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第六話

明日から三連休のバイトにより投稿遅れる可能性大です。

ご了承くださいませ。

 穴を(くぐ)った先には巨大樹そのものを有効活用して妖精達が作り上げてきた超高度の隠れ里だ。妖精スケールの小さな建物があちこちと建造されていて梯子(はしご)式の足場がそれぞれ繋がるように妖精専用の道を作っている。灯は花弁そのものを光らせる花を場所を選んで設置しており、とても巨大樹の(うろ)とは思えない明るさだ。


 さらには大勢の妖精が個別に活動していて仄かな淡い光を散りばめるように発する幻想的な光景が広がっていた。


 俺達の来訪に妖精達の物珍しそうな視線が大半、警戒する視線が少数。きっと物珍しそうなのがシェリーで警戒しているのが俺だろうな。 

 

 俺は気にせず堂々として里を歩くがmシェリーは大量の視線に居心地が悪そうな感じだ。


「気にするな、いざという時は俺がしっかりとお前達を守ってやる」


 何気なく言った言葉がこれだが、この言葉に対してシェリーが「いや、こんな扱いをされる原因の人が何を言いますか…」と考えてる事は今の俺では思いつくことはなかった。


 普通では女にとって恋人から言われたい言葉ベスト三位に入る物だが、俺という存在が言う事で全てが台無しに変わっているのかもしれん。まぁ、別にどうでもいいが…。色恋沙汰なんて研究に一切関係ない事だ。


 シェリーが心の中で俺に対して愚痴を言っていることなど露知らず、俺はこのまま進んでいく。やがて、里の中心に来た所で立ち止まって首を上に向けた。そんな俺の行動に何があるのだろうと思ったシェリーは同じ事をした。視線の先には他の建物より一際(ひときわ)大きい建物が数多くの支えとして柱を生やして鎮座している。


「あそこが目的地だ」


 上を向いたままシェリーに教えるようにそう言って懐に手を入れた。取り出したのは紫色をしたガラスの小瓶だ。見るからに毒々しい色合をしていて不安を覚えるような代物だが、俺はそのまま小瓶の蓋を開けて中身の液体を両足に一滴ずつ垂らした。


 すると、垂らした液体から白い煙が湯気のように沸き立ち俺の下半身を包んでいく。何をしているのかシェリーにはわからないままだが、そこへ俺は小瓶を素早く小刻みにシェリーの両足目掛けて振った。これにより、見事にシェリーの両足には液体がふりかかって俺と同じ状態になった。


「安心しろ、害はない薬だ。小一時間すれば効力は切れる」


 何の薬かとシェリーは聞きたがっていたが、俺は慌てるシェリーを背に歩き出した。足からは今のシェリーと同じく白い煙が沸き立っているが、毛ほども気にしない。このまま俺は里の端、いわば洞の壁へと辿りつくや、そこで立ち止まりじっと目の前を見つめた。

 

 次の瞬間、俺はおもむろに片足を上げて幹に付け、残った片足を軽く踏ん張って跳ねるように地面から離した。


 この時、信じられない光景をシェリーは真の当たりにしていたに違いない。俺は壁に立っているのだから…。


 重力の向きが横になったかと錯覚するほど見事な横向きで洞の壁にしっかりと二本足で俺は立っている。このまま幹の壁を上へと進むが、ついてこないシェリーに怪訝な顔をして促した。


「何をしてる? 早くついてこい」


 この一言にシェリーははっとして俺と位置が垂直になる場所に急いで近寄った。


「でも…えっ、えぇっ?」


 「早くしろ」と言わんばかりの表情で俺はシェリーを見つめた。その威に決断を迫られたのか、シェリーは思い切って俺と同じ事をした。


 シェリーは初めに片足を付ける。すると、ふわりと身体が重さを失ったかの軽い足取りを取った。


 きっと自分の体重が無くなったと思っているに違いない。それは正解だ、先ほど振りかけた薬はそういう効果をもたらすのだ。現にエレイシアは重さを奪われている。

 

 それからは簡単だ。一歩、二歩と軽い感覚に包まれながら洞の壁に足を付けていくシェリーも壁を歩けるようになっていた。この不思議な感覚に恐れると同時に興奮しながら俺へと近づき、先ほど使った薬の正体を聞いた。


「野兎の血を月光に晩ごと二十七日間晒(さら)し、そこから分離した血清をさらに精製して抽出した月の力そのモノだ。この『月の(しずく)』は使用者の重力を奪い去る効果がある」

 

 月には古来から不思議な力が備わっているとされた。俺はそれを月の眷属(けんぞく)とされる兎を使い、現世に液体としてとどめさせる術式を作り上げて薬に変換させた。月の光は変質した魔素をたくさん含んでいるからな。


 小瓶を見せて力説するが、シェリーは疑問を感じていた。そして言った。上へと向かうなら今までエレイシアにも使っていた物体浮遊の魔導を使えば済むことだと…なのに使わなかった。この行動の真意をシェリーはさらに追及した。


