第35話 対岸の都市 シーベルエンダ
花の街グァーサの対岸には、シーベルエンダという街がある。
その距離はわずかだ。つまり、海峡になっている。有事には、海峡を鎖でつないで船が入れなくすることもできる。
もちろん、グァーサとシーベルエンダは古くからの同盟関係だ。ただし、グァーサが民主主義なのに対して、シーベルエンダは一応、王制を採っている。と言っても、それほど威圧的な政治を行っているわけではない。古くはセラの騎士の一族がシーベルエンダの先端にある岬に住み着き、城塞を築いたことに始まる。
つまりグァーサもシーベルエンダも、その城塞に守られているわけである。城塞はこの2つの街に支えられている。持ちつ持たれつというわけだ。
「さて、ひとまずシーベルエンダの城塞に行かねばなるまい」
ブラック王子は言った。
「そうですね。面倒をおかけして申し訳ありません」
パレットは謝った。
「気にするな。ただ、ラーシュ殿も向こうに我々の事を伝えてくださったようだ。迅速に行こう」
ブラックは言った。
「そうですね。急ぎましょうか」
パレットは言った。
そんなわけで、6人は船に乗った。
船は大型のキャラベル船だ。立派な船。世界の果てまで行けそうだ。
「出航だ!」
船乗りが言った。
船長や操舵士、航海士なども居る。船の航海に必要なメンバーは揃っているようだ。
もちろん船は帆と風の力で進んでいく。
シーベルエンダはすぐそこだ。別に船なんかなくても泳いで行ける距離だ。
「到着ですよ。これじゃあ、航海になんねえけどな!」
船長が言った。
シーベルエンダ港へと上陸する。城塞へはすぐだ。
「すぐに城塞に行きます?」
シオーネが聞いた。
「寄り道してる暇はない。行くぞ」
ブラックは言った。
城塞に辿り着く6人。門の前で、ラーシュが待っていた。
「おお、ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
ラーシュは言った。
「わざわざお待ちいただいたので?」
ブラックが聞いた。
「まあな。中で待つのも暇だったしな」
ラーシュは言った。
全員、すぐさま城塞へと入った。城塞の中は狭く、それほど複雑な構造はしていない。城塞は普通、複雑であるべきだが、この城塞はスペースが不足しているのだ。
玉座へとたどりつく7人。そこには、女性が居た。
「やっと来たのか。余は待ちくたびれたぞ」
女性はそう言った。20代ぐらいだろうか。銀色の髪に鈍く輝く瞳。これまでパレットが見てきた人とはまた違う美しさだ。種々の宝石で美しく飾られた緑色のドレスを着ている。
「申し訳ありません女王陛下。色々トラブルがございまして」
ブラックは言った。
「ふむ。まあ良い。それで何用じゃ?」
女王は聞いた。
「今や北部からの脅威は現実のものとなっております。今すぐにも軍事同盟の締結を」
ブラックは言った。
「もちろんそれは構わんよ。しかし、我々が危機となればべアールは救援を出してくれるのであろうな?」
女王は聞いた。
「もちろんです。明らかにそういう話ですので」
ブラックは言った。
「ならば良い。むしろ、こちらから何も出来ずすまないな」
女王は言った。
「ありがとうございます。それでは、文書を」
ブラックは文書を取り出した。
「うむ」
女王はそれにサインをしていく。
「確かに。それではこれで……」
ブラックは下がろうとするが。
「ああ、待て待て」
女王は止めた。
「何か?」
ブラックは聞いた。
「私は暇なのだ。退屈なのだ。何か面白い話を聞かせろ」
無茶を言う女王陛下。
「そんな無茶な……」
ブラックは困った。
「面白いかどうかはわかりませんが、今回遅れた理由の話ならば」
パレットは言った。
「ほう? それは確かに興味があるな。少女よ、聞かせてみよ」
女王は言った。
そんなわけで、病気の母親を治した話を聞かせるパレット。
女王は興味津々だった。
「へえ、大したものだな。そういうことなら、遅れたことも当然だな」
女王は納得した。
「ありがとうございます。わかってもらえて良かったです」
パレットは言った。
「私もできれば、こんな城塞の防御なんかじゃなくて、冒険に出たいんだけどなー」
そんなことを言う女王陛下。
しかし周りの大臣や騎士たちは首を振りまくる。
「やれやれ。そうもいかないようだ。お前、名は?」
聞く女王。
「パレットです」
パレットは言った。
「良い名だ。パレットよ、そのゴーレムとかを倒したらまたここに来てくれんか。話を聞かせて欲しい」
女王は言った。
「喜んで」
パレットは言った。