第73話 難しい交渉
シーベルエンダは、ボリッドメントの西方に位置する。
この二国は、それ程仲が良いとは言えない。とはいえ、戦争状態というわけでもなく、交易は普通に行われている。経済的に優れた国家同士、ドル箱路線だ。
道も素晴らしく整備されており、広大な道路が直線的に繋がっている。
パレット達はこの道を行く。馬で走れば、そんなに時間はかからないだろう。
「シーベルエンダか……。懐かしいですね」
エステルはそう言った。
「エステルさんは行ったことあるんですか?」
パレットは聞く。
「子供の時にね。凄く素敵な所だよ。ご飯も美味しいしね」
エステルは言った。
ご飯のおいしさはパレットもよく覚えている。
壮大な道を、馬車がどんどん駆けていく。交通量の多い大通りというわけだ。
海の青と木々の緑が映える。雲一つない大空だ。
「なかなか爽快だな。交渉も上手く行けば良いが」
グラシアは言った。
「そうですね」
パレットはそう言った。
シーベルエンダが見えた。山の上から、城壁都市が見える。
「前に来た時は海からでしたから、また違いますね」
パレットはそう言った。
「へえ、そうなんだ。綺麗だよね、あの街」
エステルは言った。
シーベルエンダの門にたどりついた。門番が武器を構えている。
「すいません、入国したいのですが」
パレットはそう言った。
「どちらから?」
門番は聞いた。
「ボリッドメントです」
パレットは言った。
「何か通行手形のようなものはありますか?」
門番は聞いた。
「これです」
パレットが示す。王に貰ったものだ。
「よろしい。お通りください」
門番は通した。
シーベルエンダに入った。相変わらず、多様な香り、色彩。華やかな街だ。
それらを抜け、城塞へと辿り着いた。
城塞の門は厳重に閉じられている。
「何用だ!」
叫ぶ城塞の門番。
「ボリッドメントからの使者です」
パレットは言った。
「ボリッドメントの使者だと!? 少し待て」
門番はそう言って、中の兵士に指示した。
しばらくすると、兵士が戻ってきた。
「ボリッドメントの使者などと女王陛下は会われない」
門番はそう言った。
「それは困りましたね」
パレットは困った。
「私はセラの王族なのですが、それでもだめですか?」
エステルが聞く。
「セラの王族ですと? 失礼ですが、どなたです?」
門番は聞いた。
「セラ第一王女、エステルですわ」
エステルは言った。
「な、なんと!? 少々お待ちを……」
慌てて中に走っていく兵士。
「失礼しました。では、お入りください」
兵士はそう言った。門は開かれた。
パレット達は内部に入った。多くの兵士が、パレット達を睨み、警戒する。
「あんまり歓迎されてるようには見えないね」
グラシアはそう言った。
「恨まれてますねえ、ボリッドメント」
エステルはそう言った。
玉座の間へとたどりつくパレット。多くの兵士が警戒している。今にも飛び掛かってきそうだ。
「良く来られた、エステル殿下」
女王ジェルメーヌはそう言った。エステルとは同じ銀髪、同じ緑の瞳。よく似ている。
「お久しゅうございます。子供の頃以来ですね」
エステルはそう言った。
「そうだな。大きくなられた」
ジェルメーヌは目を細めていった。
「それでお前たちはボリッドメントから来たとか。何の用だ」
女王は聞いた。
「はっ。ボリッドメントと、不可侵条約を結んでいただけませんか」
パレットは言った。
「断る」
断言する女王。
「そりゃまたどうして」
グラシアは言った。
「民を虐殺する国家と条約を結ぶなどあり得ぬ。論外だ」
女王は言った。
「ボリッドメントの王は教団が盗賊団と繋がっていたと言ってましたが」
エステルは弁明した。
「そんなの信じられん。騙されてはいけませんよ、エステル殿」
女王はそう言った。
「まあそれはともかく、不可侵条約を結んでいただけませんか? そちらに不都合は無いでしょう。そもそも、ボリッドメントに侵攻されるおつもりなのですか?」
パレットはそう聞いた。
「はあ? そんなわけないだろうが! お前らと交渉の余地などないと言っているんだ! 帰れ! さっさと帰れ!」
かたくなな女王。
「陛下。不可侵条約だけなら、デメリットは無いかと思いますが」
大臣が言った。
「メリットもないだろう。ボリッドメントが守るとは思えんし」
女王は言った。
「そんなことはないですよ。ボリッドメントと言えども、条約を守らなければ信頼を失います。私が守らせますから、どうか……」
エステルは言った。
「あなたにそのようなことはさせられません。……、まあ、不可侵条約を結ぶだけなら別に構わんが」
考えを変える女王。
「それでは、ここにサインを」
条約書類を差し出すパレット。
ひととおり目を通すと、女王はそれにサインした。
「ありがとうございます、女王陛下」
パレットは言った。
「エステル殿に義理を通しただけだ。ボリッドメントのことは信用ならん」
女王は言った。
「そのように伝えます。では、これで」
パレットはそう言って、下がった。




