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1:オタクな俺の異世界猫耳モード♪

深く考えずお読みください。


 世間一般では分割詐欺だ、初刊限定詐欺だと言われている販売方法がある。

 それはある物を定期購読をすることで、毎週ある特定の物に特化した専門誌と、むしろこちらが本命である、関連した組み立て式の『付録』が添付されてくる形式だ。

 全ての巻数がそろう事により、『付録の材料』も揃うため、全て購読し、集めないと『付録の完成』が出来ない。

 そして初刊については非常に安い価格で販売するため手を伸ばしやすいが、結局付録の全てを完成させるためには全巻購読しなければならず、それなりの金額がかかるという、言ってしまえばゴキブリホイホイ的な、そして一度買い出したら、全巻そろえなければ完成しない付録のために、買い続けるしかない。それが狙いの商売だ。

 ただし、それは興味本位に手を出した一般市民の話で、専門的な趣味、特に周囲に同じ趣味を持たない者で、コアでマイナーなニッチで隙間産業的な趣味を持つ人にとっては、垂涎の的なのだ。

 なにしろ門出が狭い分野にて、それ専門の商業誌など皆無に等しい。理由は言わずもがな、売れないからだ。

 それでもマニアには全巻購読するものがいて、定期購読さえさせてしまえば一定の収入が約束される。

 様々な種類の専門・専攻分野を数打てばあたる的に発信し、小刻みに稼ぐ。

 まさにマニアック魂の塊の様な商売が、有る意味で成功しているのは、世界には物好きが居ると言う証拠なのだ。

 その物好きの中に俺は居ると自覚している。


 この俺、椎名一輝しいなかずきはマニアックなプラモデラーだ。

 それも某アニメのロボットだとか、戦車やミリタリーなものではなく、好きなものは廃墟。

 それも荒廃したもので、ファンタジーな城や、砦といったものが好きだった。

 化学兵器ではなく魔法や原始武器に対して防衛したり、人力によるえげつない破壊の仕方をされた建物全般がすきなのだ。

 もちろんそれらを妄想の中で魔法や兵器を使い、防衛するようなタクティクスも好きだ。


「ぐふっ、ほんとマニアックな会社だよな。だがそれがいい!」


 前述した通り、そういった物を商売にしている会社は非常にマニアックで外資系が多い。

 それは世界中に手を広げて、数少ない顧客を少しでも多く掴むためだ。

 そのざるの穴は途轍もなく大きく、殆どの人間を取りこぼすが、俺の様なマニアックな奴は引っかかる。

 むしろ引っ掛からせて下さい!的な要素が大きいのだが。

 インターネットで専用サイトから定期購読を申し込み、ニヤニヤと見つめる。


『週間・パンデモニウムを作ろう!!』デモンスティーニー社製。


 世界中の溢れるファンタジーの中から、ピックアップした異世界の廃墟の様子を詳しく紹介するその本には、伏魔殿・パンデモニウムというこの会社オリジナルの建物キットが付属している。