「この土地の魔力は浄化され切っているんでな、普通に使うと人間にとっては身体に毒なんだ」


 ここに着いた時点で使ってきた結界の魔導も俺の身体にある魔力で行使した物だ。あれはやむを得なかったために使用したが、緊急を要さない場合では魔力はなるべく温存しておく方向でいる。ちなみにもしこの地の魔力を使うと…先ほど毒とは言ったが、体を蝕むのとは違う。

 

 快感を得すぎてしまうのだ。栄養を多く取るのとは訳が違い、浄化された魔力は使いすぎると心を(とりこ)にして廃人同然にしてしまうため人間には危険なのだ。


 もはや一種の麻薬に近い代物。


 ――魚も澄み切った湖では生きていけない。濁った沼こそが彼等の適地になれるのだ。


 昔教わった雑学でこんな諺もあったなと思い出しつつ、俺はシェリーと共に洞の壁を垂直に歩いていく。






 一直線に幹の壁を歩いて里の頂上に辿り着くや、あの一際大きな建物が俺達の目の前に存在した。アリスがいるのはこの建物の中だ。相変わらず無駄に高くして通路には防衛用の罠を張り詰めてあるな。


 だが、わざわざ罠がない場所を通ってここまできたのだ。安全圏となる場所の木で組み込んだ小さな橋に足を降ろしてその場に立った。俺が月の雫を使ったのはこのためでもあった。重さで橋が壊れないように考慮したからだ。

 

 ――パイプ一本分のいかにも頼りなさそうな細さの橋をバランス良く渡っていく。


「…………っ!?」


 対して、シェリーはなるべく下を見ないように慎重に進んでいる。重さが無いのでふらついてバランスを失う可能性は低くなってはいるが怖い物は怖い。高所恐怖症を患っている者ならば(すく)んで動けなくなる高さのレベルだった。


「遅いぞ、さっさと渡れ」


「無理言わないでくださいよぉっ!」


 俺はシェリーを待ってはいるが中々来ない。悪いがこういう俺の我慢は長くもたない。自分のペースを崩されるのが何よりも嫌いだからな。慎重を重ねて慎重に橋を渡るシェリーに痺れを切らした俺は直接シェリーの元へ赴く事にした。さっそく近寄るや、シェリーの手を掴みながらずしずしと素早く来た道を歩いていく。


「ひいぃぃぃっ!! 落ちる落ちる落ちる落ちるっ!!」


 乱暴な足取りをしたためかシェリーは揺れてない筈の橋を揺れてるように錯覚している。本当はシェリー自身が暴れているからそう見えているのだが、ならばなおさら橋の上に置いてはおけないので強引に連れていくようにシェリーの手を掴んで引っ張った。


 おかげでこのまま放っておくと数分はかかりそうだったシェリーの橋渡りはものの数秒で完遂したのであった。


 建物周りは少し余裕のあるスペースがあった。到着するや、シェリーは安全を求めて真っ先にそこへ飛び込み鎮座していた。下半身がガクガクと震えたままだった。


「ひっくひっく…ぅぅ…ぅ…うぁあぁあぁ、こわいよぉっ……!!」


 ついには泣き出してしまった。しまった、無理をさせすぎたなと心の中で反省しながら「大丈夫か?」と聞いた。そんな無責任な態度を取る俺にさすがのシェリーも怒りを感じたのか、涙目のまま片手で俺の胸をぽかぽかと叩き出した。


「馬鹿! 馬鹿! クリムさんの馬鹿ぁぁぁっ!!」


「悪かった悪かった、もう少しスマートにやるべきだったな」


 まるで堪えた様子のない俺の口からは謝罪の言葉が発せられるが、ほとんど誠意の感じない謝罪にシェリーの怒りはさらに増した。無事ならば結果オーライな感じに考えているのが理由といえた。


 結局、シェリーの怒りが収まるまでこのやりとりは続いた。その間、エレイシアは母の様子など関係無しにぐっすりと眠りについていた。なんとも図太い神経な赤ん坊だろうか…。将来大物になるぜ、こりゃあ。


 少々のアクシデントを済ませてから俺達は改めて建物の中へ入る事にした。建物の入り口は妖精用なので小さかった。俺達の身長の半分程度であり、どうにかして四つん這いで進めば入る大きさだ。

 

 だが妖精にとってはこれでかなり大きいほうだ。別の妖精の住み家についている入り口は目測で調べてみると拳一個入るかどうか疑わしいくらいだ。


 俺達はこの小さな入り口を背を低くして入った。その先に広がったのは森に存在する様々な物で作られた装飾物で彩られた横に広い部屋であった。

 

 色とりどりな水々しい花の数々。きれいに磨かれて光沢を放つ鮮やかな石。絨毯の形に繋げて編んで作られた大きな葉っぱ。他にも様々な装飾品がこの部屋にあった。


「お待ちしておりました、皆様…」


 俺は目の前の王座に座る妖精を相手に向かい合った。一方、見事な部屋の装飾に見とれていたのか、シェリーはこの部屋の主である存在に気がついていなかった。そこへ唐突に聞こえてきた言葉でようやく視線を向けたシェリーは目を見開きその姿に釘付けになった。

