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第十廻「カチ込みじゃあコラァ!」

欝蒼と生い茂った森の中。

折り重なり苔むした岩の隙間にその洞窟はあった。

入り口には木箱と樽が置かれ見張り員がうたた寝をしている。


洞窟の最深部。

狭い通路に木戸が取り付けられ個室になった空間。

そこが盗賊の頭の部屋だった。


「困るなぁ。これっぽっちじゃあ、大頭目に会わせる顔が無いじゃん?」


「……仕方あるまい、もはやあの村からは何も取れん」


ロウソクに照らされる薄暗い部屋の中。

灰色のローブを着た小さな影が盗賊に向って話しかける。

声は幼く、恐らく男の子だとはわかる。


対して髭もじゃの大男が苦虫を噛む潰した様な顔で呟く。

普通の成人男性の二倍の体積を持つ大男は地べたに座って小さな樽の酒をラッパ飲みしていた。

その身体についた筋肉や傷からかなりの修羅場をくぐっていることがわかる。


「金目の物が無いなら人でもさらって来なよ。あぁ、もう老人(ジジババ)子供(ガキ)しか居ないんだっけ? キキキ……」


「そろそろ潮時だろう。次の狩場に向かわねば」


「じゃあさ、じゃあさ! 村人全員居なくなってもいいよね? 村が無くなっても困らないよね?」


少年は嬉々として盗賊に話しかけた。


「勝手にしろ。俺たちはそこまでは関わりゃしねぇ」


「つれないなぁ。ところで、だらず爺はどこ行ったんだい? 姿が見えないけど?」


「あの薄気味悪いジジイなら、しょんべんしてくるって言って何処かに行ったな」


盗賊の言葉に少年は少なからず安堵の表情を浮かべる。


「よかったぁ、あの爺さん風呂嫌いでクッサイんだよね〜」


「? 俺は何もわからなかったが?」


「そりゃあ、人間程度の嗅覚じゃあ、臭すぎて感覚が一瞬で麻痺しちゃうからね〜」


まるで自分が人外であるかのような言い方に盗賊は首をかしげるが、犬や猫などの亜人なら鼻が良いのでなんら不思議では無いと結論した。

問題はあの爺さんである。

どれだけ臭いのかと。


するとドアの向こう、通路の方から大きな音がした。


「なんだ? 誰か居るのか!?」


盗賊は立ち上がりドアに向かう。

すると……。




「喧嘩予報の時間だぜオラァ!!」


!?




