第64話 愛されること、愛すること
「それじゃそろそろ行こうか」
パレットは言った。
「いやいや冗談じゃないよ。色々準備もあるしさあ」
エステルは言った。
「へ? 何が?」
パレットは聞いた。
「何言ってんの!? 私は女の子なんだよ! 色々荷物だってあるでしょうが! 馬車の手配だって必要でしょうに」
エステルは怒って言った。
「荷物なんか不要だよ。私飛んでいくしさ。エステルは私につかまってくれればいいんだよ」
無茶を言うパレット。
「はああ!? 冗談でしょう!?」
ビビるエステル。
「私は冗談なんか言ってませんけど……」
しれっというパレット。
「はあ、わかったよ。でもさ、ひとまず今日は休もうよ。少なくとも、路銀は必要でしょ?」
エステルは言った。
「まあ、路銀ならいくらでも作れますけどね」
作れちゃうパレット。
「そうなんだ……。チートとしか言いようがないね」
エステルは呆れた。
この日は休むことにした二人。旅立ちを色んな人たちに告げるエステル。
「へえ、姫様旅に出られるんですか」
メイドさんはそう言った。
「良いですねえ。お土産買ってきてくださいよ」
そんなことを言うお手伝いさん。
「もう、遊びに行くんじゃないんですよ!」
そう言いながらも、笑うエステル。
エステルもまた、この城の人たちに愛されているんだなあ、とパレットは思った。きっとパヴリナもそうで、それでいてこの城の外では愛されなかったんだろう。
そう考えると、可哀想だな、とパレットは思った。愛されることは幸せだけど、そこから離れてしまえば悲しい。幸せは大切だけど、いずれは失われてしまう。
二人は食事をとった。王の命で、豪華な食事になった。山国なので、肉類や野菜が並ぶ。鹿肉や豚肉、牛肉、鶏肉やフォアグラ。レタスや唐辛子、大根、ネギ。米や小麦、トウモロコシやジャガイモの料理もある。
「おいしいですわ、お父様」
エステルはそう言った。
「うむ。気を付けてな、エステル」
王は言った。
「いつでも帰ってきていいからね」
王妃はそう言った。
「ええ。ありがとうございます、お母様」
エステルは言った。
二人はお風呂に入った。まるで姉妹のようだ。
「こうしていると、パヴリナが戻ってきたみたいだわ」
エステルはそう言った。
「パヴリナさんって、どんな人だったんですか?」
パレットは聞いた。
「そうだね。本当に良い子だったよ……。誰からも愛される、良い子。でも今思えば、彼女はそうあるべきだと思い込んでいたのかもしれない……。パヴリナは本当に愛されていたけど、彼女は本当に人を愛したことは、無かったのかもしれない」
エステルはそう言った。
「どうなんですかね? でも少なくとも、エステルさんのことは愛していたのでは?」
パレットはそう言った。
「そう、かもしれないね。もっと彼女をちゃんと見ていれば、こんなことにはならなかったのかも……。パヴリナを救う事は、できないのかな」
エステルは、悲しそうにそう言った。
「少なくとも女神は無理って言ってましたね」
パレットは言った。
「あはは、女神様が無理って言ったら無理なんだろうね。悲しいな……」
エステルはそう言った。




