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第十八廻「買うものイッパイ! 腹イッパイ!」


今回、後半が飯テロ注意になります!


「・・・・・・ふぉー! おっきいですぅ!」


 翌日、僕たちは必要物資の買出しに出かけていた。

 姉さんのお古のジャージを着ているマリアさんが呆然と見上げる巨大な建物。

 この建物こそが今日の僕らの目的地。


「ここは、王宮かなにかですか!?」

「いやここは、ショッピングモールだよ!」


 ショッピングモールとは、複数の小売販売店や飲食店等各種サービス業、美容院から旅行代理店までもを内包する巨大商業施設である。

 単独出店と比べて顧客の吸引力が強力で、駐車場なども共用できるが、地元の商店街等からは根こそぎ客が引っこ抜かれるため烈火のごとく嫌われている施設でもある。


「こーちゃん、誰に説明してるの?」

「というか、最後の一文必要だったかしら」


「へー、ということは、ここにはとんでもない大商人が住んでいるんですね!」

「いや、ショッピングモール自体を建てた人は別に居て、その人が中に入っている販売店に場所を貸してお金を貰ってるシステムかな」


 とりあえず僕たちは中に入ることにする。

 そこに待ち受けていたものは。


「・・・・・・人が! 人がいっぱいです! あっちにも人! こっちにも人! 人! 人! 人! 人だらけですー!!!」

「そりゃそうだ。ここは異世界でも無ければ海坂みないな片田舎でもないからな」

「地方都市っていうのかな、物がないからみんな有る所にあつまるんだよね」

「もう一生分の人を見たような気がしますぅ。城から城下の市場を眺めた時でもこんなに人は居ませんでしたよ・・・・・・」

「あんた王女でしょう? まだまだ人なんて見る機会があるわよ」

「というか、今日はまだ少ないほうですわよね?」


 今日は一応平日である。

 ショッピングモールのお客さんは休日と比べると疎らだ。

 ちなみに学校には体調不良を理由に休むと連絡してある、いわゆるズル休みというヤツだ。

 姉さんには「あのこーちゃんがズル休みとは、悪くなったねぇ」などとからかわれた、あと数日したら夏休みだから異世界の冒険も本腰になれるというものさ。


「さぁっ! まずは服買いに行くよ!」

「服ね、じゃあ、ムニクロからかしら?」

「異世界を冒険しようってのにファッション重視の服買ってどうすんだよ、ここは作業服専門店に行って安全靴とか買ったほうがいいだろう?」

「いくら異世界っていっても見た目は重要ですわ! そこはデザインにも気を使ったほうがよろしいんんじゃなくて?」

「私、この『じゃーじ』動きやすくて好きですけど」

「もう、せっかくだから全部回ればいいじゃない。どうせほとんど全部の店を回らなくちゃ行けなくなるし。大量の買い物になるから加納さんのとこに配達してもらう予定だから」


 僕はそう言ってみんなを促した。


 そう、促してしまったのだ。

 この時の僕は、彼女らの、女子のパワーを侮っていたんだ・・・・・・。


 ムニクロと婦人服売り場から出てきた時には僕はダンボールの山に囲まれていたんだ。

 な、何が起きたか分からない、嵐のようだったとか、拷問のようだったとか、そんなちゃちな言葉じゃ語れない。

 もっと恐ろしいものに付き合わされたぜ。

 下着売り場にまで連れ回されなかったのは不幸中の幸いというヤツだろう。

 まぁ、一番の被害者は幽霊二人の着せ替え人形にされたマリアさんだろうけど。


「おっめーら、こんなに服ばっか買ってどうすんだよ?」

「あんた、女なのにまったく分かってないわねぇ」

「あなたも少しは服装に気をつけたらいかがかしら?」

「そんなフリフリしたもん着たかねーよ。動き難い。・・・・・・んん?」


 なんて事を言っていたよし子さんがとある店へと駆けていく。


「うぉーーーっ!? 特服とっぷくだあぁぁぁ! こっちにゃあシルバーチェーンまであるぜ! うぉ!? 地下足袋とボンタン!!」


 というか、その店のショーウィンドウに飾られた特攻服に走っていった。

 どうやらヤンキーグッズを扱う店らしい。

 このショッピングモールどんな店入れてんのさ!?


