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ラキ・バンデ=クリンゲ

 片腕を横に広げ鷲の爪の様に指を曲げた掌に氷の結晶を浮かせたラキがマフラーとコートに後頭部に纏めた黒い長髪をたなびかせて宙に漂う。


「さぁ、かかって来い!!」


 言うと共に周りには雪の塊が二つ。月の様な形で遠心分離機の様に回り、それに煽られた髪とマフラーが胴体に軽く纏わり付いてコイルみたいになってる。


 マフラーの下では慣れてないのに悪そうな顔を作り大根役者極まった引き攣ってる笑み。ラキのイメージする悪役っぽい感じを頑張って出そうとしてるけど顔真っ赤。


 あと余計かも知んないけど広場の噴水の端でシマエナガ擬きがラキの頭狙っとる。止まる木無いから止まる気満々。


「フハハハハハハ!!魔力の前には全てが無意ミ“ッ!?」


 露出してた側頭部、あと横っ面に雪玉が叩きつけられる。コミカルに両手で雪を拭うラキを見て子供達がキャッキャ笑った。


 まぁ廻葉祭前後は暇なんでゴニャ、グゥクゥ、ラスアスを始めとした子供達にせがまれ雪合戦してるのである。

 広場にラキの魔法でチャチなサバゲーフィールドの様な物を作ってラキvs子供達8人で勝敗も無く雪の投げ合いだ。


 雪拭ったラキは笑いながら。


「やったなーーー!!」


「逃げろーーーーー!!」


 浮かび上がるラキに、いくつもの雪の壁に向かってわーっと言いながら走りだす子供達。子供達は壁に隠れながらスイスイ逃げて行き、ラキは壁の合間を宙を滑って追い掛けて行き。