 ありがちな中世ヨーロッパを舞台としたSFやファンタジーから、現在を吹っ飛ばした遥か未来の舞台。

 そして日本的には戦前戦後を舞台としたり、第二次世界大戦、ましてや第一次世界大戦すらモデルにしたありとあらゆる世界観を内包した何でもありな異世界達。

 そのどれもが魅力的で、刺激的な設定とぶっ飛んだ発想に、そして出てくる不思議な建物、建造物、兵器に機械にそれらを使いこなす人類や亜人、宇宙人達。

 ここまで自分の趣味に合っているジャンルが販売されているとなれば、マニアとしては見つけしだい即効で手を伸ばす。

 手どころか体中伸ばしてやる位の勢いで、購読のボタンをポチったのだ。


 創刊号は290円。

 そして二巻から定価3990円と言うちょっとというかボッタクリとも言える高めの設定だが、趣味に全力投球しているフリーターな俺には関係ない。

 趣味のためなら死なない程度に生活費を削るなど、マニアには当然の事だ。


「椎名一輝22歳!一生を趣味に尽くす事をここに誓います!!」


 どことも無く、パソコンの前で高らかに宣言し、その後ベッドに飛び込んで一気に眠りにつく。

 リアルのびた君とは俺の事だ、と周囲に宣言するほど異常な寝つきに、観客が居たなら感嘆をあげるか、失笑を上げるだろう。


 *


「ついにきたか……」


 自室を鳴らす呼び鈴。

 玄関のドアを開ける俺。

 帽子を深く被った、青と白のストライプの配達員。

 何時もの如くさっとハンコを押すと、あざっしたーと元気な声を上げて帰っていくストライプ。

 俺の手には紙袋に入った集めのB4サイズの例のブツ。

 部屋に戻り、うっひゃっひゃっひゃっと奇声を上げながら破り捨てた外見を捨てると、そこには毒々しい色をした裏表紙。

 ひっくり返せばそこにはタイトル『パンデモニウムを作ろう!!』の文字。そして付属品の別箱がテープで巻きつけられていた。


「まずは、読了じゃああああああああ!!!」


 付属品は丁寧にテープを鋏で断ち切り、丁寧に机に置き、丁寧に保管する。

 大事な趣味には労力を惜しみません!大切に大事に適切に丁寧に扱います!


 ぼふんとベッドに飛び込みよだれを垂らして、本の世界にのめりこんで行き、時間が過ぎていく。


「はぁ~えがった、じゅるり……おっと、涎が!」


 まさにマニアの俺のツボをつく内容だった、とあっと言う間に読み終えた俺は、付属品をあけてみることにする。


「えーっと、創刊号は『土台』か」


 それは単なる四角い板にも見える、10センチ角の板状のプラスチックだ。


「徐々に増えていくこの感じ、完成まで遥か彼方……だが其れがいい!くぅううう!!待ちきれねえエエエエええエエエエEEEEEEEEE!!!」


 ご近所まで響く奇声は隣の部屋の壁ドンによって終焉を迎える。


「あ、スイマセン」


 賃貸暮らしはコレだからな、とそれでも聞こえるかどうかわからない謝罪を行うのが俺らしい。


「兎に角コレはまた来週だな、さてバイトいくか……」


 土台だけでは何も出来ない『パンデモニウムを作ろう』、はこれ以上何も出来ないので、保管して放置する。

 そうして俺は、趣味のための資金作りと割り切って、糞ったれな客にへこへこする飲食店へと、さっさと身支度をして出勤するのだった。


 *

「はい、ハンコっと」


 案の定あざっしたー!と元気に帰っていく配達員さんにご苦労様ですと敬礼して、荷物を受け取る。

 ビリビリビッリーっと声に出して紙を破き、目的のブツを取り出す。

 例の如く、付属品を、本命を丁寧にしまってから、本の世界にのめりこんでいく。


「はぁ~えがった……。こう、廃墟を見てると、ふふ……ムラムラしちゃうよね、うわ俺きもっ()」


 独り言が多いのは言わばステータスだもん!

 決して友達がいないとかじゃないんだからっ!


「それは置いといてっと、さーて今週の付属品は~~?」


 日曜日の長寿アニメみたいなイントネーションで、ウキウキとしながら箱を開けると、そこには見たことのある板があった。


「んんん?コレは……どうなってんだ?同じ物にも見えるが……」


 前回分と同じようなただ大きさが違う板。


「あぁ、これは二階の土台なのか……って土台ばっかじゃねえの!!……落ち着けまだ慌てる時間じゃない!」


 そっと板を置いて、軽く膝を曲げ、両手を胸の前で開いて、神妙な顔をして首を横に振る。

 気持ちは某天才バスケッターだ。

 俺カッケー!をしてから、先生バイトがしたいです……と虚空に放ち、バイトへと向かう。

 そしてバイト先の店で客に偽りの笑顔を振りまいて、心の中で悪態を付き捲り、店を後にする。

 そうして俺の一日は終わった。


 *

「はい、ハンコっと」

 あざっしたーとry。

 毎回同じお兄さんだけどホンと大変ッすねと心の中で労って、颯爽と部屋へと翻す。

 例の如くビリビリと破りry。

 そして本の世界にry。

 そして付属品確認ターイム!

 どうか板ではありませんようにと願いながら、箱を開けるとそこには!


