第5話 握手と修復
握手、人間種の中で友好の証となる行為の1つ。
男女問わず、気軽に行われるボディタッチ。
ここで勇者、アズサが握手を求めるのはごく自然な行動だ。
普通なら握手に応じる。
パーティを組んだのだから、握手で契約成立とも取れる。
だが、応じれば確実に加護で手が焼かれる。
ナイフが届く前でも焼かれたのに、触れるとなれば、手が焼け落ちてもおかしくない。
……肌接触に厳しい家庭ということニ……いや不可能。
ボクは自分の手に視線を向けた。
そこには白い手袋が見える。
服を作る際に、衣装に合い暗殺の証拠が残りづらいという理由で、手袋を作っていた。
そして、最初の暗殺時に手が焼かれた後、火傷跡を隠すためにずっと手袋をつけている。
すでに火傷は修復したが、脱ぐ理由もないとして、つけ続けていた。
これでは、肌接触にはならなイ。
まさか、こんな罠があるとは思わなかっタ。
どうするべきカ。
何か策はないカ?
思考に時間をかければ不自然。
思考する時間も限られている。
……一か八カ。手袋越しなラ。
この服は、頑丈な材料をベースに自分の高濃度魔力を込めてある。
物理、魔法どちらでも防御性能は高い。
これなら、神の加護の被害を減らせる可能性はある。
その上、手袋越しなら焼かれても気づかれない。
笑顔を作って、握手に応じる。
勇者の手に近づけただけで手が少し焼けていク。
近づく事に、内部まで焼かれていく感覚があル。
時間をかけては、肉料理のようにこんがり焼かれてしまウ。
素早く勇者の手を取り握ル。
……障壁はないカ。
「これからよろしくネ」
「よろしくね、リアさん」
強く握られたが、握られている感覚はない。
焼かれてる感覚しかない。
表情に出ないように堪える。
ボクの種族的に、肉体の痛みへの耐性は高い。
しかし、神の加護で焼かれ続けるのは話が違う。
……また修復しないとしないト。
握手を終えて、地獄の苦しみから開放された。
「明日は予定空いてる?」
「空いてル。依頼受けル?」
「そのつもり、簡単な依頼から少しずつの予定だけど……良い?」
「問題なイ。こちらも急いでないかラ」
むしろ、勇者の現在の力量を見ることができるのは大きい。
加護の能力も近くで見ていれば、分かってくるだろう。
現在の勇者の実力が、どの程度かでこれからの計画が変わる。
魔王軍への反逆がバレるまでに、魔族と戦える強さを身に付けてもらう必要がある。
今日のところは、ギルドで別れてそれぞれ帰る。
宿に帰った後、通信石を使いアルルスに定期連絡を行う。
まだバレる訳には行かない。
前回と同じような話をして、雑にごまかす。
アルルスはいつも通り、嫌味を言って通信を切った。
「修復しないト」
手袋を外して、手を確認する。
すると、手の全体が焼け焦げていた。
内部まで焼かれて酷い有様。
握手しただけで、ここまで焼かれるとは、凄まじい加護。
……手袋でいくらか軽減はできていそう。
「内部修復は魔力を使ウ。厄介」
自分の魔力で作った針と糸を手元に生成する。
そして、焼け焦げた手に針を突き刺す。
素早く、丁寧に焼けている部分に魔力の糸を縫って直していく。
ボクの種族は、魔人形。
魔力の針と糸を使えば、身体を修復できる特性を持つ種族。
この身体で助かっタ。
神の加護による損傷は、治療しづらイ。
高度な治癒魔法を持つならともかく、持たない普通の魔物や魔族なら、治癒に数日は掛かっていタ。
「修復完了、次は触れられないように気をつけないト」
仲間となったということは、物理的な距離が近いことも多い。
その都度、距離感間違えて、焼かれては困る。
物理的な距離感を一定に保つ必要がある。
「寝ル」
宿のベッドに入り、明日に備えて眠りにつく。




