第1話 神の加護
素早く腕を引く。
そして、不自然にならないようにサッと、端へ移動する。
……何ガ……手が焼けタ?
手を見ると、火傷を負っていた。
焼けた痛みもある。
しかし、服やナイフに焼かれた痕跡はない。
「反撃されタ? 気づかれていタ?」
勇者の姿を確認するが、気づいた様子はなく呑気に出店で食べ物を購入している。
奇襲に気づいていれば普通なら騒ぐ、追撃などの選択を行う。
一つ思い当たるものがあル。
神の加護、それなら本人の意思を介す必要がなイ。
防御反撃系の加護を持っているとなると厄介ダ。
どういう発動の条件カ、分からない以上、迂闊な手出しが難しイ。
裏路地に移動して、通信用の石を取り出す。
魔力を通すことで、石を持つ他の者と通信が可能になる。
魔王の持つ通信石に繋ぐ。
「おや、どうかしましたか」
出たのは魔王ではなく、側近のアルルスだった。
「魔王サマハ?」
「儀式の準備で手を離せません」
数年前から魔王が準備している儀式。
重要な儀式とだけは聞いているが、どのような儀式なのかはボクは知らない。
「勇者殺しの件で、報告をすル。神の加護は防御反撃系の力、接近時手が焼かれタ。発動条件効果不明、情報求厶」
情報があれば、神の加護相手でも対策を立てられる。
「それを調べて殺すのが貴女の役目です」
「情報集め、援軍求厶」
情報集めは単独では難しい。
時間がかかり過ぎる。
街に潜める魔族の支援が欲しい。
「援軍はありません。今前線が拮抗していますから、そちらに派遣する余力がありません」
……役に立たなイ。
勇者殺しは、最優先事項と言えル。
魔王サマに対抗できる存在の始末に、人員を割けないは分からなイ。
拮抗してるとはいえ、1人2人くらいなら派遣できるハズ。
「1人モ?」
「えぇ、1人も無理です。援軍がいなくともそのくらい可能なはずです。軍団長の貴女ならば。神の加護があると言っても、未熟な勇者を軍団長が殺せないというのは問題です」
通信が一方的に切られた。
石をしまう。
「仕方なイ。酒場で情報を集めて他の手ヲ」
援軍がないならないと、割り切るしかない。
酒場は人が集まるため、必然と情報が集まる。
しかし、勇者が召喚されてまだ間もないからか、加護についての情報は手に入らなかった。
……外レ。
ギルドは冒険者が集まる場所のため、避ける。
図書館で本も確認したが、今回の勇者の情報はなかった。
情報がない以上、接近しない別のやり方を試す。
直接攻撃は、外れた時のリスクが高イ。
だから、事故に見せかけル。
「ここが良いナ」
家の屋根に乗り、魔法で気配を消して、静かに待ち構える。
建築用のレンガを用意した。
勇者が近くに来た瞬間に、上からレンガを落とす。
並の人間なら当たれば死ぬ程度の規模。
勇者も肉体強度は人間種の平均程度、殺れる。
勇者が来た瞬間にレンガを落とした。
そして、素早くその場から離脱する。
その後、ゆっくりと騒ぎに気づいた野次馬を装って紛れル。
「なんだなんだ?」
「何があっタ」
「人の上にレンガが落ちたんだってよ。怖ぇな」
「危なイ」
人混みに紛れて勇者の安否を確認する。
「危なかったぁ」
勇者は生きていた。
それどころか、身体に傷1つない。
ボクは当たる軌道で落としたつもり。
……障壁カ?
石ころを強く蹴り勇者目掛けて飛ばす。
石ころは、何かに阻まれて地面を転がる。
……障壁カ。物理攻撃に対するバリア。
先程の落下物も防がれたと見れル。
障壁を撃ち抜く魔法を、ボクは持っていなイ。
近接系の魔法はあるが、確実に気づかれル。
他に仲間がいればやりようはあるが、いなイ。
ボクが失敗したら、次が派遣される……か分からなイ。
「別の作戦を決めル」




