告白の仕方
あれは僕が小学校5年生の時である。
「おい、お前!ぼくの家来にしてやる」
当時の僕はとにかくやんちゃだった。
母親に幾度となく悪さをして怒られたことやら。
そんな僕は当時、好意をよせていた桜木楓の事が好きで彼女にたいし何度も告白していた。
これが告白とは思われないが僕にとって、これが桜木に対する告白であった。
もちろん玉砕されるのだが彼女の事が好きであった。
当時の僕は坊主頭で身長は小学校5年生にしては高いほうである。
対する桜木は背が低く根暗であったが、たまに見せる笑顔が可愛かったのを覚えている。
彼女の母親と僕の母は仲が良く、よく彼女の家に行って遊んでいた。
その時くらいから僕は彼女の事が好きだったのだが、やんちゃな性格もせいもありイタズラしては彼女の母親にも怒られた。
彼女の母親は茶髪のいわゆる元ヤンであった。
その当時は分からなかったが今では分かる。
彼女の母親の説教はマジで怖かった。
そんな僕たちは、小学校6年の時に彼女の父親の転勤で彼女は引っ越してしまった。それから僕は女の子と話す事なく社会人になった。
高校を卒業してすぐに就職し家から電車にのり隣街で働いている。
やんちゃの性格は今では治り爽やかな青年へと成長したのだった。
僕の名前は青木賢吾、今年で22歳だ。
身長は170センチと高くもなく低くもない。
髪は黒髪のスポーツ刈りだ。
彼女と別れて以来、女性と話す事が苦手になっている。
もしあの時、彼女と付き合えてたら話は変わってたかもしれない。
中学を卒業し、高校を卒業してからも彼女の笑顔が忘れないのだ。
そんなある日、実家で一緒に暮らしている母親から彼女の母親を隣街で見たと言われた。
母親は彼女の母親が引っ越してからも電話でやり取りしていたが次第にそれもなくなり今では、どこに住んでるかもわからない。
そんな時、母親がそれらしき人を隣街のデパートで見かけたらしい。
その時、彼女はいなかったらしいが間違いと言っていた。
声を掛けようとしたが見失ってしまったとの事だったが、その情報は僕に活力を与えた。
今日は仕事が休みなので電車で彼女の母親を見かけたと言うデパートへ行ってみた。なんで行こうと思ったかわからない。
たぶん心の中で何かが引っ掛かっていたんだと思う。
買い物目的ではないがデパートをブラブラし彼女の母親を探す。
「はぁーやっぱり、そんなうまくいくわけないか」
そう思いデパートを後にしようとすると、見たことのある女性が目の前にいた。それは間違いなく彼女の母親であった。未だに茶色い髪で肌が透けて美人である母親も俺に気がついたようだ。
「あらっ…もしかして賢吾?」
「はっ、はい」
やはり、この母親の前では緊張する。昔、怒られたトラウマである。
「やっぱり賢吾なのね。大きくなったね」
彼女の母親より俺は背が高くなっていた。母親は僕を眺めるに見ている。
「心愛さんもお元気そうで…」
心愛とは彼女の母親の名前である。元ヤンにしては可愛らしい名前である。
「どうしたの?こんな所で!まさか私を探してたりして?」
その言葉に僕は目をキョロキョロさせ動揺していた。
「まさか本当なの?」
その言葉に僕は頷いた。僕は彼女の娘の桜木楓の事が気になり探していたと素直に話す。心愛は、その言葉に嬉しそうに微笑んだ。
「まさか、まだ楓の事が好きだったなんて、一途だね賢吾も。いっそ嫁にもらって頂戴!」
「えっ、いやでも」
「何、本気になってるのよ冗談よ。でも嬉しいわ。私も若かったら賢吾のお嫁さんになってあげたのに」
「えっ…」
一瞬固まった僕の脇腹に彼女が肘うちをかます。
「ふっふ」
彼女は笑い、そして僕を彼女の自宅へと案内してくれた。
まだ脇腹が痛いが気持ちは良い。けっしてマゾではない。
楓に会えるのが嬉しいのだ。
だが心愛は言う。
「昔は元気だったけど引っ越してから元気がなくなって、あっ大学には通ってるんだけど男性恐怖症でね、あのこ。賢吾をみたら、どんな反応するか」
その言葉に僕は顔を歪めた。
もしかしたら、それはきっと僕のせいかもしれない。小5の時、彼女を傷つけたのは僕かもしれない。
「おばさん、僕が悪いんです。楓ちゃんに、ちゃんと告白していれば」
その瞬間、彼女の肘うちがまたもや僕の脇腹にヒットした。
「誰が、おばさんだって?」
どうやら触れてはいけない言葉だったらしい。母親は般若の顔をしていた。
だが直ぐに元の顔に戻り笑顔で言った。
「賢吾が悪いことなんてないさ。あんたが告白するたびに楓は、賢吾の事になりムキになってたよ。あんなの告白じゃないって」
「それって?」
「そのまさかよ。楓も賢吾の事が好きだったのよ」
「えっ!?」
彼女の言葉に僕は内心、心が踊っている。それを翻すように彼女は言った。
「いい?楓は今、男性恐怖症なの。賢吾でも、どうなるかわからないわ」
「はっ、はい」
俺は心を落ち着かせ彼女に言った。
「彼女を幸せにします」
その言葉に彼女は笑った。
「気が早いわよ」
そう言っているうちに楓がいる家についた。
「くれぐれも注意してね」
「はい」
玄関をあけ母親が家の中へはいる。
可愛い靴がおいてあり、それが楓の物だと僕は悟った。
「楓!賢吾がきたわよ―」
心愛が大声で楓を呼ぶ。
その瞬間、足音が玄関の方へと近づいてきた。
そして僕の前に女神が現れた。
端正な顔に黒髪のロングで長いワンピースを着ている。
その足は素足であり彼女の綺麗な脚が見えていた。
「賢吾!賢吾君なの?」
「あぁーそうだよ。僕の家来になってくれる?」
小5の時、言った言葉を口にする。
男性恐怖症と言っていたが楓は喜んでいるように思える。
少し照れているのか彼女の顔が赤い。そして僕に言った。
「家来じゃなく、お嫁さんにして?」
(あぁー今になれば分かる。これが本当の告白の仕方なんだと)
僕は彼女の手をとり、そして言った。
「僕のお嫁さんになってください」
その言葉に楓は更に顔を紅潮させた。そして僕も頬を赤める。
その僕達の様子を心愛は嬉しそうに眺めていたのだった。
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