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ストリートピアノ   作者: 村松希美


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8 ドラゴンクエスト序曲




 健診結果の封筒を手にしたまま、浩介はしばらく動けなかった。

 「大腸がん」。その言葉は、胸の奥に鉛のように沈んでいった。


 五十を過ぎても体力には自信があった。休日にはジョギングをし、会社でも部下に頼られる存在だった。そんな自分が、まさか病気になるなんて。

 帰り道のショッピングモールを、重い足取りで歩く。心の中に立ちこめる暗雲のせいで、どんな音も遠くに感じた。


 ところが——。

 広場に差しかかった瞬間、耳に飛び込んできたのは、あの勇ましいファンファーレ。


 「ドラゴンクエストの……序曲?」


 ステージの隅に置かれたストリートピアノの前で、高校生くらいの男の子が鍵盤をたたいている。

 金色のトランペットが鳴り響くかのような力強い音。周りにいた子どもたちは、まるで冒険のはじまりを待つように目を輝かせていた。


 浩介は思わず立ち止まり、遠い日の自分を思い出した。

 あの頃、夜通しプレイしたドラゴンクエスト。

 戦士、僧侶、魔法使い——仲間たちと共に、何度も倒れ、何度も立ち上がって魔王を討った。

 「勇者の剣を手に入れた時のあの感動……」

 胸の奥がじんと熱くなる。


 ピアノの旋律は、ただの懐かしさではなかった。

 それは、“冒険の始まりの音”。

 たとえどんな敵が現れようとも、立ち向かっていく勇者のテーマだった。


 浩介はそっと拳を握った。

 今度の魔王は――病気だ。

 だけど、あの頃の自分が剣を抜いたように、今の自分も闘うしかない。


 曲がクライマックスに達した瞬間、浩介の中に何かが灯った。

 「負けてたまるか」

 その言葉が、心の奥から自然にこぼれた。


 演奏が終わり、拍手が広がる。

 浩介もその中に混ざって、静かに手を叩いた。

 青年がこちらを向いて、少し照れくさそうに笑う。

 浩介は思わず頷いた。


 その後、浩介は医師と相談し、治療計画を立てた。

 数週間後、再検査の結果が出る。


 「良性です。手術も必要ありません」


 胸の奥から重みがすっと消え、浩介は力なく笑った。

 病院の窓から差し込む光は、まるで新たな冒険の始まりを祝福するかのようだった。


 数日後、浩介はあのショッピングモールの広場に戻った。

 少年は今日もピアノを弾いていたが、浩介はそっとその隣に腰を下ろした。

 勇気をもらった浩介は、思い切ってピアノの前に座る。


 指先が鍵盤に触れると、懐かしい旋律が少しずつ流れ出した。

 あのドラゴンクエスト序曲。

 少年も微笑みながら隣で伴奏をつける。


 広場にいる人々の耳に、勇者のテーマが優しく響き渡る。

 浩介は心の中で呟いた。


 「これからも、自分の人生を全力で冒険するんだ」


 その日、二人の勇者の音色が、午後の陽だまりに希望を刻んだ。







アイデアを出してAIが書きました。

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