中央タワーへの進路
第七施設を脱出したルカたちの前に立ちはだかっていたのは、夜明けの光に白く煙る、ラーヴェンの大通りを埋め尽くす政府の精鋭部隊だった。
彼らが背にするのは、空を突き刺す巨大な白いオベリスク――中央タワー。四〇〇メートルの威容は、マサト政権の支配の象徴として、その不気味なまでの静寂を保ったまま街を見下ろしている。
「……あそこへ行くんだな。ルカ」
ゼフが、傷口を抑えた腕を強引に引き剥がし、鈍く光る武器を構えた。顔色はまだ青白いが、その瞳に宿る覚悟は、もはや恐怖に濁ってはいなかった。
「ああ。あそこを止めなきゃ、この国の長い悪夢は終わらない。……みんな、行こう!」
ルカの叫びを合図に、革命側全員による市街戦が火蓋を切った。
迎え撃つ政府軍の防衛部隊は、これまでの地方憲兵とは次元が違っていた。展開されたのは、肉眼では捉えられない波長の歪みとしてのみ視認できる『電磁障壁』。さらに、頭上からは追跡型の自律型無人機が不気味な金属音を立てて襲いかかってくる。
「――ルカ、障壁の周波数を解析したわ! 今のパルスに同期させて。五秒後に中和する!」
ノアが携帯端末を叩き、複雑なコードを叫ぶ。
「任せろ。逆誘導プログラム、アップロード完了! ドローン共、主人の喉笛を噛み切れ!」
セオが白衣を翻し、空中の無人機にリアルタイムハッキングを仕掛ける。かつて自分が開発に携わった兵器だからこそ、その急所を知り尽くしていた。
爆音と閃光が市街を揺らす中、ガルツが施設内部の図面から導き出した「最短ルート」を叫び、一同を先導する。
これまでルカたちは、常に「逃げる側」だった。第4章での初めてのバトル、暗い路地裏を泥にまみれて這いずり回っていたあの日。
だが、今は違う。
「……見える。相手の『揺らぎ』が」
ルカは、かつてないほど鋭敏になった観察眼を使い、前方で指揮を執る防衛隊長の姿を捉えた。
隊長は完璧な武装でルカたちを睨んでいたが、その眉間、わずかに強張った筋肉、そして視線の微かな迷い。
(――この人も、洗脳が解けかけているんだ)
第30章や第31章で描かれた、街全体の変容。ルカたちの戦い、そして電波の乱れが、マサトへの盲目的な忠誠を「個」の迷いへと変え始めていた。
ルカはそれを「敵」ではなく、同じ時代を生きる「人間」として捉えた。
「どいてくれ……! 僕たちは、誰かを殺しに来たんじゃない! この偽物の笑顔を、みんなの元に返すために来たんだ!」
ルカの声に、隊長の銃口が一瞬、震えた。
ルカはその隙を見逃さず、セオたちが中和した電磁障壁の突破口へと飛び込んだ。
第4章では死ぬほど遠く、高かったマサトへの道のり。
それが今、ルカの足元に、確かな手応えのある「地続きの道」として広がっていた。
革命は、爆薬や異能だけで進むのではない。
一人の少年が「弱い側」であることを受け入れ、その眼で相手の心根を見据え、一歩、正面から踏み出す勇気。それが、何百もの近代兵器を上回る突破口となる。
中央タワーの基部、重厚なハッチが視界に迫る。
「……マサト! そこまで、あと少しだ!」
ルカたちは、市街の混乱を背に、ついに最後の檻の中へと突入した。
外の世界では、朝日が中央タワーの白い壁を血のような赤で染めようとしていた。




