二頁目 「冬という少女」
雪ん子は雪だるまだからスノーマン。
なんとも安直な名前になってしまいました。
これから、他にも雪ん子が出てきたら、なんという名前にしようかと、悩んでいます。
楽しんで読んで頂けたら幸いです!
その日は、本当なら久しぶりに学校へ行く日だったのですが、まさかの大雪。
一階の半分が埋もれてしまうほどの雪が積もっていました。
これにはお母さんもお父さんも、ウィリーもビックリしてしまいました。
「こんな事、初めてだわ。」
とお母さん。
「冬はもう終わったんじゃないのか?」
とお父さん。
ウィリーは友達に会えない事にガッカリして、部屋へと戻ってしまいました。
「なんだよ!」
カバンをベッドへ投げました。
そのまま自分もベッドへと飛び込むと、窓の外を見ました。
もうすぐ四月、春の温かい風が鳥たちとともにやってくるはずだと言うのに、まだまだ外はたくさん雪が積もっています。
「冬なんて嫌いだ!」
ウィリーは布団をかぶって寝てしまいました。
いつの間にか眠ってしまっていたのでしょう。
ウィリーが目を覚ますと、空はどんよりとした雲のせいで真っ暗になっていました。
一階からは、お母さんとお父さんの話し声が聞こえてきます。
しばらくボンヤリと外を眺めていると、
「ウィリー!」
と下の方からお母さんがウィリーを呼ぶ声が聞こえてきました。
ウィリーは急いで一階へと下りて行きました。
「どうしたの?お母さん。」
ウィリーがたずねると、お母さんは困った顔をしながら笑って、
「ごめんね、ウィリー。しばらくは学校へは行けないの。」
「え?」
ウィリーはたずねました。
「どうして?だってもう、冬の女王様は隣の街へ行ってしまったんでしょう?なのに学校へ行けないの?友だちに会えないの?」
ウィリーの問いかけに困ってしまったお母さん。
お父さんはそこに助け舟を出しました。
「ウィリー実はな、冬の女王様が季節の塔から出てこなくなってしまったそうなんだ。」
ウィリーはその言葉にビックリ。
「どうしてなの?」
思わずお父さんの近くに走り寄って、そうたずねてしまいました。
「分からない。こんな事、今まで無かったんだ。ウィリーには悪いけど、冬の女王様がこの街を出るまで、絶対に外へ出ては行けないよ。」
「なんで?僕、友だちに会いたいよ!」
ウィリーは駄々をこねました。
「言うことを聴いてちょうだい、ウィリー。冬のお外は危ないのよ。道は凍っているし、雪と風は冷たいし、おまけに外は暗いのよ?大切な私のウィリーを、そんな外へなんて出せないわ。」
その言葉は、お母さんがいつも言う事でした。
「お母さんの言う通りだ、ウィリー。大丈夫さ、四月になれば、きっと女王様も次の街へ行ってくれるさ。」
お父さんはそう言って、また新聞を広げました。
「分かったよ。」
ウィリーはそう言って、トボトボと部屋へ戻って行きました。
「ごめんね、ウィリー。」
お母さんがそう言っていたのが聞こえたが、ウィリーは返事もしませんでした。
その夜、ウィリーはコンコンと窓を叩く音に目を覚ました。
カーテンを開けると、窓の向こうには雪ん子が一人いました。
『ウィリーさん、ウィリーさん。窓を開けてください。お話があります。』
ビックリしていたウィリーは雪ん子のその声に、慌てて窓を開けました。
「こんばんは、ウィリーさん。」
「こ、こんばんは。ねぇ、君は雪ん子だよね?」
ウィリーがたずねると雪ん子はうなずきました。
「はい。僕は冬の女王様にお使えする雪ん子の一人で、名前をスノーマンと言います。」
「スノーマン?」
「はい、スノーマンです。」
ウィリーが聞き返すと、スノーマンはニコリと微笑みました。
「えぇっと、スノーマンはどうして僕の所にいるの?それに、ここは二階だよ?どうやって登ってきたの?」
ウィリーがたずねると、スノーマンは、
「その事でやって来たのです。」
と言いました。
そしてスノーマンは自分の下を指しました。
「見てください。」
スノーマンに言われてウィリーが窓から下を覗いて見ると、なんと雪はウィリーが手を伸ばせば触れるところまで積もっていたのです。
「わぁっ!!」
思わずウィリーは雪に触りました。
しかし、
「つ、冷たいっ!!」
雪は指先に刺さるような冷たさを持っていました。
「ウィリーさん!雪は手で触ってはいけません!!霜焼けになってしまいます!」
スノーマンは慌てて、自分の手にはめていた手袋をウィリーに差し出しました。
「ウィリーさん、これを付けてください。」
「スノーマン、これは何?」
初めて見る手袋に、ウィリーは首を傾げました。
「手袋です。これを付ければ、雪を触っても平気ですよ。」
スノーマンはウィリーの手に手袋をはめました。
ウィリーはさっそくその手で雪を触ってみました。
「本当だ!冷たくない!」
ウィリーは大はしゃぎです。
しかし、これはスノーマンの物、ウィリーはハッとしてスノーマンを見ました。
「ス、スノーマンは平気?冷たくないの?」
「はい。僕は雪でできていますから、雪を触っても冷たくはありませんよ。」
スノーマンは微笑みました。
「さて、ウィリーさん。僕がこうしてあなたをたずねた理由ですが、ウィリーさんは数日前の朝にお会いになられた少女の事を、覚えていらっしゃいますか?」
スノーマンの問いかけに、ウィリーはうなずきました。
「うん、覚えてるよ。ソリに乗っていた子でしょう?あの子が、どうかしたの?」
「実はですね、彼女が今、この街に冬という季節をもたらしている冬の女王様なんです。」
ウィリーは思わず、
「スノーマンは、冗談が上手いね。」
と言ってしまいました。
しかし、スノーマンは大真面目な顔をしていました。
「いいえ、冗談などではありません。彼女こそが、偉大なる冬の女王様で、私達雪の精霊に、雪ん子としての体を作ってくださる優しいお方なのです。」
「優しい?冬の女王様が?」
ウィリーがスノーマンにたずねました。
「冬の女王様が優しいの?冬の女王様って、冷たい人なんじゃないの?」
その言葉にスノーマンはやれやれと、肩をすくめてみせました。
「それは冬が寒いから、街の人達が勝手に言っているだけのお話ですよ。女王様はとてもお優しい方です。」
「でも、今こうやって、たくさん雪を降らせて、みんなを困らせているじゃないか。」
「それは、みなさんのせいですよ。」
スノーマンの言葉に、ウィリーは黙ってしまいました。
スノーマンは続けました。
「いいですか、ウィリーさん。冬の女王様が季節の塔にひきこもられてしまったのは、数日前、あなたが、女王様に酷い言葉を投げつけてしまったからなのですよ。」