問3 貴方に前の世界の記憶はありますか?
「そういえば、彼女と話してみてどうでした?
僕らの世界と似た所から来たって聞きましたけど」
「そうだね……確かに、彼女のいた世界はかなり私達の住む世界と似ているようだ。ただし、異能や種族に関しては結構違う。そこは、私達の世界が別の世界と頻繁に繋がる前の時代の方が近そうだ」
「前の時代というと、異能の力が世間から隠れていた時代って事ですか?」
「そうそう、その辺」
富山も河佐も、昔は魔法も超能力も秘匿され人間以外に言語を話す種族はいない。とされてきた時代があると歴史の授業で習った。
少女の世界は河佐が聞く限り、その時代に酷似している。
ただ、そんな世界に居たにもかかわらず、河佐がこの世界について説明したら少女は異能も種族の話もすんなり受け入れてしまった。
昔の人の記録を読む限り、そんなの嘘だ、ドッキリだ!
と、すぐに信じてもらえないイメージだったのだが……。
「好きな本にそういうのよく出てたんで……。って言ってもそれはフィクションなんですけどね。
トラックに轢かれて剣と魔法の世界へ異世界トリップ~とか……。
あ、ちなみに私はトラックで轢かれた系じゃなくて、気が付いたらこの世界にいた系です!」
と、河佐の疑問に少女は元気よく答えてくれた。残念ながら彼女の持ち物に本が無かったため、それがどんな内容なのか確認はできなかったが。
持ってきていたら、さぞかし異世界研究機関辺りが欲しがっただろう。
「とりあえず、学生だし黄道学園への中途入学を勧めておいたよ」
「まあ、そこが妥当っすよね」
そこで、思い出した様に富山がある人物の事を話始めた。
「黄道学園といえば、彼女が居た世界が“星宮君”の故郷って可能性ないですかね。彼も私達の世界と近い所から来たんじゃないかって言われてるんですよね?」
「ああ、もしかして彼女の世界が彼の世界の可能性もあるから一応連絡を入れるつもりだよ。星宮君の場合は彼女と違って記憶のほとんどを失っているから判断が難しい所だけど」
河佐は数年前担当した少年の姿を思い出す。
現代服を着た小学生の彼は、事情を知らなければただの迷子に見えただろう。
ぼうっと道路に立っている少年に河佐が声を掛けると、彼は怯えと困惑が混じった表情でこちらを振り向いた。
「あの、ここ何処ですか?
後、僕が誰だか知りませんか?
何も分からないんです。何も……」
彼の記憶はこちらの世界へ来る途中で無くしてしまったようで、現在にいたってもいまだにそのほとんどは闇の中だ。
「彼女に会って何か思い出せればいいんだけどね」
河佐は高校二年になった少年に連絡を入れるべく、受話器を手に取った。
願わくば、彼女が少しでもきっかけにと思いながら。