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9:いっぱいのいをおにかえて

 あれから10年が過ぎた……。


 初めて訪れたエルスという都市はすでに崩壊し、また、それを属していたシンバ王国ももう存在しない。


 思い返せば十年前、初めて訪れた時。


 余りの待遇の悪さに、そしてその周辺の環境の劣悪さに、人間の下劣さに、俺は我を忘れてそれを改善、いや改革するために奔走したんだ。


 幾ら探しても胸糞悪くなるような格差と貧困。富裕層の豪勢さと無駄の多い社会主義。


 民主主義に慣れきった俺はあまりにもなれない環境に、一日と立たずにきれた。


 こんなもの、こんなものは壊してしまおう。


 二度とこんな不幸な人間を出さないように。


 そこには無残な姿を晒すロックと、豪華にゆれる後宮、哀れな小さき姿を震わせて、ただ私が悪いのだと泣き崩れるポコタン。


 その更に奥には民衆に殺されたと見られるこの国の王イヨカン。


 革命は民衆の手によってなされたのだ。


 そしてそれらを操り、手を貸し、後押ししたのは紛れもないこの俺であり、新世界の神だ。


 下らない現実なんて、下らない幻想なんて、おれはその幻想をぶち壊す!!


 この世界で俺に逆らえる奴など存在しない。


 兄より優れた弟など存在しないように、神を超える人間は存在しない、してはならないのだフアッハッハハ!!






「と、いう夢を見たんだ」by俺


「君は実にバカだな」byサチコ


「ですよねーw」



 いやはやなんでそんな夢見たのか、昨日の事がぐるぐるしてたからだなきっと!

 俺は神にでも何でもなれるとか最強の槍だとか火影だとか持ち上げてくるもんだからおれもその気になっちゃって、世界滅亡とか世界制服とか危ない思想を持ってしまったんだな!

 そんでもって此処がスラムだってことと、その周りに群がる明らかな貧困層と、今までテレビの中だけだった貧困っていう目の前の光景にちょっと腰が引けてしまったということもあるし、ついでに言えば俺はそんなに正義感の強い奴ではなく、どっちかといえば平和を目指すだとかなんだとか机上の空論なんてほざいているやつらなんて無視して、隕石とかそういうんで地球なんて滅亡してしまえば良いのになんて思っている奴で、どちらかと言えばどうでもいいっていう無責任な人間だったのだ。

 なんかそういうのが夢に出たのかなぁ。


 そんな戯言を漏らして、少しだけ時を戻して今朝の話を詳しくすることにしよう。


「それでも、マスターはやろうと思えばできるのですよ……?望めば……私は何処までもついていきます」


「ほれてまうやろーーーーーーーー!!!」


「ほざけ」


「るねっさーん!」


「サチコカッター!!」


「うわっ!マジでカッターっていうかやべえ!!ベルリンの赤い雨ってれべるじゃ……しぬ!しぬ!!まじあぶないからサチコさんマジ勘弁!」


「ふん、あと47の殺人技を見せていないのだがな……あとダイヤモンドボディとか……地獄の断頭台とかやりたい……」


「やりたいとか本音こわすww……マジでやれるスペック持ってるから更に怖いこの人……」


 ちょっとだけ最初真面目にやったと思ったらそのあとぼけて、別な意味でシリアスにガチで危ない感じに切り裂かれそうになった雰囲気の後、とりあえずガッツリ目が覚めた。

 ベルリンの赤い雨を避けて眠い奴なんて居ないぞきっと。


「あーもう完璧に目が覚めた、大儀であったサチコ」


「はっ!全てはこのサルにお任せを!」


「で、これはどういことなの?」


「なに、波紋で撃退したまでです」


「ちょ、俺にも一秒に10回呼吸する方法を教えてくれよ!」


「残念ながらマスターには素質がありません」


「ちくしょっぉぉぉおおおおお!燃え尽きるほどヒイイトオオオオ!!」


 嘆く俺の目の前には、明らかにくたばっていると言うか気絶している、大小さまざまな男たち。

 共通して言える事と言えば、ドイツもコイツもしびれている様に無様……無様に痙攣していることと、みすぼらしい格好だと言う事。

 そんでもって怪我一つしていないと言う事だ。


「で、此方さんたちは?」


「恐らくマスターの終身……就寝中に進入しようとしてきましたので、物取りかなにかだと……」


「ぅ……ちが……」


「なるほど、それじゃあもっと痛めつけないとな」


「うぁ……やめ……」


「畏まりましたマスター。如何様にでも……」


「そうだな、手始めにその一番上の子供、まだ意識があるから刈り取れば?」


「ひっ……ちょ……」


「YES、MY、MASTER」


「ひ、ひいいい!!」


「まあ冗談だって冗談。え、ちょ、サチコ冗談だからやめ、さちこおおおおおおおおお!!すたんだあああっぷ!はうす!ほーむ!おすわり!ちんちん!」


「……っぽ」


 赤らめて動きを止めた危ないラブドールは刈り取れといったためか。黒い死神の鎌と形容するのが正しいと思われる、人一人分もの大きさの鎌を振りかぶりやがりましたので、必死こいてとめました。