 雪壁地帯を抜けた子供達に。


「ハハハ!もう逃げられねーぞ!」


 横に手を振って周囲の雪を球に変えて。


「発射ァーーーー!」


 腕を振り下ろす。一斉射される弾幕どころか弾壁と評すべき軍隊の放った一斉射の如き雪玉。


 ……超、大人げねえ。


 6人の背目掛けて飛んでく雪玉が着弾しポスポスと落ちる。キャーキャーと頭や体の雪を払う子供達。


「ハハハ、まだ終わブッ!!?」


 ラキの後頭部に二発着弾。


「俺らのさくせんに引っかかったなー!」


「にーちゃんうちとったりー!」


 振り返ればゴニャ跳ねて逃げ出し、ゴニャの一人称が俺になった理由の祖人の男の子オービンが雪壁の奥からしてやったりと顔を覗かせから逃げて行く。


 ラキは「頭良いな!?」と思いながら追いかけ反撃しようと振り返る。


 背に衝撃、六発の雪玉。一発が顔の横を過ぎ、背に衝撃が二発、足と後頭部に一発づつ、最後の一発がマフラー中に入った。


「チョッ冷たッ!?」


 あったまってた首元に雪、マフラーを引っ張って雪を出そうとするラキ。


「今だー!」


 クァラプの号令。


「え?」


 惚けるラキ。


「わー!」


「やれー!」


 満面の笑みで雪玉を握る子供達、正に四方八方から十字砲火ってレベルじゃねー反撃に会う。


「オヴォォオオオオ!?」


 そりゃラキだって雪塗れになるて。このあと風呂にメッチャつかったのは言うまでも無いだろう。


 そんな感じで廻葉祭前後の正月休み的な期間は近所の子供達相手をして過ごしたりバウバの嫁さん達の家族と会ったりし廻葉祭だ。


 その五日間のうち始日と言われる最初の日に準備をして終日という最後の日に片付けをする。


 間の三日は先ず一年を無事過ごせた事を感謝し、次に其々の生と一族の繁栄を喜び年頃の者がいれば通過儀礼等を行い、最後に新たな年の幸多き事を願う。

 とは言え儀式以外はゴロゴロする寝正月とほぼ変わらんけども。


 一先ず初日なんで飾り付け、それを終わらせたら皆んなで料理だ。


 家の扉に黄銅、あの五円玉に使われる真鍮で出来た金色の草冠の様な輪っか……面倒いので端的に葉っぱだけの金色クリスマスリース的な物を飾る。

 厳密に言うと葉っぱの形とかチョイチョイ違うけど世界樹の葉を模してる感じで、名前はアールヴ古語で光葉輪ルーメンフォリウム・チクルムという飾りだ。


 皆の前でクーウンをバウバが担ぎ上げて扉のドアノッカーの部分に引っ掛けた。


「さぁ五日分の料理だね。気張っていこうか!」


 クーウンの号令一下、調理開始だ。


 バウバは空中に投げた魚を三枚に下ろして俎板に切り身を綺麗に並ばせるとかいう曲芸じみた包丁捌き。


 ミャニャは追加のシュトレン的な物の生地をフッシャと共にビッタンビッタンしながら捏ね倒す。


 クーウンは一人でポタージュ的な物が入ってるだろう寸胴鍋をかき混ぜていた。


 で、ラキは子供達とプリン作る係だ。いつもの様に後頭部で髪を纏めた上でハンカチを頭巾に竜の片腕を掲げ。


「クッキングじゃーい!」


「わーーーい!」


「い!」


 ラキがグレヴァに作って貰った泡立て器を掲げた子供達が続く。


「ゴニャ、グゥクゥ。察してると思うけどメッチャ作るぞプディン」


 フンスと鼻を鳴らすラキに眼を輝かせるゴニャとグゥクゥ。


 尚、もう肉饅はあんまし上手くいかなかったからプリン死ぬ程作ると決めた。

 なんせ初回は肉団子入りオートミールになったし、試作5品目くらいで形状は近いのが完成はしたが何かベチャベチャして心折れた感じである。


 さておき。


「此処に材料があります」


 そう言って先ず袋をズンと。一月分のボーナス全部突っ込んで買ったミャニャの実家の商会で買った白い砂糖。

 続いてドンと木箱を卓の上に、更に缶をドンと置く。リューネリン老の農場から買った卵と牛乳である。


 調理方法はラキが元の世界の家庭科実習で習ったのを覚えており偶に作ってたので完璧だ。


 端折って言えば黄身3対全卵1の割合で卵を用意して砂糖投入し泡立て器で混ぜ、そこに牛乳を軽くあっためてから少しづつ投入して混ぜる。


 それを濾して瓶に入れ二回に分けて蒸せば完成だ。


 余った卵白はクッキー予定である。砂糖を混ぜてマヨネーズみたいになったバターに追加してまた混ぜ、続けて小麦粉ブチこんで頑なに混ぜ、バニラエッセンスは無いのでそのまま焼けば良い。

 まぁメレンゲをプリンに乗せても良いと思うがサルモネラがあるかどうかは知らないが怖いのでパス。


「じゃ、先ず卵を割ります」


 で、指擦ってパッチン。一動作で卵黄に卵白と全卵が別れてボールに入る様は風情が無いけど羨ましい。しかも、いつの間にか消えた卵の殻は粉々になってゴミ箱だ。


「んで砂糖ドーン!結界張ってギュイーン!」


 言語が擬音化してるけど砂糖を投入して結界の中で鳴門海峡の渦らせ、一方でゴニャとグゥクゥと一緒にバターをボールと泡立て器を使って混ぜる。


 まぁ、全部魔法でいいじゃんって言ったらその通りなのだが、それは少々不粋と言うやつだ。


 とは言え。ラキ達はなかなか混ざらないバターに四苦八苦し。


「冬だからか硬いな。ゴニャ、グゥクゥ、バターちょっとだけ温めよう」


「うん!」


 ゴニャは元気よく返事をしグゥクゥはボールを差し出す。10秒弱、電子レ……ラキがボールに手を添えてバターが良い感じに柔らかくなる。厳密に言うと少し力を入れたらスンと切れるくらい。


