表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

逞しい腕の友人

 翌日。

武蔵と一緒に登校する時、少し期待してしまった。

あの関係はゲームの中だけなのに、少し手を繋いでもらえないかと期待してしまった。

そんなの、無理なのにね。


 そしてちょっと憂鬱な学校が終わり、夕飯の後のログイン。

ホームはもう武蔵の家に設定してあるので死に戻りはここになる。

この家は石造りの三階建てでちょっとした工房と倉庫になる地下室ありの、結構高そうな家だ。

といっても、僕はこのゲームの相場を知らないからなんともいえないんだけどね。


 この棚にある食料アイテムは好きにしていいと言われた所から、オークの肉を取り出して。

台所でさっさとシステムに従って肉の筋を切って経験値を稼いでいると、武蔵からメール。

内容は「狩り終了。迎えにいくから家で待っててくれ」という簡単なもの。


 で、メールで気づいたんだけどかなりの未読メールがたまってたので一応チェック。

その中身は殆どが武蔵と僕の関係を問いただすメールで、中にはかなり口汚く罵ってるものもあった。

たしかにこれは女の子を僕のやってる役にするわけにはいかないなと思いながら、見たことの無い名前のメールは一括チェックして消去。

こういうのに無駄に付き合う必要は無いと思う。

一通一通恋人ですと返すのもいいかもしれないけど、僕の言葉じゃなくて武蔵の行動で解ってもらうのが一番説得力がある。


 そんな事をしつつレベルが3に上がって、ステータスに触れるボーナスポイントを全部器用さに振り込んだ所で武蔵が来た。


「よ。待たせたな。いけるか?」

「んと、オーク肉の筋きりやったんだけどこれどうすればいいかな」

「んー。棚の収容には余裕あるし。腐るわけでもないからそこに入れとけ」

「解ったー。それにしても、武蔵ー」

「なんだよ。ゲーム内で本名呼ぶなって」

「じゃあシムス。皆に彼女だって紹介する気分はどんな感じ?」

「あんま、悪い気はしないな。リアルはともかく今のミルレールは本物の美少女だしな」

「あ、そ。はぁ、僕上手く出来るかな」

「リラックスしろよ。皆良い奴だから」

「解った。頑張る」


 美少女だから大丈夫、その言葉に少し落胆しながら、また武蔵に手を繋がれてワープポータルまで連れて行かれる。

武蔵の所属ギルドのホームがあるのはフェアリーウィングで、通称羽虫だって。酷い名前。

羽虫はギルドホームが多く集まっていて、道行く人は大抵固まってて、頭上にギルドのマークを表示させていた。

樹を利用した家が並ぶ中を、僕は武蔵に手を引かれて歩く。

その時の視線の集まりようといったら、流れ星の時とは比べ物にならないものだった。

皆が僕と武蔵に注目して、メールを飛ばしているような素振りを見せる。


 なんだか武蔵がゲームの中で有名ってどの位なのか不安になってきた。

もしかして僕はとんでもない役目を引き受けちゃったんじゃないだろうか。


「ねぇ、なんか皆こっちを見てるよシムス」

「好きにさせとけ。気になるようなら俺の影に隠れとけ」

「四方八方から見られてるから意味ないと思う……」

「じゃあ、さっさと行く為に最終手段と行きますか」

「え?なにそれ」

「オペレーションお姫様だっこ、発動!」


 武蔵が僕にからりとした爽やかな笑みを向けた後、僕はふわりと抱き上げられてしまった。

このゲームは潜在的な嫌悪感を持つ行為はハラスメントとして妨害処理を受ける。

つまり、それをするりとされてしまった僕も、やった武蔵も、お互いの事をこうするのに嫌悪感は無いという事で。

自分の顔を武蔵に見せないようにする為に必死で、自分を抱く胸にしがみついた。

だって、こんな崩れた顔、『友達』に見せられない。


「おーい。着いたぞミルレール。どした?」

「ごめっ。ちょっとまって。もう少し、もう少し待って。顔を整えるから」

「?解んねーけど解った。ギルドハウスには入るぞ」

「……うん」


 いまだに喜びで崩壊するのが止まらない顔面を他所に小さく答えた僕を胸に、武蔵がギルドホームの扉を開く。

片腕が離れたから解る。


「たでーま。皆!紹介したい奴を連れてきたぞ!」

「おぉ。なんだよシムス。お姫様抱っこで登場とか熱いねー」

「なあなあ、その子どんな子?可愛い?」

「可愛いぞ。めっちゃくちゃな」

「マジで!?クソッ、どういうことだよ!女ッ気ゼロのシムスがリアルから女連れてくるとは!」

「嘘だろ……ジョークだと思ってたのに」

「おーいお前ら落ち着け。その子引いちゃってシムスにくっつきっぱなしじゃん。静かにしろ」

「なぁシムス。その子うちのギルドにいれんの?」


 武蔵の声に、ギルドホームにいる人達が集まって色々言っている。

なんだか凄く期待されてるみたいだけど、その勘違いを何とかしなきゃ。

その一心で顔面を立て直した僕は、なるべく弱々しく、はかない感じで挨拶した。


「あの、僕シムスの恋人のミルレールって言います。シムスに誘われてこのゲーム始めました。よろしくお願いします」

「というわけだ。紹介も終わったから、俺はちょっくらマイホームでミルといちゃついてくる」

「てめぇぇぇぇぇ!末永く爆発しろ!」

「無限にクラスターボムカードを召喚し続けて爆発させ続けてやる!」

「あー、いちゃつくのもいいがギルド狩りにはちゃんと参加しろよ」

「解ってるって。それじゃ細かい末端のメンバーにはスクリーンショットでも見せてやってくれ」

「え、スクリーンショット取られたの?」

「当然ジャン!こんな可愛い子、撮るだろ!」

「撮る撮る!撮れば撮るほど表情が変わって……美味い!」


 じっくりと周りの人の言葉をかみ締める。

撮られた、武蔵に、こんな抱っこされてる所を。

かっと頬が熱くなる。それと同時に欲しいと思う。

自分と、武蔵の画像が欲しいと。

でも、ここでスクリーンショットのデータをくださいなんていったら武蔵に変に思われないか、その考えが言葉を止める。

そして、口をパクパクさせている間に武蔵が動いた。


「お。スクリーンショット撮ったの?じゃあ誰か俺にデータコピーしてくれよ。ミルとの記念の一枚にするから」


 この言葉にまた武蔵の仲間達はやいのやいの言っていたけれど、結局僕と武蔵、二人に沢山のデータが送られてきて、僕の望みは叶った。

武蔵は、なんでこんなに僕のして欲しい事を自然に出来ちゃうのかなって。

そう思うくらい自然な流れとして、僕に思い出の証が沢山できた。

後で武蔵には「このショットとかお前顔赤いぞ」とか笑われたけどさ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