「なはははは、よっちんも女の子ってことかねぇ?」

「どこの世界に特攻服でめちゃくちゃテンションが上がる普通の女の子がいるんだよ。姉さんは? 服はいいの?」

「あたしはあんまり服とか気にしない人だからねぇ」


 姉さんは幽霊二人に付いて行ったのだけれどちょっとした下着以外は買っていなかった。

 もともとこの人は私服がツナギかツナギじゃない作業服しかないのだ。

 どうやら本人はその系統の服がお気に入りらしく、一年中、夏は薄手の、冬は厚手の作業服で過ごしていた。


「姉さんもたまには作業着以外の服も・・・・・・ってあれ?」


 よし子さんに一度視線を動かした後、姉さんの方を見ると、そこにはすでに誰も居なかった。

 その姉さんはというと。


「ふおおぉぉぉ!! StepOnのドライバーセットだあああぁ!! こっちにはドイツメーカーのラチェットハンドルまであるぅ!」


 ダメだあの機械フェチ。


「こーちゃん! この油圧ジャッキ買っていい!?」

「ここで買わなくても会社から頼んだらいいじゃないか」

「えー! でもこれHergstellt in Deutschlandだよ!? ドイツ製だよ!?」

「いいから! 次に行くよ!!」

「待ってぇ! せめて小型LEDライトだけでもぉ! いや、塗装用のエアガンだけでもぉ!!」


 なんでこんなマニアックな専門店まで入ってんだこのショッピングモール!!


 結局、さらに工具やらバールやら安全靴やらチェーンやら特攻服やらといろいろ買わされたのであった。




******




「と、いうわけで飯だ!」

「なにが『というわけで』なのさ・・・・・・」


 とりあえず、僕らは買ったものをすべて加納オートに配送してもらう手配をしてフードコートに居た。

 まだ何も食べ物は買っておらず目の前には水の入った紙コップだけが置かれていた。


「はいはーい! せっかくお金があるんだから寿司が食べたいでーす! 一階に回転寿司があるんだー」

「いや、回転寿司って。大金持ってても思考回路が貧乏くさいよ姉さん」

「貧乏くさいってなにさ! 回転寿司って言っても一皿百円じゃなくて皿の色で金額が違うちょっとお高めの回転寿司だよ!?」

「いや変わんないよ。むしろその考えが庶民っぽさに磨きを掛けてるよ」


 みんながあれこれ話し出したので仕方なく視線を彷徨わせていると、フードコート横の雑貨店から見知った顔が出てくるのを見つけた。


「よし子さん、よし子さん、あれって相模さんじゃない?」

「あぁ? ・・・・・・あの幽霊こんなとこで何してんだ?」


 いや、あなたも幽霊ですよね、よし子さん。

 どうやら見られていた相模さんもこちらに気が付いたようで一瞬気まずそうな顔をしたが、荷物を置いてこちらに近づいてきた。


「ダーリン! なんやごっつ久しぶりやなぁ!」

「ぶふうぅぅ!?」


 だ、ダーリン!?

 誰のこと!?

 僕!?


「ダーリン? 誰が? まさかコイツか?」

「コイツとはなんや失礼な!」

「こーちゃん、彼女作ったらお姉さんに教えてよ!」

「作ってないし彼女でもない!」

「そんなこと言うて。ウチの初めて奪ってんから責任とってもらわんと・・・・・・(ぽっ)」

「こーちゃん!? 初めてって何!? 責任って!? あれか!? どこまで行った! Aか、Bか、Cかぁ!?」

「ね、姉さん!? 胸倉掴んで揺さぶらないで!!」


「修羅場ねぇ」

「修羅場ですわね」

「しゅらば、ですか?」


 こら、そこの三人!

 見てないで助けろぉ!!


