第十六廻「現代は危険がいっぱいです」
「ただいまー」
彼岸堂を出た僕は家に帰ってきた。
しかし、なぜか例の親衛隊まで僕を捜していたので帰路を某伝説の傭兵ばりの能力を発揮して隠れつつ移動するハメになった。
これは明日は休んだ方が良いかな?
「おーう。邪魔してるぜー」
「そろそろお腹が空きましたわねぇ」
『実況! ワイルドプロ野球'94!!』
「なんでよし子さんと鏡子ちゃんまで家で寛いでんすかねぇ?」
帰って最初に見た光景は居間で寛ぎながらTVゲームをやっている幽霊二人だった。
てかどっから持って来たのそれ?
「あれ? 麻美さんとマリアさんは?」
そういえば本来留守番を任せていた二人が居ない。
僕の問いかけにゲームをしているよし子さんが一階のトイレの方を指差した。
何かあるのかと僕は廊下に出てみると、そこには。
「マリアー。もう大丈夫だから出てきなさいよー」
『絶対に嫌です! 死んでしまうかと思ったんですから!!』
「麻美さんどうしたの?」
「あら、おかえりヒロ」
トイレに向かって話しかける麻美さんと、おそらくトイレの中に篭ってしまっているマリアさんだった。
「おーい、ヒロー! メシにしようぜ、メシに」
「あんたもマリアを引っ張り出すの手伝いなさいよ。大体あんたのせいでしょう?」
「よし子さん何したの?」
どうやらよし子さんが何かしたようである。
「いや、実はよ? ハラァ減っちまってさぁ。ゆで卵食おうとしたわけよ」
「うん?」
「湯を沸かすのが面倒でさぁ……電子レンジにぶち込んだらぶっ飛んだ。HAHAHAHAHA!」
「なにしでかしてんのあんたぁ!!?!?」
笑うよし子さんを尻目にキッチンにすっ飛んでいくとそこには卵が散乱し修羅場と化した電子レンジだった物が鎮座していた。
「マリアもこっち来てからいろいろと興味深々だったから、電子レンジを近くで見てたせいでああなってしまったのよ」
「う、ウチの電子レンジが……」
そこからよし子さんと鏡子ちゃんが腹が減ったと騒ぎ出し、麻美さんは勝手に紅茶を入れて飲み、僕はマリアさんの説得。
このせいで予定が大幅に遅れてしまったのだった。
******
PM6:00。
某牛丼チェーン店。
「あんな恐ろしいものがあるなんて。あの家の物はあまり触らないようにします」
「僕もそうしてくれた方が助かるよ。特によし子さんは」
「なんだよ、悪かったって言ってんだろ?」
まったく反省の色を見せないよし子さんは目の前の牛丼(本気盛り)に生卵を二、三個落とし、紅しょうがと七味を掛けている。
人の話を聞けよ!
「私が居なかったらもっとひどいことになってたわね」
「出来ればこうなる前に止めて欲しかったけどね」
麻美さんはチーズ特盛りの牛丼にタバスコを掛けつつそんなことを言っている。
てか、タバスコ掛けすぎじゃない?
もう一本空にしてるけど!?
「まったくマナーがなってませんわね? 食事中くらい静かに食べれませんの?」
鏡子ちゃんは我関せずと言いたげに自分の分の牛丼を待っている。
「おまたせしました。お子様牛丼セットです」
「頼んでませんわよ!?」
「あ、あれ?」
「第一、私は高校生ですわ!!」
「す、すいません!!」
どうやら店員さんに隣の席の子供の分と間違えられたようだが……。
ちなみに、さっきまで散々怯えていたマリアさんは何だかんだ言いながら黙々と牛丼を食べていた。
何気に順応の早い人だよね、きっと長生きするね。
あと店員さん、こいつら三人死人です。
「んで? 向こうに持ってく車はどうすんだ?」
「それなんだけど、親戚について来て貰おうかと」
「なによ、誰か巻き込むつもり? だいたい信じてもらえるわけ無いじゃない」
「それもそうなんだけど。僕だけじゃ車も見つからないし、運転もできない。ちょうど詳しい親戚がいるから、どうにかならないかと」
問題はこんな非日常極まる話を信じてもらえるかなわけで。
「誰か運転出来る方居ませんの?」
「あたいはパス。大型二輪と普通免は持ってるけど人乗せて走るとか面倒い」
「僕も小型二輪はこないだ取りに行って来たけど。ってよし子さん、いつ免許取りに行ったの!? 生前!? 死後!?」
「いいんだよ、こまけぇこたぁ。つかおめぇだって小型二輪の免許は学校預りのハズだろ?」
「いろいろと理由付けて許可もらったの!」
「麻美はどうなのかしら?」
「私は大型、大特、カタピラ、クレーン、一級船舶しか持ってないわね」
「いや、おかしいおかしい!! 明らかに死んでから取りに行ってるよね!? しかも大型あったら大概乗れるし!」
「おめぇは一体何になりたかったんだよ」
「今度は溶接技能者の試験があるのよ」
「こいつ、ただの資格マニアですわ!?」
「あ! 私、王国馬術一級あります!」
「ごめんマリアさん、張り合わなくていいから……」
僕らがギャアギャアと騒いでると新しくお客さんが一人入って来たのだろう。
来客のチャイムが鳴った。
「ぃらっしゃぁせぇー、お好きな席ぃーどぞぉー」
店員の態度悪っ!
