永遠の少年と近所のお兄ちゃんが好きだったお姉さん。
ある日、大好きだった近所のお兄ちゃんが忽然と消えた。
12歳の少年が行方不明になった朝、街は小さな騒ぎに包まれた。
神社の境内に残されたのは、仮面ライダーの変身グッズだけ。
6歳の田中百合は、初恋の相手を一瞬で失った。
大人は、必死に付近を探したが、足跡が神社の社で不自然に途切れていたそうだ。
今でも思い出す。
お兄ちゃんの柔らかな笑顔。
目の下のホクロ。
私は、田中百合。
社会人に今年からなったばかり、上司に叱られてしんどい足取りの中、私は帰路につく。
夜の住宅街。
雨が上がったばかりで、アスファルトが濡れて光っている。
スマホの通知音がひとつ鳴り、私はポケットから取り出す。
その瞬間、背後に微かな気配。
振り返ると、雨粒の残る街灯の下に
――少年が立っていた。
見覚えがある、ホクロが目元にあった。
「さとるくん……?」
思わず声が震える。
少年は笑っている。だけど、体はふわりと宙に浮き、髪も服もほんの少し透明で、風に揺れるたびに雨の水滴がくすぐるように弾ける。
「久しぶりだね、ゆりちゃん」
その声に、昔の温かさと、どこか不安定な違和感が混じる。
「……どうして、こうなったの?」
手を伸ばすと、指先は空気を掴むだけで、冷たい霧の感触が残る。
「変わっちゃったのかもしれない。でも、ここにいるよ」
さとるくんは雨に濡れた自転車の横にふわりと座り、私を見上げる。
小さな路地からカランコロンと自転車のベルが鳴り、遠くで犬が吠えた。
――現実の音と、彼の異質な存在が混ざり合う瞬間、胸がきゅっとなる。
「覚えてる? 夏祭りで一緒に金魚すくいしたこと」
「……覚えてる。あなた、金魚よりも私の手をつかもうとしてたよね」
笑いながら言うと、さとるくんの瞳が微かに揺れる。
「うん、でも手は届かなかった」
霧のような体を揺らし、彼はそっと近づく。
手が触れられない代わりに、耳元で微かに呼吸の音がしたような気がして、私の心が高鳴る。
「会えて、よかった……本当に」
私は小さく呟いた。
さとるくんは、にっこり笑って、雨に濡れた街灯の光に溶けるようにして消えていく。
だけど、靴の底に残る水の音、濡れたアスファルトの匂い、そして胸の奥に残る温もりは、そのまま消えなかった。
あの少年は、怪異になったとしても、現代の街角で、私の中で永遠に生きているのだ。
触れない
触れれない