「えろ画像かと思った!?残念でした!板でした~~!!」


 また、板だった。

 がっくしと膝を突いた俺はまるで、世紀末覇王が救世主に攻撃を食らったかのようだ。


「くっ、天に帰る時がきたというのか……!」


 馬鹿な事をしながら、板の裏面の地下と言う文字をみて、全く同じではないという事を認識しながら、それでもコレはヤバイと思いつつ大事にしまって寝た。本気で寝た。

 何故か!坊やだからさ、ではなく休みだからだ。

 こんなことでへこたれていてはマニナーマニアックはやってられんのだよチミィと、虚空に放ち、寝た。

 でもちょっと凹んだ。

 夢で板を何枚も何枚も、何時までたっても板しか来ない悪夢を見て一度おきて、また寝た。

 残念無念また来週~!と言いながら板が走ってきたが、もう俺は立ち上がる。

 そうおれには真っ赤に燃える右手キンブオブハートが……と言うところでもう一度起きる。


「さて馬鹿な事やってないでバイトいくかーはぁ……」


 俺の右手が真っ赤に燃えて趣味の資金を稼いでいるうちに、あっと言う間に次の週だ。


 *

「はいry」

 あざry。

 びりry。

 ry。


「うひひ、このフォルムがたまらんのぉ……、さ、て、と」


 スッと素に帰って期待の付属品をあける。


「板じゃ在りませんように板じゃありませんようにいたじゃありませんようにいたでしたー!!!!!」


 夢だけどー夢じゃなかったー。

 今度は壁的な板でした。


「もうね、ゴールしてもいいよね……?」


 一ヶ月の成果は板四枚。


「まだまだへこたれるな私!頑張れ、頑張れ私!すいーつ笑()」


 さて寝ようとベッドに某緑の怪盗ダイブをして夢に行く。


 いい夢を見ているのか、寝ている俺の顔はニヤニヤと気持ち悪いくらい笑っていた。

 あんだって?

 何で俺が俺を見る?

 どういう状況?

 ああコレが幽体離脱……ってえええええEEE!!!?

 戻れもどれもどれもどれれもどれれれのおじさん戻れよてか漫画に帰れ。


「ふう……夢か。俺も焼きが回ったな、まさかれれれのおじさんの屍を超えていくとは……」


 さてと、と身支度をしてバイトの準備。


「今日は何事も無ければイイなぁ。ヤンキーがたむろうのを追い払う俺の身にもなれってんだks店長め……」


 ブツブツいいながらも完璧にサービス笑顔を絶やさずに俺に乾杯!


 はいまた翌週~。


 *

「スイマセン、今回一杯あるんですけど……大丈夫ですか?」


 電話で配達員のお兄さんが言う事にハテナを浮かべながら大丈夫っすよーっと気軽にこたえる俺カコイイ。


「なんか頼んだっけか……?」


 記憶を辿ってもここ最近は大きな買い物はしていない。

 定期購読のあれはそんなに大きいものじゃないし、フィギアも等身大なんか買ったことないし。


「こんちわー宅配便でーす!」


「はいはいー今行きまーす、お待ちをー」


 例の如くハンコを用意して、何時もどおりのお兄さんに待っててもらう。


「お兄さん大変っすね……」


「自分、これが仕事っすから……」


 玄関を開けた先には、ダンボールを三つ抱えた宅配員のお兄さんが!

 もうあんな危険な事はしないよ、とここで会場は大笑い。

 あざっしたーー!とダンボール三つを置いて、やり遂げた男の顔をしてお兄さんは帰っていった。

 まだだ!まだ終わらんよ!とならなくて本当に良かったとだけ思うわー。


「なんだろコレ……お届け人・デモンスティーニー……っえ?なんでだよ!板四枚の次はダンボール三つかよ意味わかんねえよ!」


 それも普通の反応だろと誰に問いかけるでもなくブツクサ文句を言う。

 とりあえず1/3と表記される箱を開けてみるとそこには白い紙が。


「何々……?このたびは週間パンデモニウムを作ろうをご愛読していただきまして有難う御座いました。貴刊は今週号を持って廃刊とさせていただだ、だだだああああああああああ!!!!なんじゃあああああああああああああこりゃああああああああ!!!!」


 紙をぶち破り食い破り、飲み込み血肉にしてやろうかと思ったが大人げない事は心の中に留めて止めた。

 KOOLになるんだ俺!