そんなことを考えながらその人の方を見ると目が合った。
「あ、こーちゃん」
「あ! 雅美姉さん!」
ボサボサの髪の毛、ずれたメガネ、ヨレヨレの黒いタンクトップと上半身だけ脱いで腰に巻かれた濃い茶色のツナギ。
かなりだらしない格好をしたこの女性が僕の親戚、夜野雅美、24歳独身。
隣町の自動車整備工場に勤める彼女は僕の亡き母の兄の娘だ。
あの残念な格好と性格でなければルックス、スタイルともに抜群なのだが。
実際、黒タンクからは見事なお胸様が自己主張されている。
「珍しいねぇ、外食ー? って、え!?」
言うや姉さんは入り口から僕らの席まで走って来た。
「こーちゃんが女の子と外食!? 顔面偏差値が中の下で対人恐怖症と女性恐怖症の二重苦のこーちゃんが!?」
「僕の評価微妙過ぎない!?」
姉さんは空いている席に座ると話を続ける。
「こーちゃんもそんなお年頃かぁー。青春だねぇ」
「そ、そんなんじゃないよ!」
「まぁ、彼女が出来てもエロゲは借りに行くけどね!」
「何言ってんだこのクソオタ!?」
なぜかモテない理由その2。
趣味が男性向けのエロゲやアニメであること。
ウチで録画したアニメを見て『◯◯たん萌えー』とか言ったり、パソコンのスペックが足りないとかで僕のパソコンにエロゲをインストールして遊んだりする女性の大きなお友達なのである。
まぁ、僕もそーゆーの持ってない訳では……ゲフンゲフン。
「ヒロ、誰?」
するとよし子さんが牛丼を食べながら聞いてきた。
とゆうか、ちゃんと食べてから喋りなさい。
「あぁ、ごめんごめん。僕の親戚の夜野 雅美姉さん。さっき言ってた車関係に詳しい人」
「へぇ、この人がねえ」
「どもども、姉ですぅー。よっろしくー!」
なぜかヤケにテンションが高い。
「どうしたの姉さん? ヤケにテンション高いけど?」
「あっはっはっはっ! パチで負けたからお金貸してこーちゃぁぁん!!」
「高校生から金借りようとしないでよ姉さん……」
「『マジで☆マジか』がスロになったしアニメの個体が増えたからついつい手が出ちゃったのー! お金貸してくれなきゃ明日からパンの耳すらご馳走だよぉー!」
モテない理由その3。
こうやってたまに博打でぼろ負けするのだ。
そう言えば勝ったところを見た事がない。
「姉さんは勝ち負け度外視してアニメ作品のやつ遊びに行くからでしょ? ほどほどに勝ったら引き上げなよ」
「いやぁ、面目無い」
そしてあまり反省してないのである。
「にしても、こーちゃん誰が本命なのさ? お姉さんにこっそり教えてみ? ウリウリ!」
「融資の件は見送らせていただきたく」
「あ、いや、待って待って! ごめん! ごめんなさい! もうからかわないから!」
二人でそんな話をしていると僕の服の袖が引っ張られた。
振り返ってみるとメニューで顔を隠した鏡子ちゃんがグイグイと引っ張っている。
「バイクの修理とかできんの?」
「できるよ〜」
よし子さんがちょうどいいタイミングで姉さんに話しかけてくれたので僕は鏡子ちゃんと隅へ移動した。
鏡子ちゃんは小さな声で話しかけてくる。
「なんであいつがここに居ますの!?」
「なんでって、鏡子ちゃん姉さんのこと知ってるの?」
「知ってるも何も、小中と同じクラスでしたもの」
「えぇ〜、もしかして仲が良い感じ?」
「いえ、それほどでも……。と、とにかく! 病死したはずの同級生がこんなところで牛丼食べてたら失神ものですわ!」
「こーちゃん? どしたの? そんなところで」
「えっ!? いや、なんでもないよ。あははははは」
「ん〜、そっちの子、どっかで見た様な?」
「あ、アレだよ! アニメキャラに似てるから! ね?」
「そ、そうですわー! マサちゃまったらいやですわねー!」
「ん〜〜?」
「おい、それよりさっさと次に行こうぜ?」
僕らが必死で誤魔化しているとよし子さんが話題を変えてくれた。
ナイスよし子さん!
「つ、次ってどこに行くのさ?」
「決まってんだろ? 金稼ぎだよ」
そう言ってよし子さんは不敵に笑ったのだった。
「え、ちょっと? 私は今来たとこなんだけど〜!?」




