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実働部隊、再接触

 ガルツが持ち帰った内部図を元に、革命組織は動き出していた。

 第七施設への突入に先立ち、セオは一つの作戦を提示した。施設の警戒を分散させるため、手薄になった郊外の旧式通信中継所を占拠し、そこからジャミング信号を送るというものだ。

「――いいか、ルカ、ゼフ。深追いはするな。あくまで陽動だ」

 拠点の入り口で、セオが念を押す。ルカは、第10章でニアに掠められた肩の痛みを感じながらも、力強く頷いた。

 作戦地点は、鉄錆の匂いが立ち込める廃材置き場の奥にあった。かつての魔法時代に建てられた石造りの塔が、政府によって無理やりアンテナを増設され、醜い姿を晒している。

「……静かすぎるな」

 ゼフが小声で呟き、手に持ったスパナを握り直す。

 敷地内には人の気配がない。ルカたちは慎重に足を進め、塔の制御室へと向かう鉄扉に手をかけた。その瞬間――。

「あーあ、見ーつけた。ゴミ溜めの鼠さんたちが、また何か企んでるみたいね?」

 頭上から、少女の傲慢な声が降り注いだ。

 ルカが顔を上げると、コンテナの上に、一人の少女が優雅に腰掛けていた。

 漆黒の超ロングヘアを左サイドだけ高い位置で結び、赤と黒のチェックのリボンが風に揺れている。黒を基調としたゴシック調の制服に、プリーツスカート、そして厚底のローファー。

 何より目を引くのは、その頭上でぴんと直立した、真っ黒な猫の耳だ。

「黒猫の、獣人……」

 ルカが呟くと、少女は不快そうに金の猫目を細め、鼻を鳴らした。

「馴れ馴れしく呼ばないで。私はルシェラ・ブラッドレイ・フォン・シュヴァルツシルト。……もっとも、貴方たちみたいな下等な人間に名乗ってあげる義理はないんだけど」

 ルシェは立ち上がると、耳に装着された大量のシルバーリングを揺らし、右手を虚空にかざした。

「『漆黒のブラック・ドーム』」

 刹那、ルカたちの周囲の地面から、真っ黒な影の壁が猛スピードで立ち上がり、視界を完全に遮断した。それはドーム状に広がり、外部との音も光も遮る「結界」へと変貌する。

「なっ……出られない!?」

 ゼフが影の壁に体当たりをするが、冷たい壁はびくともしない。

「無駄よ。私の結界は情報の蓄積装置でもあるの。貴方たちが中でどんなに喚いても、無様に逃げ回っても、そのデータはすべて私の脳内に記録される。……マサト王への手土産にはちょうどいいわね」

 ルシェは結界の内側へゆったりと歩み寄ってきた。背後では長い黒尾が、イライラとしたように左右に振られている。

「……お前も、マサトに魂を売ったのか」

 ルカが睨みつけると、ルシェの表情が一変した。余裕のあった笑みが消え、剥き出しの敵意が金の瞳に宿る。

「魂? 笑わせないで。あの方は私に『居場所』をくださった。……『黒猫族のくせに』なんて、無能な連中に後ろ指を指されることのない、私だけの縄張りをね!」

 彼女が掌を握り込むと、結界の壁から無数の影の棘が突き出し、ルカたちの喉元で静止した。

「……ここで殺してあげるのは簡単だけど。それじゃ私の気が済まないわ。貴方たちが絶望して、泣いて謝るまで、じっくりとこの檻で可愛がってあげる」

 ルシェは超・極悪いじめっ子のような笑みを浮かべ、ルカを追い詰めていく。

 だが、その攻防の最中だった。

 ルシェの背後の結界が、一瞬だけ、ノイズのように揺らいだ。

「……?」

 ルシェが眉を潜める。彼女の結界は完璧なはずだった。だが、彼女の脳内に流れ込む「情報」の中に、本来あるはずのない不純物が混じっている。

 それは、ルカたちの恐怖心だけではない。かつて自分が信じた相手に裏切られた時の、あの寒々とした孤独の記憶が、結界の波長に共鳴して逆流してきたのだ。

(……何、これ。気持ち悪い……)

 ルシェの指先が、わずかに震える。

 ルカはその隙を見逃さなかった。

「ゼフ、あそこだ! 結界が薄くなってる!」

「おうよ!」

 ゼフがルカの肩を借りて跳躍し、揺らぎの見えた箇所へ全力で体当たりを食らわせた。

 パリン、とガラスが割れるような音がして、漆黒のドームに小さな穴が開く。

「――逃がさないって言ってるでしょ!」

 ルシェが叫び、影の棘を放とうとした。

 だが、彼女の体は動かなかった。自分で作り上げたはずの結界の「揺らぎ」が、まるで彼女自身の迷いを映し出す鏡のように、彼女の足を止めていた。

 ルカとゼフは、その穴から結界の外へと転がり出し、全力で廃材置き場の奥へと走り去った。

「…………」

 一人残されたルシェは、消えかかった影の壁を見つめ、唇を噛み締めた。

 本当は、追えたはずだった。結界の術師である彼女にとって、逃げた二人の動線を捕捉することなど、造作もないことだ。

 なのに、彼女はそうしなかった。

「……わざとじゃないわ。あいつらが、運が良かっただけ」

 彼女は自分に言い聞かせるように呟いた。金の瞳に宿ったウルウルとした揺らぎを、誰にも見られないように、わざと威張るような仕草で長い髪を跳ね上げた。

「……マサト王には、取り逃がしたって報告しなきゃ。ああ、面倒くさい。……今夜は、高いコーヒーでも飲んで寝るわ」

 彼女は独り言を吐き捨て、夜の闇に消えていった。

 彼女自身も気づいていない。なぜ自分が、あの少年たちを完全に潰さなかったのか。

 ただ、彼女の心の中に蓄積された「情報」の中には、ルカたちが放った「諦めない意志」というデータが、消えない火のように刻まれていた。

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