人外萌えなんだけど、助けた人外娘の変身が解けて全然ハーレムが作れない件(人間のストーカーはいっぱい出来た)
視界が閃光に包まれる。美少女が出てくる。俺はため息を吐く。いつものパターンだ。
「勇者様! 助けて下さって有難うございます! 呪いの解けた今、ようやく人前に出れる姿となりました。付きましては私の身も心も貴方様に捧げましょう!」
「チェンジ」
「え?」
俺が一言そう言うと、目の前の女性はきょとんとする。どうやら俺の言葉が聞き取れなかったらしい。
「チェンジ」
「あ、あの……? ちぇんじとはどういう意味でしょうか……?」
親切にもう一度繰り返したんだが、やはり女性は訝しげな顔をするだけだ。それもそうか。英語なんてこの世界には無いし、デリヘルもまだだろうしな。
しょうがないので、俺は親切にも補足をしてやる。
「あー、つまり顔が好みじゃないんだ。だから俺以外の良い人探すと良い」
「そ、そうですか……」
直球で言ってやるのは可哀想ではある。目の前にいるのはお姫様だ。美貌を讃えられる事はあっても、容姿を理由に拒絶された事など無いだろう。
なんせ所謂美少女という奴である。流れるような金髪に、瑞々しさを湛えた白い肌。ターコイズブルーの瞳で見つめられ、薄桃色の柔らかそうな唇で囁かれれば、世の普通の男は骨抜きになるだろう。
普通の男は。
残念ながら俺は普通の男じゃなかった。所謂異常性癖という奴を持っている。最近は理解がされてきているゲイプライドとは違う、正真正銘の異常性癖だ。
俺は人外が好きだ。
獣人が好きだロボットが好きだ宇宙人が好きだモンスター娘が好きだ。およそ人間から遠ざかれば遠ざかるだけその娘が好きになる。
好き、だけじゃない。ヤりたい。突っ込む穴があるかどうかも分からない子達にぶちまけたい。そういう他人からおよそ理解されない性癖を、俺は持っていた。
なので人間はNG。美醜の基準は人並みに持っているが、それと恋愛したいかと言えばNOだ。お友達でいましょうという奴である。
だから異世界転生した時は喜んださ。ああ喜んだとも。地球上どこを探したって人間以外に意思疎通が取れる種族が無く(さすがの俺も獣姦をする気は無かった。動物虐待はしない。異種恋愛は最低限の意思疎通の上に成り立つのだ)、望みは来るかどうか分からない宇宙人と、出来るだろうけど一体いつ完成するか分からないロボットに賭けるしかない状態から、獣人は基本で、ドラゴンやら人魚やら精霊やら何やらがよりどりみどりな世界に来たのだ。しかもこの世界は魔王が人間を制圧したらしく、人間を全て魔物に変身させているというおまけ付き。そんな世界で勇者という役割をやる事になった俺は、異種恋愛し放題だと狂喜したね。
事実、勇者パーティーに組み込まれた娘はみーんな人外だった。狼獣人(NOT獣耳尻尾のみ顔人間! 顔丸ごとケモノじゃないとダメ!!)の女戦士に、「お役に立てれば幸いです」が口癖のドワーフが作ったというロボット、色々不思議な物を見せてくれる形の無い霧の精霊まで変わり種がいた。
旅先でも人外っ娘に困る事は無かった。俺は生まれて初めてする恋愛に、あわよくば作り上げたいハーレムに思いを馳せながら、魔王退治へと足を進めた。
だが俺のイチャラブ珍道中が始まることは無かった。
最初にそれに気付いたのは、狼獣人の戦士といい感じになった時だ。一番最初に仲間になって、背中を預けられる戦友という美味しいポジ。最初は狼の顔を持つ事を恥じて色恋にうつつを抜かす気は無いと突っぱねられたが、俺が熱烈にアタックを繰り返すうちに絆されたようで、最終的に合意してくれた。
耳を垂らしながら「わ、私でいいなら……」と言ってくれた顔が可愛くてなぁ……
そう俺が幸せを噛み締めたその時だ。彼女が光に包まれたのは。
一時的に視力を奪われたが、すぐにそれは戻った。だが俺の最初の恋は一生戻る事は無かった。
俺の目の前に狼獣人はいなくなっていて、何故かボーイッシュな女の子に入れ替わっていたのだ。
「え……私……呪いが解けた……!?」
なんか聞いてはいけない言葉が聞こえた。それこそ呪いの言葉だ。異種恋愛を嗜む者が必ず突き落とされる地獄の釜が開く言葉。
”愛の力で人間に戻る事が出来ました。めでたしめでたし”
っでたくねぇんだよもぉぉぉおおおおぉおおお!! てか誰だよ!! 俺が愛したヒト返せよ!!
異種恋愛は基本悲劇だ。階級や国籍が違うだけで色々トラブルが起こるのに異種族だぞ異種族。よっぽどの信念と偏見を払いのける力がない限り失敗するのは必然である。
ただし例外も勿論ある。それが上述の昔話ハッピーエンドパターンだ。普通の人間にとってはめでたしめでたしなんだろうが、俺が好きになったのその毛無しザルじゃないから!
考えてみても欲しい。好きだと告った瞬間、目の前の娘がカエルになる所を。その瞬間100年の恋も冷めるだろ?
