どうも僕は仕草が女っぽくなっているらしい
武蔵の仲間達に僕が紹介されてから、僕と武蔵野でセレネダートでの二人の時間というのが出来た。
僕は大体二十時ごろからログインして、その内二時間を製造によるレベル上げや、製造で作ったものを適当な値段で露店販売する。
その間に色んな人と話すし、今日は特に製造の調子が良かったとか話の種が出来る。
残る一時間ごろになると武蔵の方が狩りを抜けてきて、流れ星の中で僕と語らいの時間を作る。
それは街中にあるプレイヤーが経営する喫茶店だったり、初心者教会前の広場とは別の、よくゆっくりしたい人達が集まる、屋台の集まる広場だったりしたけど、共通している事があった。
まるで夢みたいだ。
本物の恋人同士みたいに語らい会って、肩を寄せ合って、手を絡める。
武蔵にとっては、演技なのかもしれない。
でも僕はそれが演技だという事を忘れたい。
恋人になれるはずのない現実から、こちらを現実に置き換えてしまいたいと思うほどの幸せ。
そう、例えそれが。
「ちょっと。あなたシムスさんから離れなさいよ」
「は?何言ってんだあんた。俺が誰と近かろうが関係ないだろ」
「シムスさんは黙っててください!あなたは騙されてるんです!」
「俺が騙されてるって、何言ってんだ」
「私知ってるんです。その女がシムスさんの手に入れたレア鉱石で指輪作って、二束三文もいいところの値段で売ってるの、見たんです!」
「それでなんで俺が騙されてる事になんだよ」
「だっておかしいじゃないですか!価値のわかる人ならそんな事しない!その女はシムスさんのアイテムを消耗させるスパイです!」
「……はぁ。俺の稼いだアイテムはこいつの製造に全部好きに使って良いって言ってあんだよ。それこそあんたに関係ない話だ」
「ダメよシムスさん!そんな女、きっとあなたのこといいように使ったら捨てるわ!そういう顔してるもの!かわいこぶりっ子の性悪女!」
「うるせぇ!今のあんたが一番醜いぜ!いくぞ、ミル」
「あ、うん……」
散々罵られて、武蔵の腕の中に抱かれて移動する背中に罵声を浴び続ける生活でも。
僕はこの世界でなら、武蔵の恋人でいられる。
料理で作ったアイテムを食べてもらったときは嬉しかった。
失敗品の毒付与料理を食べられたときは慌てたけど、毒無効アクセサリつけてたとネタ晴らし去れた時は思いっきり叩いた。
僕の筋力は低くて……というか街中はプレイヤーキルできない仕様だから、痛くもかゆくも無かったみたいだけど。
でも、きっと味的には酷い設定のはずのものまで美味いって食べる武蔵は、格好良かった。
そういえばあの後はギルメンに手作り料理をみせつけたいからつくってくれよっていわれて、急いで料理のスキルレベルあげたっけな。
最近の事なのに、思い出が一杯だ。
「はぁ。これならもっと早くこのゲーム始めてれば良かったなぁ」
「ん?なんだよ。アクション要素のあるこのゲームを早く始めればよかったとか、ミルらしくない」
「だって、シムスとこんなに楽しく遊べるなんて思わなかったんだもん」
「ばっか、それは製造システム変更のおかげがあるから……」
「そういう事じゃないんだ。もしこんなに一緒にゲームするの楽しいって解ってれば、ちょっとは無理してでも一緒に頑張ってたと思う。その機会を捨ててたのが惜しいなって事」
「そっか。まぁお前がこのゲーム楽しんでくれてるなら嬉しいよ」
「あ、楽しむといえばこの間作った手作りのお弁当どうだった?」
「ははは、あれなー。周りのギルメンにトレードウィンドウで見せ付けたら爆発魔法喰らった。結構痛かったぞ」
「そんなことされたの!?……もう作るの止めようかな」
僕は武蔵が仲間に村八分にされたりするのがいやだからいったんだけど、本人は全然気にしてないみたいだった。
むしろなんで止めるの?みたいな顔して言葉を放ってきた。
「そんなこというなよ。お前今料理のレベルいくつ?かなり美味かったんだけど」
「えっと、五十五」
「まじかよ?カンストまで後半分ちょいじゃないか」
「シムスが持ってきてくれる素材がいいからだよ。レアな食材だと調理に失敗してもかなり高い経験値が入るし。それに、レベルアップの時に貰えるスキルポイント、ほとんど料理に入れてるんだ」
「ん?じゃあメインレベルはまだ十七くらいか」
「メインレベルは今二十。細工と裁縫にはまだ二ずつふって三しかとってない」
「そっか。その内お前の裁縫で作ったお揃いのシャツとかいいかもな」
「お、御そろいとか!そんなの幼稚園時代くらいだよやったの!」
「おいおい忘れるなよミル。俺達恋人同士だろ?」
ああ、もう。
武蔵はなんでこんな事を言って僕を困らせるんだろう。
仮だって、偽者だって言ってるのに。
こんなんじゃ僕、どんどん本気になっちゃうよ……。
それから、僕は限られた時間を積極的にレベルアップに使っていった。
レベルアップの速度はさすがにゆっくりになってきたけど、武蔵の仕入れてくれる素材は高品質で僕のレベル上げを大いに助けてくれた。
こうしてレベルを上げて稼いだスキルポイントを裁縫に振って、僕は室内を飾り付ける小さなレースの敷物とか、布地素材を買い込んでエプロンドレスを作って武蔵に着て見せたり。
細工のレベルを上げて精一杯の気持ちを込めて武蔵とお揃いのチェーンで腰に下げるアクセサリを作ったりした。
思うに、僕はこの時自分をコントロール出来ていなかったんだと思う。
だから、武蔵の言葉に凍りつく事になる。
それは学校からの帰り道の事。
僕と並んで帰る武蔵に、何気なく言われたんだ。
「なぁみのる。お前最近リアルでもなんか女っぽくなってないか?なんつーか、仕草っていうか雰囲気が」
「え……?」
「いや、ゲーム内だと時々ミルレールがみのるっていうのを忘れるって言うか……男同士なの忘れちまうんだよな」
「え、その、気持ち悪い、かな。そうならすぐにやめるけど……」
迂闊だったと思った。
武蔵との楽しい日々に、友達より一歩踏み込んだかのような日々に流されてそれが態度にでてしまっていたらしい。
僕が武蔵を好きだなんて悟られるわけにはいかない。
そんなことになれば、きっと僕達の友情は終わってしまう。
そんなのは嫌だ!
「いや、気持ち悪くは無いんだよ。でもさー、ギルメンにお前の話する時、凄い可愛いなとか言われるとなんつーか。俺もすげえ良い気分なんだよな。って、友達が褒められれば嬉しいのは当然か。ははは」
友情が壊れるのに怯える僕と、僕の気持ちなんて知らずに笑って友達だから当然と言い切る武蔵。
この数週間で僕の気持ちは、きっと醜く、飢えた、肥大化した何かになってしまったんだ。
友達じゃなくて恋人が良い、現実でも武蔵と触れ合いたい、武蔵、武蔵、武蔵……そんな気持ちばかりが膨らんで。
武蔵は僕を、追い詰める。