 後は特に難しい工程も無く進めていきクッキーを焼けば次はプリンだ。型に流し込み其れ等をトレーに乗せ濡れた布を被せ結界を張る。ラキが鱗の拳を握り下に下ろして砲口を露出させアッパーの様に突き刺した。擬音表現するならシュゴォッッって音と共に一気に蒸気で白くなる結界。白雲を丸く固めた様な光景に魅入る子供達とフッシャ。


 そんな四人をを微笑ましく見ていたバウバは寸法狂ったデカイ鮭とでも言えば近いだろう魚の切り身に軽く塩を振り水分を取る。


 続けてチーズや腸詰肉の準備も終えて。


「さて、私は燻製機の準備をしてくる」


 そう言い食料庫に入っていった。やけに真新しい細長い木箱の横に大きな布をかけられた円筒が鎮座している。埃除け用の布を取れば四つ足の着いた扉付きのドラム缶と言えば形状的に近しい燻製機。


 けど何か木製部品に揺蕩う煙のドゥルグ彫刻があしらわれてて高そうだった。煙を象っているのに力強さを感じるというドゥルグ彫刻らしさが出て過ぎてる。


 そんな燻製機を開き腸詰肉を吊るして、網の上にチーズだのサーモンっぽいのだのを乗せ、香り付け用の木のチップの袋を開けて入れて。


「しまった火を忘れた。ああ、これには匂いがついてはいけないな」


 そう言って細長い木箱を担いで倉庫の出口付近に置いた。


 んな感じで二日目。ラキはリビングの中央にデンと鎮座してるクーウンとフッシャが作った人の顔よりデッカい砂糖抜き甘く無いシュトレン擬きを切りながらふと問う。


「明日ってゴニャやグゥクゥが一定の歳になったら通過儀礼する日ですけどどんな事をするんですか?」


「私達獣人の場合は15才になると族証器を授かり、それと儀盾を用いた儀式を行います。族証器を身に付け毛皮を纏い儀盾を噛んで吼えれば万象の霊が纏名(まといな)を毛皮に記してくれるんですよ」


 ラキと同じように切ったパンに収穫祭の時に作ったジャムを塗りながらミャニャが答え続けて。


「そう言えば成人の儀式、ラキちゃんのはどうしましょうか?年齢もわかりませんし」


「あー俺、年は幾つなんでしょうね……。ついでに祖人の通過儀礼って何なんですかね?」


「確か一年間旅をさせる習わしでしたね。旅の準備が儀式です。今だと廻葉祭後の休みの間に隣村へ行く程度らしいですけど」


「うわ、俺ある意味この前リューネリン老の領地に行ったから終わらせちゃったみたいなもんですね」


「そもそもラキならピーラータ・ポルトスまで一っ飛びだろうしねぇ」


 そう言って話に加わったのはクーウンだ。家事上手で働き者なのもそうだが動くのが好きな彼女がソファーに寝転んでいるのを見るのは初めてである。


 昨日作ったスモークサーモン的なのを食べながら琥珀色の酒のを味わっていたバウバが杯を口から離す。強い酒精を含んだ吐息は満足げで、燻製の芳醇な香りが染み染みと混ざっている。