「ああもう!そりゃ人気はねえだろうがやり切れよ!デモンスティーニーさんよおおおって……お詫びといたしまして?ひゅー!さすがコブラだぜ!それを先に言えよ!」


『謝罪:お詫びと致しまして全ての付属品を添付いたします。コレによりパンデモニウムを作ろう!は完成となります。詳しい事は同封の説明書をご覧ください。尚、料金は発生いたしません。今月号にて全ての支払いは完了となります。今後ともデモンスティーニーを宜しくお願い致します。ご愛読有難う御座いました!! デモンスティーニー』



「あーもう残念だ残念。まっこと至極極度に究極残念だ!デゥフフ……はっ!拙者としたことがなんとはしたない!でもうひひ……!」


 楽しみが減ったというのも事実。

 そして付属品が全てきたのも事実。

 本が無くなるのは痛いが、それよりも目的の、本命の、この為の付属品がすべてついてきたのが嬉しい。

 残念残念言う響きは憂いではなく歓喜を帯びて口からあふれ出るのだ。

 下手したらこのまま暫く退屈しなさそうだと、ポジティブに考える事にして、ダンボールを一度全部開ける。

 開けて出てくるのは板に板に板に板に板においこらああああああああああああああ!

 どんだけ板好きだよ!ドンだけだよ!

 と1/3の箱にはありとあらゆる敷地の部分の土台が入っていた。


「まさか……正気か……!?この数からして、ひーふーみーよー……数ヶ月を板に費やすというのか……恐れ入ったぜデモンスティーニー……おとなってこあい!」


 ふざけているのもそれまでにして。

 次のダンボールからは割りと真面目だった。


「大人はうそをつくのでは有りません。間違いを犯すだけなのですキリっ、と……」


 真面目に毎週買っていたら完成するのは何時になったか。

 それはそれは意味の解からないものから、明らかに地対空設備だったり、キッチンだったり。

 おどろおどろしい墓と門と、そして薬棚。

 中世ヨーローッパな絢爛豪華な装飾品的なものに、小さな異形の兵隊。キメラとかアンドロイドとか様々だ。


「錬金術と原始的武器と宇宙科学と近代兵器だぁ?まぁそれも面白いかもしれねえなぁ……。でも風呂は檜風呂!ぶひゃひゃひゃひゃ!!」


 ごちゃ混ぜにも程が有るほど内容はめちゃくちゃだった。

 それもコレもスタンスが『世界中のSFとファンタジーの建造物』だからか。

 ある意味で一つのジャンルになるのかもしれんと、腕を組みうんうんと独りごちる。


「いやーコレでオーラとか魔法とか気とかレーザー銃とかあれば凄いよなーって……あるわ……まじか……おいおい、マジかよ……。大事な事なので二回言いました」


 戦闘民族的なユニットが有ったり、火星が攻めてくる!的なレーザー銃があったり、世紀末オーラを纏った人形にRPGの様な魔法使い人形に……。


「よくもまー集めたな……てか作ったのかな?ん?コレはなんだ?」


 それはすこし気味の悪い、心臓を模した物。

 そしてズラズラと内容物の名前と説明と書いた説明書の、最後に書いてあった項目を読む。


「えーコレはパンデモニウムの核になります。大事に保管してください。使用する際は『パンデモニウム起動すいっちおん!エクスプローデッド・ざ・いぐざくとりー!』と声高々に叫んでくださいってダセえよ!てか声高々に読んじまったよ!つか、ひらがな混ぜんなよ!つか――」


 ぴかー。

 うん、そう。

 心臓を持ちながら叫んだその後には、光を放つ心臓があり、そしてそれは目を開けていられなくなるほど強く激しく輝き始めた!まるで子供たちの未来のように!ってシュウウウウウウ!!!


「なんじゃこりゃあああ!!」


 叫ぶだろう?そりゃ。


 目を開けたらそこは雪国でしたってレヴェルじゃねえぞ!

 センとチヒロもびっくりだわ!


「なんじゃこりゃああああああああああ!!!」


 その悲痛な叫びは、無機質な岩山に木霊するのだった。


 *


「あ、ありのまま今起こった事を言うぜ……。心臓が光ったと思ったら見知らぬ土地にいた。ていうかなんじゃこりゃああああ!!」


 混乱に混乱を招く光景!景色!周囲!そして俺!


