て仕舞えば陣営はすぐそこだ。ラキは短距離でも王馬ならば走らせるべきだと言うリューネリン老の言葉を思い出し馬腹をパンと足で。
「駆けろアルブトニトゥルス!!」
待っていたと言わんばかり一嗎、ラタ街道をグンッと駆け出す。
上下する馬体に合わせ足でバランスを取り背筋は鉄心が入った様に真っ直ぐ、ラキの長髪と王馬の長い尾が垂直に一条延びる様は一種絵画の如き光景だった。
因みにアルブトニトゥルスの本気はもっと早い。ラキの元いた世界で言えば時速95㌔から105㌔程だが王馬はもっと早く、その中でも優れた名馬ならば120㌔近くで走れる王馬にとれば今のチャリか原付程度の速度など早歩きでさえない。
まぁ全力疾走とも言うべき速度になると大抵の騎乗者が馬に乗るってかしがみつく感じになるしラキに至っては蝉の死骸になる事請け合いだが。
要はラキの為に普通の馬より知能もある王馬の方が合わせてるって事だ。
「イエーイ!!」
ラキが風を切って進むその心地良さに思わず声を上げて燥ぐ。とは言え距離はない。
陣地は約300フェッラリウスに広がっている。泥濘と沼や池の下に魔法を使って落とし穴をいくつか設置し、次いで長大な堀が引かれ最後に逆茂木と土壁が建てられていた。
もう野戦築城ってか普通に砦の様な有様だがしかし魔法という便利な物が有る世界ともなれば頷ける。実際に大魔導士と呼ばれる様な歴史に名を残す者は城や関門を数日で作り出したなんて話もあるのだから。
この陣営は領主付き魔導師ラバレロが一日かけて作った物だ。ラバレロは魔力酔いにならない様に休んでおり彼の弟子達や傭兵達が陣営の拡大や砲の設置等をしていた。
「ラキ、来てくれたのですね」
大砲を砲台に乗せていたラバレロの弟子、共に外界に行った茶色い短髪の若い祖人がラキに気付いて手を振る。相変わらず小生意気そうな見た目ながら礼儀正しく温和な雰囲気だ。
「ああ、おまたせ。何をすれば良い?」
「ストア従軍商が設営の統括しています。兄と共に陣地北側にいると思うのでそちらへ行けば指示を貰えるでしょう」
「わかった、有難う」
「はい。また後で」
またなと手を挙げてから馬腹を足で叩き馬首を。ラタ大河の方へ向かって行く。
スパルタみたいな格好した商人セレス・ストアと青年に似た二十代程の光人、更に領主麾下の騎士や傭兵団長が数人が周辺の地図を見上げていた。
礼儀正しい小生意気そうな祖人の兄である光人が地図を宙に貼り付けている感じだ。
「ぅうん。ラタ大河側にも土壁を建てる様だね」
「河側も?ですか。軍が回り込めるような地形では有りませんが……敵艦砲への対策でしょうか?」
「ぅんーまぁ、ぅ私は商ぉー人だからぁ、戦場に出る魔導師の君ほど、戦に詳しい訳じゃないからねぇ。ただ傭兵王の策だからやって損は無いのではないかな?」
ラキは下馬してアルブトニトゥルスを撫でながら。
「ストアさん。手伝いに来ました」
真っ赤な外套翻して振り返ったストア。
「ん?おお!此れは、此れは、ゥラキ殿。
竜目潰したる貴方が私如きに敬称など……ストアと呼び捨てにして頂ければ」
ラキは苦笑いで答える。完全年上を呼び捨てはハードルが高い。兎も角、ラキは手伝いを申し出て設営を手伝った。
さて魔導師ラバレロ、騎士長ガルグ、豪商ストアがバウバの指示の元で陣営設置をしている頃領主アーウルム、領相ログラムはラタに浮かぶ船の上にいた。
ログラムのペイード家とシルヴァ・アルターから船を集め物資の輸送と兵員移送をしていたのだ。カテナ・トゥーリムフェルロ古城の港の門が小さくて使えないのでその手前、丘陵の合間に設置された港に荷物を降ろして物資を牛馬や驢馬を使って運搬してるのだ。
自走船に引かれた二階建て箱型艀の屋上でログラムは吐息を漏らす。総大将で有るアーウルムが憂いを隠せずにいたからだった。
カイゼル髭を撫でて溜息一つ。
「仮にも総大将がその様な顔をするものではありませんな殿下」
「ああ、うん。ごめんね」
そう言うとまた流れる風景に憂いを帯びた視線を向ける。
「いずれ起きた事です。殿下がもし陛下に好かれていたとて形は違えど起きたでしょう。それに騎士達は漸く殿下を探す以外の事が出来ると喜んでいますよ」
ログラムは背に投げかけた。
「それも有るけど違うんだログラム。僕はバウバ団長に頼ってしまった。君やストア殿が敵にならない様に遇した彼に頼らざる追えなかったんだ。
それにこの戦いは僕の王の質を見極める物だよ。だけど自分が直接兵を率いる訳でもない。
勝とうが負けようが辛いんだよ」
アーウルムは心情を吐露した。まぁ言ってしまえば己が情け無いと、そう考えてしまっているのだ。
ログラムは——。
「へっ」
嘲笑した。
「え?」
振り返れば細めた目と横に逸らした目、カイゼル髭の下では右の口角だけが上がっている。これ以上ないカイゼル髭のハゲが心底バカにした様な顔。
アーウルムは吃驚である。怒るとか嘆くじゃなくて超、ビックリした。
普通は慰めるじゃん。的な。
死体蹴りにも程があるわ。そんな感じで。
ただログラムは髭を一撫で。
「殿下、貴方は頭の良い馬鹿ですね。
既に殿下は王の資質に於いて陛下を優越していますぞ。先ず軍を率いて敵を屠るなど将軍の務めであり王の務めでは無いのですよ。
王の務めとは言わば人を集め纏める事。万事、出来るに越した事は無いですが出来ぬ事は他人に任せれば良いのです。
殿下で言えば得意な政を成し民と共に有ればいい。
また陛下の登用を拒んだバウバ殿を仮にとは言え総大将に据え置いた。これは軍事に傾倒する陛下とて人事起用の才において貴方を認めざるを終えますまい」
「ログラム……」
アーウルムは少し泣きそうになった。対してログラムはワシッと眉を寄せて。
「あ、でもアレな。民と共にあれつっても脱走止めろよ。探すの怠いからな。
つーか普通に考えれば王太子が護衛も無しにほっつき回るじゃねーよアホ」
いやログラムの雰囲気の一変っぷりよ。
「え、あ、うん」
「あと摘み食いな。料理長は許してるけど私は許してねーから。普通は宴の最中に摘み食いの為に主催者がウロチョロするモンじゃねーからな?」
「う、うん」
「まだあんぞ」
「え……」
ログラムの説教は港に着いても続いた。