「でも実際、ウチはダーリンに初めて奪われてんねんから」

「まぁ、初めてっちゃぁ、初めてだわな」

「ただの顔面衝突事故でしょう!?」

「へ? 顔面衝突事故?」


 ここでようやっと姉さんが話が食い違っていることに気が付いたようで。

 僕は姉さんに説明してなんとか落ち着かせることにしたのだが。


「ほんまに、ウチの唇奪っておいて。お腹に子供がおんねんから、け、っけけ、結婚せなあかんやん!?」


「よし子さん、もしかして?」

「もしかするな」

「あー、この子そうゆう子ね」


 要するにアレだ。

 手をつないだら妊娠するとか、あーいうのと同じなのだ。


「「小中学生の女子かよ!?」」

「なっはっはっはっは。おもしろいねこの子!」

「なにわろてんねん! こっちは真剣に考えとんねんで!?」


「よし子さん、彼女、保体の授業受けてないの?」

「おいおい、こんなヤツがガッコなんてまともに行ってるわけねーだろ?」

「デスヨネー」


 僕がどうやって話を落ち着かせようかと思案していると、相模さんが話題を変えた。

 いや、まだ話し終わってないよ!!


「んで? 自分らどないしたん? 昼間っからがん首そろえて」

「これから何食べるかでちょっと話し合いをしてただけよ」

「はぁ? フードコートおんねんから、好きに食うたらええやん」

「「「あー」」」


 全員盲点だったらしい、僕を含め。

 というわけで、各自それぞれがばらばらに移動を開始したのであった。


 よし子さんは餃子チェーンの前へ。

 姉さんは昨日食べた牛丼チェーンの前へ。

 麻美さんはうどんチェーンの前へ。

 鏡子ちゃんは鉄板焼き店の前へ。


 ところがマリアさんは。


「私、全部食べてみたいです!!!」

「ええ!? マリアさんが!?」


 この世界の食べ物がえらく気に入ったのかマリアさんとフードコートを回ることになったのだった。




******




「お? どうしたマリア? 昼は中華か?」

「いや、私、全部食べてみたいんです!」

「僕は説明係兼付き添いです」


 と、言うわけで。

 まずは餃子チェーン店である。

 ここは中華だ。


「ここに来たなら半チャン餃子セットだな!」

「はん・・・・・・?」

「とりあえず食ってみろって!」

「いや、マリアさんにそれは多いよ! 半ラーメンと餃子にしておこう? 他も回るんでしょう?」

「はい、でもらーめんってなんですか?」


 説明しよう!

 ラーメンとは小麦粉を主原料とした麺をたっぷりのスープに投入し各種トッピングを加えた麺料理だ。

 その起源は中国の麺料理だが、それを日本人向けにスープの味付け、麺の作り方や硬さ、トッピングの種類などの調整を行った物であり、それはすでに中国料理とは別の進化を遂げた麺料理なのである。

 またインスタントラーメンの爆発的ヒットにより全世界でもメジャーな食べ物になりつつある。


「ヒロ、マリアこっちだぜ」

「どなたに語りかけていらっしゃるのでしょう?」


 こうしてマリアさん初ラーメンである。


 待つことしばし。

 マリアさんの目の前に置かれた半分サイズのしょうゆラーメンと餃子。

 この餃子チェーン店は餃子はもちろんのこと、ラーメンも並みのラーメン専門店に引けをとらない完成度を誇る。


「これは、どうやって食べればいいのでしょう?」

「アタイが食べるから見ながら食えばいいさ。では、いただきます!」


 よし子さんが厳かに眼前の半チャン餃子セットチャーシュー麺に手を合わせ、そして。


「まず見た目を味わう。次にスープを一口、香りを楽しむ。そして・・・・・・食らう!!(カッ)」


 覚醒した!


「ズゾゾゾゾゾゾ!!!」


 食う!


「ズゾゾゾゾゾゾ!!!」


 食う!


「ガツガツガツガツ!!!」


 ただ、食う!!


「ズゾゾゾゾゾゾ! ズゾッズゾッ!!」


 ただただ、眼前の料理に没頭し。

 麺を啜り、スープを飲み、チャーハンと餃子を食べる機械に変わる。


 そのよし子さんを見て、マリアさんは。


「・・・・・・・・・・・・うわぁ・・・・・・」


 ドン引きしていた。


「ご、ご飯を食べる時に出す音じゃないですよぉ」


 どうやらマリアさん的には麺を啜る行為はタブーであるらしい。

 一般的外国人のそれと同じようだ。


「てえぇえいっ!!」


 いきなりのよし子さんからの一括!


