プロローグ
魔王城内部、禍々しいオーラが漂う道をボクは歩く。
魔王サマに呼ばれたから行くしかなイ。
王の間へ続く無駄に長く、無駄に豪華な芸術品が等間隔に置かれている道を進む。
大きな扉の前に着き、押し開いた。
「来たか」
低く重い声が部屋中に響く。
魔王サマの声、しかし、部屋の中に魔王サマの姿は見えなイ。
「何用でしょうカ」
「勇者を殺せ」
「勇者ですカ」
勇者、脆弱な人間種が別の世界から呼び寄せたと言われている存在。
神の加護を持ち、魔王を倒し滅ぼせると言われている。
「噂は知っているな?」
「はイ」
最近、人間種が勇者を召喚したと言う話は、魔王城で持ち切りになるほどの話題であった。
魔王直々に勇者を殺せという指示を出すということは、勇者を警戒しているということになる。
魔王サマが警戒するのも無理はなイ。
勇者の持つ神の加護は、魔王サマを含む魔族に対して有効なシロモノ。
前回の勇者は、魔王城に辿り着くほどの力を持っていタ。
「出来るな? 防衛軍 軍団長カナリアよ」
「尽力致しまス」
「話は終わりだ」
「失礼致しまス」
王の間から出て、扉を閉める。
部屋に向かい、支度を素早く行う。
「勇者は、まだ未熟。仕留めるなら今しかなイ」
召喚されたばかりの勇者は、強い加護を持っていても戦闘力においては未熟。
勇者の適性を持つ者は、戦場を知らぬ青年である事が多いと聞ク。
軍団長のボクであれば、余裕で殺せル。
成長する前に仕留めル。
ボクは部屋の鏡を確認して、服を脱ぎ捨てた。
人間種の街へ行くのだから、人に擬態する必要が出てくる。
軍団長の服では、人の街で目立つ。
擬態するための服が必要、今から作る。
街を歩いていて魔族だと気づかれてしまったら、勇者殺しどころではない。
細心の注意が必要。
椅子に座り、体格を確認していく。
前に確認した時より伸びている。
「生物性の成長カ、少し大きく作ル」
勇者殺しの任に、ボクが指名された理由は分かル。
ボクの種族は、魔族の中では人間種に近い見た目をしていル。
その上、強いとなればボクくらいなモノ。
妥当な采配。
「確か道化と言ったカ。似た人間種がいたハズ」
頬に描かれたひし形マークは目立ツ。
しかし、人間種には顔にマークを好んで付ける者がいたと記憶していル。
道化、手品師といった者の服装に近いものを手早く作り装着した。
……この色、目立つナ。
目立たない色合いに作り替えてから、部屋を出る。
「勇者が召喚された国は、レーアと言ったカ。転移石を使おウ」
懐から石を取り出して使う。
転移石、自らの魔力を刻んだ場所へ飛ぶことができる魔導具。
軍団長級は全員持っている。
石から暗い光が発生し、ボクを包み込む。
光が晴れると暗い森の中に立っていた。
……ここからレーアは3日かかル。近いのは消されたカ。
もっとレーアに近い場所に魔力を刻んでいたが、転移ができなかった。
発見され消されている。
街に向かって徒歩で向かう。
ここから先は人間種が多く生息している。
下手に魔族の魔法は使えない。
接近を悟られる前に勇者を殺ス。
殺してしまえばその後、気づかれても支障はなイ。
冒険者のような人間種、ドワーフ種、エルフ種のパーティと遭遇するが、魔族と気づかれずにすれ違うことができた。
冒険者の中には、聡い者がいるから油断できない。
夜は野宿をして、3日かけて街に到着した。
そして、レーアを囲む城壁は真正面から突破した。
……人間の守りは甘イ。勇者は城カ。
城となると、簡単に入るのは難しい。
こじ開けても良いが、勇者を殺す前にバレてしまう。
確実にやるなら、どこか侵入できる場所を探す必要がある。
まっすぐ、城へ向かう。
「これが異世界の街かぁ。結構発展してるな」
……異世界?
足を止める。
異世界とは、勇者が呼称するこの世界の呼び方の一つ。
普通なら使うことのない言葉。
声の主の姿を確認する。
冒険者のような服装をしている。
人間種に近い黒髪の青年、しかし顔立ちがわずかにこの世界の人間種と違う。
……不用心、殺ル。
ふらっと、近づく。
護衛はいないようで、たやすく背後を取れた。
背後から、素早くナイフを振るう。
狙うは首、一撃で仕留める。
その瞬間、ジュッと焼ける音がした。
「ハ?」