「ふぅーー!まだだ、まだ慌てる時間じゃ……じゃじゃじゃじゃ……」


 某ryといった感じで後ろを振り返って僕は心臓が飛び出たかと思いました。

 何とそこには素晴らしい巧みの技があったじゃないですか。

 ご覧くださいこの光景。

 ビフォーアフターとはこの事です。

 そこには青い晴れ渡る晴天と、自然豊かな岩山に、崖の中腹に鎮座する俺の部屋があるではありませんか。

 壁を取り払いつつも、天然の光景を相まって、丁寧に鎮座してる観賞用フィギアとパソコンと周辺機器が異様な空気を放っています。

 大自然に持ち込んだ文明機器は得てして妙、独特の空間を作り上げています。

 お値段は、ピーーーー!


「これ、は……俺の部屋……のまんま……だよ……な……」


 服装もそのまま、岩肌を歩いて俺の部屋っぽい場所まで歩く。

 足の裏が痛い。

 小石が刺さるように足裏に主張してくるので、側面を使ってできる限り接地面を減らす。だせぇ。

 蟹股でなんとか5Mほどの距離を詰、カーペットの上まで来ると、安堵感が襲う。


「ふぅー!これが火渡りか……嫌になるぜ……」


 修験者の様にやりきった顔をして兎に角状況確認。

 俺はヲタクでマニアだ。

 コレくらいの不思議はなんでもないぜ。


「ままままだ、あわわわわわわ、あわわわわわわっとふざけてる場合じゃないか、真面目にやろうぜ私!スイーツ()って前もやったな……。ダメだリアルについていけない。調子狂う」


「あーベッド気持ちー太陽気持ちー温い……かゆ……うま……。だめだ!寝ちゃダメだ寝ちゃダメだ逃げちゃだめだ!」


 シンジ君ぼくやったよ!ひとりでじゃいあんをやっつけたんだ!


「よーしビークール!アイルビーバーック!落ち着いた落ち着いたぜ、Kぇぇ!!!ソウルブラザーよ!」


 まずは状況確認!


「番号!!いち!あひゃひゃひゃ!一人しかいねえっす!マジぱねえっす!!()笑。はぁ……疲れた……」


「よし、素数を数えて落ち着くんだ……ぶひゃ!」


 とそこまで奇行を犯していた俺に、一筋の光明がさす。一陣の風が吹いた。そして偶然にもばさばさと紙が飛んできて顔に張り付いた。


「こ、これは!」


 それは説明書。言わずもがなパンデモニウムを作ろうのダンボールに入っていた説明書の裏だ。


「心臓を起動しましたら、そこは貴方様専用の特別な世界となります。どうか良き余生を……って隠居か!あほか!」


 突っ込んでしまったが、そしてさらに詳細がある。


「そこは貴方の理想が反映された世界。町を作るもよし、敵と戦うもよし、世界を統治するもよし、征服するもよし、気ままに暮らすのもよし、どうかご自由にパンデモニウムを御造り下さい!……はぁぁぁ!!!?」


 これはもうあれか。SFと割り切るしかないのか。

 現状と説明書と、書かれている内容と周囲の環境と、そしてヲタッキーな俺の柔軟な思考回路と脳みそと、お気楽思考でご都合主義なファンタジーを混ぜて足して、引いて、割って、叩いて、砕いて手を振ってークッキーが二個になるくらいの考えでいくと、ここは別世界。

 リアルに感じる自然の息吹。ネットですら見たことの無い光景。

 不気味に鎮座する俺の部屋の遺物。謎の会社の、パンデモニウムを作ろうのセットに説明書。


「こりゃあ、腹決めんといかんのか……?」


 その答えは誰も答えてはくれない。


 *


「兎に角人に必要なもんはなんだ!?衣!食!住!最低限はそれだろ!」


 取り合えず、人間さんスイッチ!

 衣!は部屋着だが着ている。クリア!

 食!はお菓子しかねえよ!一人暮らしなめんな!男は黙って外食だろうが!

 住!はベッドあるけど青空教室だよ……。風が通り抜けるよ。気持ちいいよ。雨とか降ったらどうなんだよ……ヴぉけが。


「ちゅうわけで屋根から……か?」


 兎にも角にも、あの糞ファッ○キンのパンデモニウムを作ろう所為だろ。

 なんか内科医(ごじじゃないよ!)、とダンボールをあさる事にする。


「えっとコレは、メモ?」


 それには手書きでこう書いてある。

『困ったらパンデモニウム、すいっちおん!と叫ぼう!』

 ソ・レ・ヲ・したからこうなったんだろうがあああああああ! 