 様になり過ぎててあのーアレ、超ヤバイ。


 獣人特有の豊富な毛の生えた耳を少し揺らしたバウバは言う。


「ピーラータ・ポルトスか懐かしい。あそこの海賊提督殿とは良く同じ船に乗ったものだ」


「船に乗ったの!?」


 眠そうにしていたグゥクゥが目を輝かせて問う。最近、ラキが海戦の昔話を魔法を使って見せたから船にハマってるのだ。特にシルヴァ・アルターに無い巨大な帆船に。


 バウバは頷き。


「ああ、昔の話だ。初めての提督の船に乗ったのはまだ彼が海賊で、私がユグドランドを離れ南の国へ行く時だった。

 私に付いて来た者達と共に海賊だった提督の補充要員の海兵として乗せてもらう事になった。私は兵長となるのかな?」


「兵長?」


 ラキは船の兵長と言われて想像ができずに思わず口に出た。帆船の戦いと言われても大砲の撃ち合いをしてるイメージが強かった為だ。

 それに態々兵なんていなくても乗り込まれたらみんな戦うんじゃねーの?的な。


「単一船における階級とでも言えば良いのか、端的に言えば船長の下での役職だ。

 他に帆長、路長、砲長と言うのがあって戦闘の際に兵長は白兵戦を得意とする者達を指揮し砲兵や船員を守った敵船に乗り込むのが仕事だ」


 まぁ、考えればわかる話だ。治安維持にも必要だし、船の戦いが砲撃戦のみな訳が無い。

 そもそも十数人程度の船員しかいないんなら兎も角バウバの乗った船は数十人の乗る船なのである。敵が乗り込んで来たからと砲手や船員が応戦して死んでしまうと反撃や航行が出来なくなってしまう。

 故に彼等を護衛する兵が必要なのだ。また上陸戦などでも砲撃支援を受けた突撃の為に砲撃戦とと白兵戦をする兵は分けねばならない。


 長くなるのでさておき。


「その時の乗艦は二回層砲列甲板の50門艦リベリタス号。海賊の乗る船としては最大級の船でステイセイルどころかスタンセイルまで付いていた」


 ステイセイルってのは船首からミョイーンと伸びてる棒とマストの間、またはマストとマストの間に付いてる三角帆。んでスタンテイルってのは風が弱い時に帆の面積を増やすのに使う補助の帆である。


「帆は黒く、船体は赤に白い線が入っていた。刻印帆と水晶球儀が付いていて風下から風上へ行く事も出来る優れた船だった」


 目を輝かせるグゥクゥを撫でながらバウバは語った。流れる潮風の香りと毎日酒を飲む陽気な海賊達、一週間以上船の上にいると体臭で鼻が曲がりそうになる地獄。音楽の様に砲が鳴く血肉沸き上がる戦いと、永遠にさえ終錯覚する様な騒々しく身魂沸き上がる宴。


