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問2 貴方は私達の話す言葉(日本語)が理解できますか?

 日が落ちて、時刻は夜の六時頃。

 獅子座市役所の“異世界課”とプレートが掲げられた部屋に入ると、いかにも真面目そうなスーツを着た男が一人。書類が積まれた机で黙々と仕事をしていた。


「お疲れ様です。河佐さん」

「おー、富山か。今仕事上がりか?」

「はい、河佐さんも異世界人との面談終わった所ですか?」

 河佐と呼ばれた男は、自分の机の上に積まれた書類の山から顔を上げて、声をかけてきた後輩に目を向けた。


「それは、結構前に終わったよ。今はその彼女に関する依頼に目を通してたところ」

「ええ!? もしかして、この机に積んでるの全部……?」

「その通り。全部彼女に関しての他所からの依頼書だよ」

 目を丸くして驚く富山に、河佐は苦笑しながらホッチキスで綴じた一冊の資料を手に取る。

 表題に『』とあり、数枚に渡ってぎっしりと異世界人への質問が書かれていた。

 丸く可愛らしい筆記で書かれた答えは、間違いなく日本語だ。


「今回は記憶ありの日本語読み書きが可能な子だろ。お蔭で、色んな団体から彼女への勧誘や依頼書が送られてくるんだよ……。ちょっと見てみるか?」

 河佐に勧められ、富山は積まれた紙の束適当に掴んで上から一枚ずつ目を通してみた。


「えーと……。『黄道学園より入学のお誘い』異世界人とか、身内にその関係者がいる子が通う高校ですね。それから、警察庁からの異世界人についての資料提出。後は、元の世界へ戻りたい人向けの『帰還プログラム加入届』、雑誌社からの異世界人へのインタビュー依頼、異世界人交流会ギルドの勧誘パンフレット……異世界研究機関からの資料請求と異世界人への会談の依頼……」

 紙を捲る富山の表情がだんだん強張っていく。

 まだ、少女を保護して二十四時間もたっていない。それなのに、こんな色んな所から勧誘や依頼書が来ている。


「別に隠してるわけじゃないけど、皆どこから情報掴んでくるんだろうね。まだ、上の人に報告してそこから警察に連絡がいったくらいなはずなんだけど」

「え……これ、全部応対しなきゃいけないんですか!? うわ、非科学反対組合からも勧誘がきてる。なんで、魔法とか妖怪とか見たくせに信じないんですかね。逆に、超能力開発部とか東洋魔術協会からも確認のFAXが送られてきてるし」

 まだ新人一年目である富山は、たくさん積まれた依頼書に目を通しながら、もし自分の担当だったらと想像して眩暈がした。


「どこも人材不足だからね。この世界と近い世界から来たなら超能力とか、日本出身なら陰陽道とか妖術とかの才能があるかもしれないって期待する気持ちは分かるよ」

 彼女との面談で、異能の力が無い事は分かっている。とはいえ、前の世界では普通の人が、こちらの世界に来て異能の力を開花するというのは珍しい話ではない。

 異能の有無はさて置きとりあえず宣伝だけでもしておこう。と、考えるのはどこの組織も同じらしい。

 

「俺、これが回ってきたら間違いなくテンパって失敗しまくるやつです」

 富山は一通り読んだだけで疲れてしまったのか、河佐に紙の束を私ながら深く溜息をついた。


「まあ、他所と連絡とる量は多いけど警察の強行課とかに比べれば楽なもんだって! なんたってこちらと交流する気のある異世界人しか僕達に回ってこないし!」

「突然こちらを攻撃してくるような異世界人相手にする強行課と比べないでくださいよー! あそこと比べればどこだって楽ですよ!」

 笑いながら言う河佐に、富山は不満げに声を上げる。


 強行課とは富山達と違い話し合いが出来そうにない異世界人、もしくは異世界から訪れる“何か”に対応する警察管轄の部署だ。

 対して、会話が可能で攻撃的ではない異世界人を保護するのが河佐達“異世界課”の担当だ。こちらの多くは市役所にあり、保護をする以外にも一般で起こる異世界人絡みの問題はここが窓口になっている。


 富山としては時に命を張る強行課と比較されても、苦労するポイントが違うのにそれを持ち出して楽と言われてもあまり納得ができない。

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