 といいつつも困ったんで叫んだ。


「ぱーんでもにうっむ、すーいっちょーん!」


 真面目にやれるかバッッカじゃねーの?とか思ってたら目の前に心臓が出てきました。

 浮いてます!人類の夜明けです!


「声紋承認!マスター、ご命令を」


「お前は何処のセイヴァーだよ!」


「せいばーでは御座いません」


「心臓の癖して、なっまいきー!」


「申し訳ありません……」


 ああマジで申し訳なさそうにトーンを落として声が落ち込んでるよ!どうしよう信三(ごじじゃないよ!)ちゃん!


「あ、ああスマンついていけなかった。えっと取り合えずおぢちゃん、風と雨を凌げる壁と屋根がほしいな♪」


「YES!マイマスター!」


 お前まさかレイジング何とか!?とか思う前にダンボールの中から2枚の板が浮き上がって、カッッと光ったかと思うと、周囲を岩山丸ごと覆っていた。


「おまっ、まじで?」


「イエース!まじでーす」


「殴るぞ」


「サー!イエッサー!」


「よろしい、ならば戦争だ」


「何処へ攻められますか?マイマスター」


「冗談だよ!察しろよ!ggrks!てか心臓としゃべるとかキモイ。なんとかならねえの?」


「ググリました所、近くに集落があるようです。それと何とかとは?」


「さすがグー○グル先生!パネェっす!何とかってのは何とかだよ、カワイコちゃんとか」


「いぇすまいますたー」


 そうして心臓が光ると、そこには!


 ブルァーでおなじみ、あなごさんが。


「殴るぞ……」


「冗談です。では」


 再び光ると、そこには!

 もうやらないからね!

 で、でもあんたのためなら、やってあげてもいいわっ!

 なんてツンデレでもなく、まるでオリエンティック工業なラブドールが!

 服装もブルセラてきな制服ってどこの服や。


「いかがでしょう?マスター」


「及第点、俺はロリコンじゃねえ、紳士だ」


 それではとまた光りだしたのを強制的にBボタンキャンセルした。


「十分だからいいよってか、俺なんで驚かないんかな、あ、慣れたのか、あっはっはっはっは!!」


「笑う事はいいことですマスター。あっはっはっは」


「笑うなよ」


「イエッサー!」


「もう……こういう時どうしたらいいかわからないの……」


「笑えば……」


「言わせねえよ!?」


 強制的にシャットダウン。まるでアヤ○ナミじゃねえか……。


「私は三人……」


「言わせねえよ!?てかやめろ、いや、止めてください、マジで、ア○ヤナミを汚さないで!」


「イエス!マイマスター!」


 さっきからビシっとマスターとかイエッサーとか言う所で敬礼するンだけど気にしたら負け?あ、負けか。そうか。そうでした。


「兎に角遊んでる場合じゃないんだ。だが俺は寝る」


「おやすみなさい、マイマスター」


 なにこれチン百景と思いながら俺は寝た。


 おきた。


「マジかよ……」


 そこにはなんら変わりは無い風景。

 俺の部屋をそのまま山に持ってきたような中に、広々とした岩肌、そして20Mも離れたような先と上に、見てくれも悪い土壁。

 そしてラブドールが突っ立っている。


「こわっ……」


 なんかぼんやり光ってるし、小柄な子供見たいで、妙にリアルな作りもののドールは奇妙にも程が有る。


「お早う御座いますオニイチャン!」


「ぶっこr」


「お早う御座います!マイマスター!」


「宜しい!」


 コイツハイッタイナンナンダ?

