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真面目な友の頼みごと

「頼むみのる。お前を見込んで一世一代の頼みごとがある」


 僕、瀬川みのるに、ちょっと意志が強そうな眉と瞳だけれど、それさえも精悍さというプラス要素に変えてしまう整った顔立ちの男が頭を下げる。

彼は一条寺武蔵、僕の幼稚園時代からの友人だ。

ちなみに場所は僕の家の玄関先。


「頼みってなにさ。その様子だとよっぽど真剣なお願いみたいだけど」


 僕は少し不謹慎だけれど、武蔵が相談してくれたのが嬉しかった。

だって、なんだかそれだけ大事な相談を家族じゃなくて僕にしてくれるのが、僕を凄く頼ってくれているみたいだから。


「実はな。俺がVRMMOをやってるのは知ってるな」

「うーんと、セレネダートの探索者達っていうゲームだっけ」

「そうだ。あんまりお前と話す時は話題にしないようにしてたんだけど、よくすぐに名前でてきたな」

「そりゃ覚えてるよ。だってあれ入手した時結構熱心に僕をさそったじゃないか」

「う。そうだったな……あんまりしつこすぎて怒らせたりしたよな」


 そう。お目当てのゲームを手に入れたこいつは僕にもしつこく購入を勧めて来たのだ。

僕はアクション系のゲームがあまり好きでないので断っていたのに何回も。

だからそれを武蔵のお母さんにちくって説教してもらって、何とかとめてもらったのを良く覚えてる。

まぁ、武蔵がそれ以降はあんまりそっち方面には触れずに、二人の共通の趣味である小説の話題をメインにしてくれたから、今でも仲良くやれてる。

それにしても、なんでいまさらセレネダートの話を持ち出すんだろう。


「うーん。実を言うとアクション苦手で、俺のお袋まで止めろと言ったゲームへの勧誘なんだが……」

「もしかして今更僕にアレを始めろって?レベル差が凄くてきっとお互い楽しめないよ」

「いや、狩場とかで一緒にアクションしてくれ、とかは頼む気はないんだ。ほんとはお前と並んで戦えるならそれが一番いいんだけど」


 僕は少しむっとした。

言外にお前戦力外だからと言われたようなものだ。友人として少しは怒る権利が僕にはあるはずだ。


「いてっ!すねなんか蹴るなよ!……とはいってもそれ以上の事をされる覚悟が俺にはあるだが」

「どういう事?」


 僕ができるだけそ知らぬ顔で武蔵の言葉を受け流して見せた後で問いかけると、武蔵は深々と頭を下げて言った。

その腰の角度は九十度、姿勢良くピシリと頭を下げるその姿も男らしい。

女顔な上に小柄な僕とは大違いだ。


「実はな、俺ってゲームの中でそこそこ名の知れたプレイヤーなんだよ」

「ふーん。それが?」

「それでな、あんまり言いたくないんだけど、ゲーム内マネーやアイテム目当ての女プレイヤーとか、ネカマプレイヤーが寄ってきてうざったくてさ」

「ふむふむ。もてる男はつらいね」

「そこで、お前に女アカウントでキャラを作ってもらって、仮の恋人役をしてほしいんだ!」


 僕は思わず武蔵の背中をグーで殴った。

だって、恋人役だなんていうから。

怒ったわけじゃない、いやちょっとは怒ったけどそれは仮のっていう部分であって。

いやそうじゃない、落ち着こう。そう思って僕は何度か深呼吸をする。

武蔵は顔を上げて、男らしい顔を少し歪めて、ちょっと可愛い感じ(あくまでも僕視点での話)に下がり眉にして僕を見てる。


「やっぱりダメか?元から無茶なお願いをしてるのは解ってる。どんな答えでも受け入れるから、返事をくれ、みのる」

「そんなの……」


 断れるはずないじゃないか、君の事好きなんだからという言葉を飲み込んで、僕は言葉を続ける。


「一度手ひどく僕に断られたゲームに、本気で誘うってことはそれだけ困ってるってことでしょ。僕にはそんな武蔵を見捨てるなんて出来ないよ」

「みのる、それじゃあ……」

「うん。仮の恋人役引き受ける。ただし、条件をつけるよ」

「ああ。何でも言ってくれ」

「一つ、僕はゲームの中でも僕って言う。二つ、月に一冊僕にその月の新刊を進呈する事。良いかな?」

「それくらいならドンとこいだ!みのる、お前ブレインネットワーク持ってたよな!」

「一応持ってる」

「じゃあ今日早速セレネダートの贈呈用アカウント利用権買って送るから、ログインしてくれ」


 嬉しさのあまり歯を見せて笑う武蔵を落ち着かせるために思い切り垂直飛びして、腕を伸ばして頭をスパンと叩く。

落ち着け、それだけじゃ合流とかできないだろ。


「キャラネームどうする?後今更になって僕がセレネダート始める理由」

「キャラネームはそうだな、ミールとかでいいんじゃないか?それで、始めた理由は普通に付き合い始めた彼女を誘ったからでいいと思う」

「そっか。理由と名前はそれでいいとして……名前取れなかったら?」

「そうだな、二十時頃に待ち合わせて、その前にキャラ作っておいて、名前が違うようだったら携帯に電話くれ」

「解った。ところでさ、折角始めるから聞いておきたいんだけど……セレネダートってアクション苦手な僕でも楽しめる要素ある?」


 武蔵はとりあえず彼女紹介して、それで人が引けば満足なんだろうけど。

折角始めるなら僕も楽しみたい。好きな人が楽しんでいる物を僕も楽しいと思いたい。

告白はできなくても、それくらいは許されても良いとおもう。


「お。その事なんだけどさ、セレネダートでも生産で経験値入る様になったんだよ。素材アイテムとかは暇な時に取ってきたり、倉庫に腐らせてるのやるから安心して楽しんでくれ」

「転職クエストでつまづいたりしないかな」

「ないない。転職は基本的にお使いだけ。特に生産職でつっかかるのなんて、規定レベルのアイテムを自作する部分くらいだ」

「そっか。じゃあもうなんにも心配ないね」

「だな。お前もセレネダート、楽しめよ」

「うん。じゃあ今晩楽しみにしてるよ」

「おう。よろしくな。じゃあまた後で」

「また後でね、武蔵」

 

 こうして僕は武蔵と別れて家に入った。

そして、話の途中からずっとドキドキしていた鼓動が静まるように胸を押さえる。

だって、嘘とはいえ、好きな人の恋人になるんだ、ドキドキしないわけがない。

でもこの気持ちはきっと武蔵の迷惑になるから、抑えないといけない。

僕がなるのは仮の恋人、仮の、仮の……武蔵だってきっと僕に本気で告白されたら気持ち悪いっていうに決まってる。

だから、見せ掛けだけの恋人になるの覚悟を、今の内に決めるんだ。

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