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第十一廻「ニョキッ!」


洞窟の金品が積まれた部屋にうごめく影。


「ヒッヒッヒッ、よし子が来たなら野盗など一捻りだろうて。今のうちに金目の物をいただいてトンズラだ」


そう、妖怪だらず爺である。


「しかし、なぜあのガサツ女がここにいるのか……いや、まてよ……」


言うや爺はニタァと笑った。


「あの脳筋女の事だ、目先の利益と食欲にしか興味がないだろう」


爺はニタニタと笑う。

すると爺の肩がトントンと叩かれた。


「うるさいな、今考え中だ。……あの食欲バカをうまく使うことができれば大儲けが出来るが……」


爺は気にせず思考に没頭する。

するとまた肩をトントンと叩かれた。


「うるせぇてんだろう、この……ぎゃあああぁぁぁ!? よ、よし子ぉぉっ!?」


肩を叩いていたのはよし子さんでした。

つか、僕を含め全員居るんだけどね、最初から。


「よぉ、散々ぱら言ってくれてんじゃねーか? あぁ? クソカス爺」


「ま、待てよし子! ご、誤解じゃあ誤解!!」


「どこをどう間違ったら誤解が生まれんだコラァ!! つべこべ言わねーで金目のもんこっちによこせオラァ!!」


よし子さんは爺の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

爺は怯えながらも言葉を続ける。


「待てよし子! た、助けてくれるのか!?」


「あぁ!?」


「金目の物を渡したら……ワシの、い、命は助けてくれるのか!?」


「…………」


よし子さんはしばし沈黙し、そして。


「断るっ!!」


「だが断……えぇっ!?」


この判断にびっくりしたのはなぜか爺だった。


「いや、待て! おかしいじゃろ!? そこは『あぁ、約束するぜぇ。ギブアンドテイクだ』とか言うところじゃろ!?」


「この五十嵐良子様が好きな事はなぁ、物事がうまく運ぶと思ってるヤツに『否』と言ってやることなんだよぉ!」


そうよし子さんは高らかに宣言した。


「ダラッシャァラァ!」


ズドンッ!


「さばげぶぅっ!!?」


普通発せられざる音を発したパンチは爺の顔面に叩き込まれた。

瞬間、爺の姿は消え、洞窟の壁に突き刺さる尻が一つ出来上がったのであった。


「よし子さんって基本ワンパンだよね……」


「まぁ、よし子だからね。むしろ苦戦してるように見える時が一番手を抜いてるのよ」


「そんなことより早く帰りたいですわー!」


「ワタシハナニモミテイナイ、ワタシハナニモミテイナイ。お化けはいないさ、お化けは嘘さー」


約1名ほど現実逃避でトリップしてたけど完全無視。


「いろいろと溜め込んであるね。お金とか高そうな壺とか皿とか。……あれ? ここ奥に穴があるよ?」


室内を物色していると樽の裏に目が止まった。

そこには這いずって出入りするような小さな穴が開いていた。


「なんだこりゃ? ネズミの巣……にしちゃあデカイか?」


「ちょっと狭いけど行けそうだ。僕ちょっと見てくるよ」


しゃがんで穴だと確認すると思ったよりも大きな穴で膝を突いて這って入れる。

さすがに腹這いだと嫌だけどこれなら入れるそうだ。


「さすがに暗いな……たしかケータイが……」


ごそごそとポケットからケータイを取り出してライトをつける。

ケータイのライトで照らしながら進むと穴は途中で上向きになっていた。

僕はライトを消して恐る恐る穴から頭を出す。

するとそこには縄で縛られた人がたくさんいた。

捕まえた人を入れる牢屋に出たようだ。

頭を出したら穴の横に座っていたおじさんがびっくりしていたが騒がないようにジェスチャーすると従ってくれた。


「おい、小僧どうやってここまで来た? 穴を誰にも見られていないだろうな?」


おじさんは小声で話し掛けてくる。


「捕まった人を助けに来ました。穴はバレてませんよ」


おじさんに小声で答えて部屋を眺めてみると、ここには男も女も一緒で放り込まれているようだ。

部屋の半分は木の檻で区切られていて出入り口のある方には見張りらしい盗賊が酔って寝ている。

牢屋の作りは簡単だけど閂が掛かってて内側からは開かないみたいだ。

この時の僕は背後から忍び寄る危険に気が付いていなかったんだ。


「ヒロー? いつまで掛かってんだー?」


「「ギャアァァァ!?」」


洞窟の壁からニュルッと顔を出したよし子さんに僕とおじさんは心臓が飛び出るほどの絶叫をあげた。

てか壁を擦り抜けれるなら初めからやってよ!


「ふがっ!? な、なんだ!?」


僕らの叫び声で見張りが目を覚ましてしまう。

僕は穴から飛び出して手を背後に回して座り込んだ。

松明の灯だけの薄暗い洞窟だ、これで縛られているように見えるはず、多分。


「テメェら何を騒いでやがる!?」


見張りがナイフを持って向こう側に立つ。

どうやらバレてないようだ。


「あ、いや……あぁ! 毒グモ! 毒グモが居たんです!! うわぁー! 噛まれたー! 痛いー! 焼けるように痛いー!!」


とっさに嘘を突いて転げ回る。

大根役者は百も承知だ。

今は見張りの意識を向けなければ!