あん? 内面が好きならどんな姿でも愛を貫けるだと? お前外見の重要性舐めてる。勿論鑑賞的な部分もあるが、そもそも生物的な性能に違いがありすぎる。カエルとベッドで同伴してみろ。毎朝伴侶が煎餅になってないか気を揉む事になるぞ。
勿論相手が人間になったならそんな心配は無い。だが俺はそういう困難も楽しみたい質だった。だから人間の女の子は友達はいいけど、恋人にする事は無い。
そう、元狼獣人に告げた。今まで通り戦友でいようと。
勿論彼女は傷付いたようだ。ようやく人間に戻れてやっと普通に恋愛出来ると思ったらこの仕打だ。刺されても文句は言えない。刺される気は無いから最悪気絶させてでも逃げる気だったけど。
そう身構えて、彼女の反応を待った。俯いて、小さく震えていた。そして、呟くように「分かった」と言ってくれた。
俺が危惧したような修羅場は回避された訳だ。その時は。
彼女はその後も俺に付き従い、良き戦友でいてくれたんだが、どうやら俺の事を諦めきれなかったらしい。時折俺に迫ってくるようになった。
勿論俺は断る。ただ縁を切るのは忍びないから、お友達でいましょうという事になる。
彼女、了承する。しばらく我慢する。また迫る。以下ループ。
こうして俺を狙う奴が一人できた訳だ。
察しのいい諸兄なら、この後の展開も読めただろう。そう、俺は人外娘に告っては人間に戻られ破局するというループを繰り返し、ストーカーみたいになった女の子が大量にいる状態となったのだ。
ハーレムである。全然嬉しくないけど。唯一の救いはブサイクが今のところ誰もいないとこ。そんなのに迫られたら悪夢だからな。
だがせっかく人外のいる世界に転生出来たのだ。この程度で諦めるとか勿体無い。そういう精神で俺は東西南北に奔走し、変身の解けない人外娘を探し続けている。
魔王? 知らんわ。途中で気付いたけど魔王倒したら全員が一気に人間に戻りそうじゃん。そんなの絶対に許さないという事で絶賛放置中だ。
「……という訳でお姫様の愛には答えられない。悪いな」
「は、はぁ……」
俺の説明を聞いた麗しの姫は、納得したけどしたくない複雑な顔をしている。言いたい事があるようだ。聞く気は無いけどな。
俺は余計な二の句を聞く前に身を翻す。あばよ。真実の愛を見つけるんだぜお姫様。
「「お待ち下さい勇者様!」」
根無し草らしく哀愁を漂わせて去ろうした背中に、二重になった声が掛けられた。お姫様と、聞き覚えのありすぎるボーイッシュなハスキーボイス。振り返らなくても分かる。元狼獣人だ。
ち、もう場所が割れたか!
「さらばだお姫様! 元気に暮らせよ!」
言い残し、俺はダッシュする。「待ってください!」と元狼獣人が叫ぶが、待つ訳が無い。
最初は付きまとうだけだった元狼獣人だったが、俺が新しい娘を探す度に風当たりが強くなり、しまいには俺の逢瀬を阻止しようと動き出していた。
いつの間にか出来ていた人間のストーカー集団もそれに同調した。俺を取り囲んで、逃げられないようにしようとしたのだ。
どうやったのか、屋敷やら食い物やらその他必要と思しきあらゆる物を貢がれて囲われた。ハーレムだ。それもヒモハーレムだ。これで人間に戻って無ければ俺の夢は達成されていた。
しかし彼女達は人間に戻ってしまったのだ。いい子達だが、残念ながら俺の範囲からは外れてしまったのだ。
故に俺は真実の愛を見付ける逃避行を開始した! 人外娘のハーレムを築くために!
その日までネバーギブアップ、望みを捨てるな! を肝に銘じ、俺は走り続ける!
*
「行ってしまわれた……」
勇者と闖入者に去られた後、幽閉されていた部屋で立ち尽くす姫。鍵の掛かっていた扉は開いたが、ここがどこかも分からないのにどう出て行けばいいと言うのか。
「あの、すみません。こちらに勇者はきませんでしたか?」
呆然としている姫の肩を、誰かがちょんちょんと叩く。姫が振り返ると、そこにはメガネを掛けた巨乳のメイドがいた。
「え、えぇ。先程その扉から出ていかれましたわ」
誰だろうとは思いつつも、人の良い姫は素直に教える。するとメイドは「有難う御座いました!」と言ってから、先程の女戦士と同じくらいの速さで部屋を出て行った。
あの子も勇者の追っかけだろうか。
そう思った姫の背を、また叩く者がいた。
今度は幸薄そうな幼女だ。おずおずしながら、勇者の居場所を聞いてくる。
姫は教える。お礼を言いながら去る。少し待つとまた別の女性がやってくる。姫はまた教える。
その気も無いのに始めてしまった勇者の案内係を、なかなか終える事が出来なかった。勇者を慕う女性が後から後から湧いて出てきて、姫を休ませなかったのだ。
(こんなに好かれる殿方だもの。きっといい人なのね、勇者様は)
案内しているうちに、そんな思いが姫に芽生える。勇者という人間に、いつしか興味を持ったのだ。
(諦めるつもりだったけど……どうせやる事も無いし、最初に言っちゃったじゃない。身も心も捧げるって。自分を救った人への義務感と、お伽話への憧れから出たのだけれど、これなら本当に好きになるかもしれないわ)
ようやく勇者の所在を聞く女性の列が途絶えた。部屋の外から響く足音が、段々と小さくなる。
「それに姫に二言があったらダメだものね」
自分に言い聞かせるように、呟く。そうだ。ここで立ち尽くすより、よっぽど建設的だろう。
かくして、勇者を慕う傍からみればハーレムの一員になるべく、姫は部屋を飛び出した。
世界を救うその日まで、このような光景が延々と続く事を、勇者はまだ知らない。