「ラーメン、そば、うどん! 麺類を啜る事は日本において悪しきことにあらず!! むしろ、この音こそが日本人の食の中枢に働き掛け、最高のアクセントになるのだ! さらに啜ることにより熱々のラーメンは程よく冷却され、蕎麦は香りが楽しめ、うどんはのど越しに磨きが掛かるのだ! そもそも麺の・・・・・・」


「な、なんかよし子さんの変なスイッチが入っちゃったみたいだね」

「と、取り合えず頂きます」

「あ、外人さん向けにフォークあるからどうぞ」


「(ちゅるちゅる)・・・・・・ふぉぉぉぉ・・・・・・」


 ラーメンを食べて恍惚の表情を浮かべるマリアさん、どうやら気に入ってくれた様だ。


「・・・・・・であるからしてラーメンとは日本国民とは切っても切れず、もっとも生活に密着・・・・・・」

「あー、次、行こうか」

「・・・・・・はい」


 こうしてラーメンを食べ終えたマリアさんと僕はよし子さんを放置して次へと向かった。




******




「ここは?」

「鉄板焼き系のお店だね」

「てっぱんやきとは?」

「要するに鉄の板の上で焼く料理の総称だね」

「あら? あなたたちもいらしたの?」


 僕らが鉄板焼きのお店に行くと、そこにはすでに鏡子ちゃんが並んでいた。


「ここの焼きそばがそこそこ美味しいんですわ」

「へぇ~」

「やきそばってなんでしょう?」

「へい! やきそばお待ち!!」


 ちょうどその時、鏡子ちゃんが頼んでいたであろうやきそばが焼きあがった。


「な、なんですかコレ? ふ、ふやけたミミズ?」

「コレがやきそば。焼いたそばだよ」

「食べてみるのが一番ですわ!」


 こうして僕らは鏡子ちゃんのやきそばを突くことになったのだ。


「はむっ! もぐもぐもぐ・・・・・・ほわぁー!」

「う~ん! ソースの香り、ピリッと辛くてほんのりした甘み! こってりとしているけどしょうがの酸味が口の中をさっぱりとしてくれる! そしてカツオの旨味と青海苔のアクセント! た、たまりませんわー!!」

「き、鏡子ちゃんまで変なスイッチが・・・・・・」


 僕らはとりあえず一心不乱にやきそばをかき込む鏡子ちゃんを放置して次に向かうのであった。




******




「まだふたつしか食べてないですけど。そろそろお腹が」

「マリアさん、あんまり食べるほうじゃないからね」


 あとは何か軽いものがいいのだが。


「お! なんや自分ら、ちゃんと食べてんのかいな?」

「あ、相模さん」

「相模さんなんて、妙子って呼んでーなダーリン」

「嫌です」


 となりのマリアさんは相模さんの手に持っている物に興味心身だ。


「何ですそれ? まるい?」

「ん? あぁ、コレがたこ焼きや!」

「たこ? たこって」

「マリアさん、タコってのはこれ」


 僕はポケットに入れていたメモ帳にタコの絵を描いてマリアさんに見せた。

 するとマリアさんの顔からどんどん血の気が引いていく。


「う、海の悪魔じゃないですかーーー!!? な、なんでそんなもの食べるんですか!!」

「に、日本では普通の事なんだよ」

「無理です! 無理です!! 絶対ムリですぅ!」

「なんやねんもう。ええから、食うてみぃ!!」


 嫌がるマリアさんの口に相模さんはたこ焼きをひとつ押し込んだ。


「熱いから気ぃつけやぁ」

「あふーい! あふっ! あふっ! ・・・・・・うまぁーーーーーーい!」

「せやろ! うまいやろー! ここの店はこの辺にしては美味くて美味しいねん。ええか! いくら味が良ぉても(値段が)高かったらあかんねん! 安ぅてうまい店やないとあかんねん!」

「は、ははは。まぁ、食わず嫌いは勿体無いよね」


 こうして、マリアさんはいろいろな食べ物を気に入ってくれた様だ。

 まだまだ買うものは多いんだから力を付けないとね。



 旅の準備はまだまだ続く。

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