 はっ、しまったカタコトになってしまった。


「イカガナサレマスカ?」


「お前はいいよ」


「畏まりましたマイマスター」


「はぁ憂鬱。てか腹減ったなぁ」


 取り合えずと、開いてある枕元の某ボテトスナックを湿気っていながらも口にする。


「空腹でありますならば、フードプロセッサユニットを遣う手や、周辺の天然の動物を狩る方法がございますが、いかがなさいますか?」


「何それ?」


 何それマジでいってんの?本気ならオタクの総力を挙げてつぶすが。


「はい、私に冗談を言う機能はついておりません。というのは冗談ですが、マスターにはおおよそ何でもできるパンデモニウムが御座います」


「冗談はよしこさん。ってまじで?何でもって、なに?どゆこと?」


「はい、現状ある在庫から予測されます現状打破の可能性には、パンデモニウム建築が一番であると推測されます」


「ちょっとまってねー、今頭のなか洗濯機で掃除するからまってねーグールグル、グールグル、ピーン!うん!おっけーローラ感激!」


「意味が解かりませんが、宜しいでしょうか?」


「あー、二時間しか寝れないからつれーわー。昨日二時間しか寝てねーからつれーわー」


「マスターはおよそ12時間ほど睡眠を取られていた様子でしたが……?」


 うそっ!私の睡眠時間長すぎっ!?


「冗談だよks」


「そうでしたかks」


「殴るぞ」


「訴えますわよ!?」


「こいつUZEEEEEEEEE!!」


「冗談です。それでマスター。報告を差し上げますと、今近くに『ドラゴン』と呼ばれる動物が近づいております。どうなさいますか?」


「うわ、何それ、冗談でもないわー。適当にヤっといてくんね?」


 鼻をほじりながら投げやりに放り投げる。


「ご命令と在らば……。いくつかユニットを使用しますが宜しいですか?」


「あー、いいよいいよテキトーにな」


 それではとラブドールが神妙な声を出したかと思うと、ダンボールの中から幾つかの物が浮かび上がり、消えた。

 チラッと見えたのは地対空ミサイルと迫撃砲、そして痺れ罠でした。おいモンハ○ンかよ。

 途端、地面を震わすほどの振動が俺を襲う。


「な、なな!!なな!!!?」


 ベッドの上でも相当な振動。

 それは空気を震わせ、地面を震わせ、さらに俺の股間を振るわせる。

 うわ小便いきてー、と思ったのも束の間、聞いた事も無い、怒号とも騒音とも取れる恐らく動物の絶叫が部屋に木霊する。


「おい、何した……?」


 恐る恐るラブドールに聞いてみるとこうしましたが何か?的な返事が返ってくる。


「『ドラゴン』と思わしき動物を、痺れ罠で絡めとり、地対空ミサイル及び迫撃砲に榴弾砲、AK-47を駆使し掃討しました」


「最後のはいらなくね?つか明らかにオーバーキルだよね?」


「おちゃめ心と言うものです」


「そっか、それじゃしかたないねー、とても言うと思ったかgz」


「知ってたks」


「てめぇ……」


「さて、ドラゴンはいかがなさいますか?余り原型は留めていませんが、食肉にはなりそうですが」


「あー、って言うかどうなってんのかわからないからさ、ちょっと壁に穴あけてよ」


 イエスと心臓が短く答えると、目の前の壁に丸い穴が開いた。

 そしてそこから白い煙が入ってくる。

 暫くして晴れた煙の先には、それはもう巨大な、所々の面影からトカゲが横たわっていた。

 内臓をブチマケろ!な感じで中身が飛び散ってら。


「きめぇ……」


 俺の感想はそれだ。

 それよりも真面目に思考する。

 俺はベッドで鼻ほじりながら、心臓にテキトーにやっといてと口だけで命令し、あの巨体なドラゴンを殲滅したというのか。

 指先一つでダウン……ってれべるじゃねーぞ!


「マスターの御指示でしたので……」


 なにこのラブドールこわい。


「あ、ああ……て言うかマジで、マジで俺考えなきゃいけないのかな?これ」


 現実から目を背けようと、ラブドールと下らないトークをしようと、どうしようもないリアルが目の前にある。

 明らかに地球ではない景色と、明らかにSFな目の前のドラゴンとやら。


「なんじゃこりゃああああ!!!!!!!!」


 どうしようもない俺は、なんの捻りも無い、何度叫んだか解からない言葉を叫ぶしかなかった。



深く考えずお読みください。

楽しんでいただけたら幸いです。

ご意見・ご感想・誤字・脱字・罵声・悲鳴・嬌声・お礼・餞別・疑問・不満・嗚咽・叫喚・ネタの提供などなど、ありましたら是非、お気軽にお願いします。

ノクターンのほうをを宜しく!ぇ

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