怒声と共にドアが吹き飛んだ。

比喩では無く、水平に飛んで行ったのだ。


「「なっ!?」」


見ればドアのあったところにはボロ雑巾のようになった部下を引きずった女が佇んでいた。


「今日のぉ、盗賊アジトのぉ、天気はぁ〜? 曇り時々血の雨〜、所により血反吐を吐くでしょう。つーわけで、世露死苦」




******




僕はよし子さんの後ろから様子を伺っていた。

とゆーか、麻実さんも鏡子ちゃんもマリアさんも後ろに居る。

原因はだらず爺がよし子さんに

「奴ら奪った金品を溜め込んでおるから、倒せば大儲けじゃぞ」

と言ってしまったことだ。

聞くや、よし子さんは盗賊たちを悲鳴すらあげる間も無く戦闘不能(リタイヤ)させていった。

おかげでここまですんなり来れたんだけどね。


「き、貴様ら!? い、一体!?」


あまりの出来事にボスっぽい人もドン引きだ。

たぶんこの人が盗賊ゴッダンだろう。


「テメェらの意見は聞いてねぇ! おとなしく奪ったもんを差し出してボコられるか、ボコられてから奪ったもんを差し出すかを選べやコラァ!!」


よし子さん、それは実質一択です。

あと奪われた物は返しましょう。


「ふざけるなよ小娘が!!」


やっぱり盗賊も怒る。

そりゃあ、怒る。

怒鳴ったゴッダンは壁に立てかけてあった大斧を掴んだ。

彼の身体すらよし子さんの三倍はあり、さらに大斧はデカイ。


「バカだなぁ。こんな狭えとこで振り回せる武器(エモノ)じゃねーだろ」


よし子さんの言うとおり、洞窟の中は狭くこの部屋だってゴッダンの身長ギリギリの高さしかない。

部屋自体はそれなりの広さがあるので横振りの攻撃は出せるがそれだけだ。


ゴッダンはニヤリと笑い大斧を構えた。


「ヨシコ様! 危険です!!」


マリアさんが叫んだ瞬間、ゴッダンは大斧を振りかぶり、大上段から振り下ろした。

そう”振り下ろした”のだ。

通常なら天井に当たる大斧は天井など無いかのように振り上げられた。

見ればそこだけ天井が高くなっている、先ほどまで部屋の高さは同じだったはずだ。


「んあ? うぉっと!?」


よし子さんも危機一髪で回避する。

しかし、ゴッダンも空間の狭さなど無いかのように大斧を振り回し追撃してきた。


「おいコラ! 聞いてねぇぞこんなの!!」


「大地の魔法で洞窟の形を変えているんです!」


「マジで聞いてねーぞコラァ!?」


よし子さんは回避しながら引きずっていた盗賊の手下をゴッダンに向かって放り投げた。

ゴッダンは飛んで来た手下を大斧で叩き落す。

緩まない攻撃。

よし子さんも回避しているが足元に転がったコップ程度の大きさの樽やら残飯やらに足を取られ上手く動けない。

だんだんと壁際に押しやられていく。

とうとう逃げ場が無くなり、ゴッダンも止めの一撃を入れようと踏み込む。


「ッチ! こうなったら!」


よし子さんは意を決したように呟くと……。




「秘技”鏡子ガード”っ!!」


「「「何してんだアンタァァッ!!??」」」




突き出された腕の先には鏡子ちゃんの姿があった。

さっきまで一緒に居たのに!?

部屋の入り口とよし子さんの位置まで距離があるのに!?