 思わず聞き入っていたラキは子供達の目の輝きっぷりに石を出してニュイっと。デフォルメされた巨大なガレオン船が波を割いていく石像を見せて。


「こんなかんじですかね」


「あぁ、上手いな。船首に三角帆を付け、真ん中のマストの左右に縦帆を加えるとそっくりだ」


 指鳴らし追加して。


「ほい二人共」


「わー!」


「ありがとうにーちゃん!!」


 余ったプラモくれる兄ちゃん感。……感と言うかそのものか。地味に海の部分と切り離し可能な拘りッぷり何なん。


「ラキは玩具屋になるべきかも知れない」


 ちょっと欲しそうな顔したフッシャが言った。本当に凛々しさどこ行ったんだろうかコノねーちゃん。


 まぁラキも既にフッシャに凛々しいイメージなど抱けてない。実際に同じ物作って渡してるし、フッシャもフッシャで子供みたいに目ぇ輝かせてるし。


 廻葉祭の二日目をバウバの冒険譚やクーウンの狩猟話ミャニャの遠方地の話を聞いて過ごし翌日。


「プリン超美味ぇ」


「プディン!プディン!」


「プディン!」


「はぁ〜〜」


 ラキ、ゴニャ、グゥクゥ、フッシャの(精神)子供組がプリンをしこたま食ってお腹ポンポンしてるのを(精神)大人組三人が同じくプリンを食べながら微笑ましく見てる。


 うん、ポンポンぐ……子供組の方はどんだけ食ったんだってくらいプリンのカップ周りに積まれてる。わんこ蕎麦ちゃうぞわんこプリンやぞ絵図面が。


 微笑ましく時が過ぎて行き中刻四鐘(12:00)の鐘が鳴る。年唯一この時のみに響く終始の鐘。


「さて大樹に祈るか」


 バウバが立ち上がり己の族証明器のサーベルを鞘に入れたまま机の上に置かれた刀置きに。バウバが目を閉じ皆が続いて。


「大樹よ、万象の霊よ。我等が安寧を見守り給え」


 皆が見守り給えと復唱し、揃って黙祷を。


 数秒。


「さて」


 バウバの言葉で目を開く。


「私達と共に新たな年を迎えたラキ。

 この男と共に数ヶ月を共に過ごし絆を深め終始の鐘を共に聞き大樹に祈った今、新たな年と共にラキを同胞として迎えようと思う。家人達よ依存はあるか」


「え?」


「我、クーウン・ヴォルウ・ランツェ=クリンゲ異存無いよ」


「我、ミャニャ・ルクス・ドルヒ=クリンゲ有りません」


「我、フッシャ・シャム・ポウ=クリンゲ無論、無しです」


「ゴニャ・クリンゲないよー!」


「グゥクゥ・クリンゲないー!」


 ラキが唐突に始まった何かに首を傾けてるとバウバ一家が笑いながら。バウバは微笑みながら。


「シルヴァ・アルターがクリンゲの一家長バウバ・ドゥーベル・クリンゲが家人と共にラキを我等がカメラートと認める。この絆が途切れぬ事を願い族証器と絆名(ほだしな)バンデ=クリンゲを送る」


 ミャニャが細長い木箱から美しい装飾の箱を取り出す。それを開くと青に銀装飾の施された鞘に入ったサーベルが。


 クーウンが鞘を握ってバウバに護拳の付いた柄を向ける。


 バウバが鞘に合わせた突貫魚の皮に銀線を巻いた青い柄を握り鞘から引き抜く。

 刃渡りは凡そ20パンドス(1㍍)で反りは浅く厚みがある。刀身の長さと厚さに合わせて柄は長く両手で使える様になっていた。


 ラキの鱗の腕に合わせた蒼い逸品。


「え、とバンデ・カメラートって文化まだ残ってたんですか?」


「ああ、今もまだ残っている。獣人が定住そするようになって少なくなったがな」


 バンデ・カメラートとは獣人の習俗の一つだ。彼等はまだ人類がユグドランド地方のみに生きていた頃、平原に住んでいた遊牧民であり、交易と牧畜を生業とし様々な土地を行き来していた。


 故に信義と結束堅く、何より情深く。情深き故に立場と住処無き者を拾う事が多々あったのである。彼等を獣人達は仲間、カメラートと呼びカメラートの中で特に絆を深め認めた者をバンデ・カメラートと呼んだ。


 そして古い時代の英雄の中にはバンデ・カメラートとして絆名を持つ者が多く、ある種古い時代における英雄の要素の一つであった。


 流れ者のラキが其れを名乗れると言うのは大きな意味がある。

 絆名を貰った者は言うまでもなく獣人に恩があり、彼等の恥になる様な事を嫌い素行の良い者が多い。それも古い時代の物語として残る程にだ。


 まぁシルヴァ・アルターで気の良くてアホなラキの事を不安視する者などいないので役に立つとしたら外に出た場合のみだが信用と言う大きな物が保証される。


「ラキ、私達は竜からゴニャとグゥクゥを救ってくれた事を深く感謝している。是非とも絆名と族証器を受け取ってくれ」


 バウバはクーウンから受け取った鞘にサーベルを仕舞い差し出す。ラキは両手で受け取り。


「有難う御座います」


 美しいサーベルに釘付けになりながら。多過ぎて口に出来ない感情の代わりに己が名を漏らした。


「ラキ・バンデ=クリンゲ」


 バウバ達には良くして貰っているし深い仲だ。彼等を信頼しているし彼等の為になら命の一つや二つ張る覚悟があった。

 また同時にバウバ達もラキに絶大な恩を感じ何より信頼を置いている。そんな事は言葉にする必要も無い。だがその手に握る証明の有無が大きい物なのは確かだ。


 なんと言えば良いのか、ラキは嬉しさに身悶えながら腰巻に挿しす。バウバ達は室内だと言うのに嬉しげにサーベルを身に付け輝く刃に魅入るラキを微笑ましく眺めた。


 尚、腰に武器を吊るして生活した経験が無いので二回くらい扉とか机にぶつけた結果抱えるようになったと此処に記しておく。


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