 

 シルクのように純白で柔らかな服装。装飾で飾ったウェーブがかった金髪。全身から発する部屋を満たす燦然(さんぜん)とした輝き。これら全ては見ているだけでも常人には眼副として心が洗われる気分が浮かぶだろう。


 羽の生えた小さな小人――妖精――という認識はこの妖精にも適応するが、目の前の存在はその認識を凌駕(りょうが)した別の次元の何かと思えるほどに魅力的だ。


「しばらくですね、魔導士殿」


「そっちもな、アリス。今回はうちの同居人を連れてきたんだ」


「まぁっ! あなた様が行動を共にしようとするなど珍しいですね?」


「本当の用事は別にあるが、時期が時期だから祭りに参加させてもらう事にした」


 そういやここに誰かを連れてきた覚えがなかったな。長い付き合いでもあるライザさえ連れてきたことがない。理由は単純にうるさいから。


「あら、どうなされましたか?」


 今だ呆けるシェリーの様子を気にしたのか、アリスが声をかけた。これによりハッと意識を取り戻したシェリーが慌てた。何を話していいのか思いつかないといった感じだ。


「いえ、あのっ! その……」


「そう慌てなさらずに…まずは姿勢を崩してはどうですか?」


 上品な物言いのために恐れ多いと思えてしまうアリスからの提案にシェリーは一瞬迷っていたが、俺は既に胡坐(あぐら)をかいている。それを見たシェリーが「…いいのかな?」と遠慮気味に呟いた後、静かにその場で女の子座りをした。


「お名前はなんと申しますか?」


「シェ、シェリーといいます!」


 自然に目上の人間に対しての態度でシェリーはアリスと接していた。アリスの風貌から満ち溢れるカリスマがそうさせたのだろう。


「あの、つかぬことを聞きますがアリスさん…アリス様はどういったお方なのでしょうか?」


 無理やりでも丁寧語から尊敬語に直すくらいにシェリーの緊張は極限に達している。


「私ですか? 簡単に申せばこの妖精の里を纏める女王を務めている身ですわ」


「シェリー、アリスは妖精女王(ティターニア)という存在なんだ」


「妖精女王っ!?」


 その言葉を聞くや、シェリーは声を上げて驚いた。


 妖精女王――。


 人間の間でも幻想中の幻想と称される存在だ。シェリーにも幼い頃は絵本でその存在を知って一目でもいいから見てみたいと夢を持った経験もあっただろう。だが、妖精女王を見たとされる者は人間の数千年の歴史の中で五人にも満たないたった三人だと記録にあった。宝くじが当たるよりも遥かに確立の低い幸運でもあるな。


 まさか自分がその四人目になると理解できたとなればシェリーの驚愕の理由も納得な筈だ。


「護衛達、席をはずしなさい。私はこの二人だけと話をしますゆえ…」


「はっ……!」


 ここでアリスは潜むように配置していた護衛達にそう命令した。俺は最初から気配で気付いていたが、シェリーは全然気が付いてなかったそうだ。約六匹の武装した妖精がこの部屋から退散していき、固く入り口の扉を閉めていく。


「さて、邪魔者がいなくなったところで…」


 アリスはその状況に満足した顔をして今まで座っていた王座から唐突に立ち上がった。


 そして、俺の方へ視線を向けるや『にこやか』と表現するほどの笑顔となり――


「ひっさしぶりー! 会いたかったよクリムゥ!」


 ――跳ねるように羽を広げて俺の元へと飛来してきた。腕を広げて抱きつこうといわんばかりに腕も広げてだ。いきなりの変貌にシェリーが呆然とする中、向かってくるアリスに対して俺は――


「うっさい、騒ぐな」


 ――おもいっきりデコピンでアリスを弾き飛ばしたのだった。


「ぴっ……!」


 鈍い音を立てて元居た玉座へと跳ね返っていったアリスはそのままうつ伏せに倒れ込んだ。「あれはまずいでしょう…」とシェリーが正直な感想として考えてしまうくらいに酷い有様だ。


「あたた…あいかわらずその粗暴さには衰え見られないんだね」


 打たれた場所を擦りながらアリスは立ち上がった。


「お前こそ、その猫かぶりにますます磨きをかけやがって…」


 呆れた表情をして俺は溜息をついた。


 こいつも俺が森で暮らし始めてからライザくらいに長い付き合いのある相手だ。まったくどうして会った当時は中位の妖精で落ち着きのないじゃじゃ馬娘だったくせにここまで化けれたのやら…。その性格は未だに変わっていない事が俺にとっては玉に傷だが…。


 そんな中、シェリーは混乱していた。

 

(ねぇ、二人ともさっきまでのやりとりなんだったの? 私の緊張感っていったいなんだったの?) 


 蚊帳の外と化したシェリーのそんな悲痛な思いは今の俺とアリスに伝わる事がなかった。悪いな、これが俺達のペースでもあるんだ。無理に慣れなくてもかまわん。むしろ自分の時間は大切にしておけ。

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