「ちょっ! まっ! 離っ……きゃああぁぁぁぁっ!!!?」


もちろんゴッダンが攻撃をやめるハズがなく大斧は横に振り抜かれた。


僕の目の前で鏡子ちゃんの頭が空中に飛び上がり、鈍い音と共に地面に落ちた。


「……な……こ、こんな……よし子さん……」


僕は愕然とし、目の前の光景を眺めた。

思考は纏まらず、口も回らない。

目の前で少女の首が跳ねられたのだ、茫然自失にもなる。




まぁ、僕のこの動揺も一瞬で無意味なものになるんだけど。




「コラァ! よし子ォ!! これじゃあ(ワタクシ)は鏡の妖怪じゃなくてろくろ首か飛頭蛮になるじゃありませんの! 種族が変わってしまいますわ!?」


地面に転がった鏡子ちゃんの頭が怒鳴り、よし子さんに掴まれた胴体は腕をブンブン振って抗議する。


「大して変わんねーだろ? だいたいおまえ日本妖怪だから飛頭蛮じゃなくて抜け首だろ?」


「そっちの方が大して変わりませんわよ!? 種族が変わると(ワタクシ)のアイデンティティーが無くなりますの!!」


鏡が無い時点でアイデンティティーも何も無いと思うよ、鏡子ちゃん。

もちろん、声に出して突っ込んだりはしない。


「…………」


見れば盗賊ゴッダンも振り切った体制で硬直していた。

そりゃあ首チョンパされた少女が首無しでジタバタしてたらそうなる。

誰だってそうなる、僕だってそうなる。

もちろん、そんな敵を見逃すよし子さんでは無い。

よし子さんは持っていた鏡子ちゃんの身体をゴッダンに叩きつけた。


「スキあり! ”鏡子ボディアタック”!!」


「ぐおぉっ!?」


「ぎゃあっ!? 痛い! 首と胴体離れてるけど、痛い!!」


地面では鏡子ちゃん(生首)が叫び声をあげている。

普通に考えればーーー状況が普通ではないけどーーー常人なら卒倒しそうな状況だ。


ふと思いマリアさんを見る。

そこには立ったまま静かに気絶した一国の姫君がいた。

できれば僕も気を失いたかったよ、マリアさん。


僕が視線を戻すと戦いは(悪い意味で)激化していた。


「”鏡子シュート”!」


「麻実ぃ! あんたもですのぉぉぉ!?」


「ぐはぁっ!?」


麻実さんがゴッダンの顔面に鏡子ちゃんの頭部を蹴り込み。


「へーい、パスパース!」


「へーい」


(ワタクシ)の頭でパス練習しないでくださいまし!!」


よし子さんと麻実さんの華麗な生首(パス)回し。

狭い洞窟内を生首が舞う。


「貴女達おぼえておきなさい!! 帰ったら呪ってやる! いや、祟ってやる!!」


「おのれぇ! 化け物どもめぇ!!」


ゴッダンが反撃に移ろうとした瞬間。


「普通に反撃とかさせるわけねーだろコラァ!!」


「ブッ!?」


よし子さんの右ストレートが顔に叩き込まれ、ゴッダンは崩れ落ちたのだった。


「よかったわね鏡子。切れ目が綺麗で。繋がりやすくていいわ」


「いいわけないでしょう!? 大丈夫ですの!? ちょっと曲がってません?」


後ろでは鏡子ちゃんが麻実さんに首を付けてもらってました。

いや、グロいから。


「……はっ!? 私はいったい?」


そしてマリアさん復活。


「もうやだこの幽霊ども……」


僕は肩を落としてため息をつきました。

すると視界に入って来たのです。

匍匐前進で部屋から出ようとする男の子が。


「「…………」」


しばし見つめ合う僕ら。

少年は日本人的な普通の男の子だ。

いや、異世界的に日本の普通の男の子はおかしいのでは?


「……しーっ」


「いや『しーっ』じゃないでしょ。キミ何やってんの?」


「くっ! 仕方ない!!」


言うや少年は僕を羽交い絞めにしてナイフを突き刺さしてきた。

一瞬の出来事で僕は全く抵抗できず。

マリアさんも唖然としている。


「やい、よし子! こいつがどうなってm「じゃかぁしゃあボケェ!!」「ぎゃあっ!?」」


少年共々蹴り飛ばされましたよ、ええ。

よし子さんは味方にも一切の甘えが存在しない事を知りました。


「こちとら腹が減って気が立っとるんじゃあ!!」


「さっき食った上にアンタは幽霊だろうがぁ!!」


さすがにキレた。


「ぐっ……さすがは外道妖怪のよし子……僕はタダのメッセンジャーさ。大頭目に報告はさせてもらうよ!!」


ヨロヨロと立ち上がった少年は懐から筒のような物を取り出し叩きつけた。

するや室内に煙が充満し視界が無くなる、不思議と息は苦しくなかった。

視界が良くなると倒れていたゴッダンも少年も消え去り散らかった室内が残るだけだった。


「……ふぅ。いったい何だったんだろう? よし子さん知り合い?」


「いや、知らね。つか賞金首連れてかれたぞコラァ! 金かーえーせー!!」


「ほんとやだこの幽霊……」


異世界に来て身内(?)のせいで胃に穴が開いてしまいそうな僕でした。

おまけ


広太「そういえばよし子さん。魔王の前で落ちて来た時、普通の重さだったよね? 何で村ではめちゃくちゃ軽かったの?」


よし子「ん? あぁ。嫌がらせ」


広太「ヲイ」


よし子「つか女に体重の話してんじゃねーよコラ」


広太「あ、いや、ギャアァァァ!!」

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