 死ぬ物狂いで這いずりだした少年は名をコナンという。ばーろーw

 どうしてこうなったのか。何が起きたのか第三者的名視線からサチコの意見を全無視のシカトして少年の話を聞いてみる事にした。

 曰く。

 最初は本当に歓迎しようとしたのだけれども、余りの激しい問答無用の抵抗にあってしまい、どうにも中にすら入れてもらえない様子。しかしそれでも新たな住民を歓迎するために、一言挨拶だけでもというのも拒否されてしまって、それもこれもサチコの圧倒的防衛戦のお陰なのか所為なのかわからないが、そこから何故かこのエルスにおけるスラム街の沽券に関わるとして、一応はこのスラムの偉い人らが大挙して押し寄せてきたのだが、それでもあまりにも非科学的な存在を目の当たりにしてしまい、撃退される。それでも玉砕覚悟で突撃してみたところ、またもやあっけなく撃退されてしまい、それも体が痺れて動かないのでどこうにもどけないのでどうしようもないと思うまま、いつのまにか考えるのを止めた。らしい。


「なるほど。ギリギリチョップ!!」


「あべし!ってマスター、痛いです……」


「ガンザンリョウザンハでもよかったけどな……サチコさんやりすぎやで」


「よかれとおもって……」


「恐ろしい子……っ!」


 なんてこった。サチコはどうにも過剰スペックらしい。

 知ってたけど、俺が寝てると暴走してんのか過剰反応してるのか分からないが、これでは話が進まない。

 だがもしやそれもコレも俺が命令したから……?なのかもしれないと、自責で謙虚に考えてみる事にした。

 何事も自分の所為だと思って行動しないことには前には進まないのだ。

 これは世の中を円滑に進めるために学んだ社会人の知恵というもの。

 幸い改善する力は圧倒的大きさで俺は持っているのだから、これは楽だ。

 あれが悪いこれが悪いではなく、全てを改善していく方向を難なく取れるというのはおおきなメリットである。話が逸れた。閑話休題。


「おっぱい!」


 びくっとサチコともども少年がびっくりする。


「すまねえ、俺も何いってるのか分からなかった……。超スピードだとか催眠術とかそういったチャチなモンじゃねえ……。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」


「それは性欲と言います」


「ア、ナルほど!」


 サチコに突っ込まれて笑いが止まらないね!あっはっは!突っ込まれてって言っても掘られてはないけど。


「……あの、スイマセン。あなたがシーナ……さん、なんですか?」


 おずおずと放って置かれた少年が話しかけてくる。

 あん、と別に気合も入れていない目線で少年をなんだろうと見ただけなんだが、少年はビクリと身体を震わせると、俺から目を離して、ビクビクと、それでいて何かをいいたそうにしている。


「ああ、悪い、サチコのことはどうか責めないでやって欲しい。悪気があったわけじゃないんだ。それで、俺に何か用かな?」


 できるだけ紳士に、それでいて変態に、今まさにおれは変態紳士へと昇華したのだ。ただしショタではない。よく見れば幼いなりにも日々の生活のためか、生傷の耐えない、日焼けした肌と、簡単な布のタンクトップの様な上の服と簡素なズボン。そこからチラリと見える筋肉は少年ながら逞しいってオレハなにをかんがえているのだ!

 じっくりと少年を見た俺は純粋に可哀想だと思っているのか?俺は同情してるのか?俺は如何したいんだ?


 サチコに、力に振り回されている俺の身体が、いまだ前世といっていいのか日本の平和なプーでヲタクだった俺の心をかき乱している。

 何処かで現状を他人事のように思っていながら、柔軟に鍛えてきたつもりの脳みそはこの世界に、この環境に適応しようとしている。

 そのなかで俺のイデオロギーが葛藤し、混濁してカオスっているのだ。


 だなんて哲学するのはもう止めて、俺は頭悪いんだからと吹っ切る。


「こわくないでちゅよー!そうだよ!ぼくみっ○-!ははっ!仲良くしてね!」


「えっ?シーナさんではないんですか?」


 ぼけたつもりが少年には通用しない。

 そうだった俺のネタは、この世界の住人には通用しない。サチコは理解しすぎている。じつに困った。一つ俺の今の現状を、脳みその中身を開けて見せるならばそれは単純な言葉がでてくる。




 ミスった。

なんだこれ……

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