「なにぃ!? 死なれちゃあ奴隷商に売る分が減っちまう! 待ってろ!」


言うや見張りは閂を外して入ってきた。

いい人なのかな?


「どこを噛まれた!?」


見張りが近寄って来たとき。


「よし子、何を騒いでるのよ?」


今度は麻実さんがニュルッと壁から顔を出した。

見張りと麻実さんの目と目が逢う。


「ホォアタァッ!!」

(ズブッ!)

「ホギャアアァァァァッ!!??」


瞬間、麻実さんの目潰しがクリーンヒットしていました。

あれは痛い。


「今だ! かかれぇ!!」


牢屋に入れられていた人たちがこれ幸いと立ち上がり顔を抑えて転げ回る見張りに踏んだり蹴ったりの集中攻撃。

僕はみんなの縄を解いていく。

今度は見張りが芋虫の様にぐるぐる巻きにされていました。


「はぁはぁ、ありがとう少年たち。おかげで助かった」


おじさんが息を切らしながらお礼を言ってくるけど、息が切れるほど蹴らなくてもいいよね?


「えっと、その、後ろの二人は?」


おじさんは今だに壁から生えているよし子さんと麻実さんを指差して震えている。

普通に考えたらこっちの方が化け物だもんね。


僕は背後の二人をチラッと見ると。


「魔法です!」


押し切った。




******




「本当にありがとう。親玉は居ないが、盗賊まで捕まえる事が出来るとは。君たちのおかげだ」


ここは洞窟の入り口。

おじさんが村のリーダーだった。

よし子さんにノされた盗賊達も縛られて転がっている。

みんなから命の恩人だの、救世主だのと言われて少し恥ずかしいがみんなが助かって良かった。


「何も無い村だが、ぜひ寄ってくれ。ちゃんとしたお礼をしたい」


よし子さんがお礼に反応したがやんわりと断っておく。


「機会がありましたら寄らせてもらいます。今日は急ぎますので」


「そうか……必ず寄ってくれよ」


そう言って村の人たちは帰って行った。


「さぁ、僕たちも一度帰ろう!」


「帰る? ですか?」


マリアさんが不思議そうな顔をしていた。

まぁ、普通そうだろう。


「マリアさんも一緒に行きましょう。またここに来て、必ず送り届けますから」


こうして僕たちの異世界転移騒動は一旦小休止を見たのだった。




******




深夜、海坂町と春日町の間。

八坂九つ峠。


峠道に響くスキール音。

カーブの向こうから飛び出して来たのは真っ赤なMR3 G-Limitedだ。

6A-GZEエンジンと極太マフラーが奏でる爆音は夜空に響き渡る。


「すげぇ、昭和の車とは思えないッスよ!」


「ったりまめぇよ! エンジンは完全オーバーホール! パワステも乗っけて、ステアリングもイケイケ! マフラーはFUZUTUBOの極太! エアクリから燃配から弄り倒した中身は別物のフルカスタムだ! コイツならRとガチンコ勝負したって負ける気がしねぇぜ!!」


車内の二人の若者のテンションも最高潮だ。


「はっはっはっはっ! ……ん? なんだ?」


すると後ろから一つの光源が現れた。


「アニキ?」


「後ろから二輪だ。煽ってやがんのか?」


「アニキ、二輪相手はヤバいッスよ! こんな速度でコケられたら」


その文字が二人の脳裏によぎる。

しかし、後ろの光源は更に追い上げる。


「アニキ! 前! 右カーブ!」


助手席からの悲鳴に反応して身体が瞬時に対応した。

走り込んだ峠道、パターン化した運転。

車は大きく滑り出し、後続のバイクに側面を見せ付ける。

慣性ドリフト。

瞬間、運転者の脳に最悪の結末がよぎる。


この状態だと二輪車が側面に突っ込んで来るのでは?


運転者が恐怖に震えた瞬間。

彼の目の前で非現実が発生した。

彼の車が走っているコースはインベタ。

フロントバンパーとリトラクタブルヘッドライトの向こう数センチにはガードレールが流れてゆく。

その向こうは深く暗い闇。

落ちれば二度と這い上がっては来れない谷の底。


そのガードレールの向こうに。



赤いテールライトが尾を引いた。



「なっ!?」


バカな、アレは一体どこを走っている!?

そんなところに道は無い!


叫びは声にならず心の中で荒れ狂う。

それが彼の腕を狂わせた。


一瞬の操作ミス。

フロントはイン側に、リアは前に滑り出す。

スリップ。

時計回りに回転する車体は徐々に勢いが死んでいく。

フロントガラスの向こうで切り替わる前と後ろ。


幸いに車はぶつかること無く停止した。


「あ、アニキ〜!!」


「……アレは一体……」


彼は震える手でタバコに火を付けた。

彼らの前には海坂に続く道が闇に飲まれているだけだった。


さすがにそのままの名称はどうかと思いもじりましたが。

ミッドシップリアで6気筒ってV6かな?

どうみても1600ccじゃありません。

3300ccクラスです本当に(ry

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