6 アメリカンパトロール
リバイバル映画を見終わった。高校2年生の和也と京子は、イタリアンレストランに入ってスパゲッティを食べていた。
和也は映画を見ている時から心ここにあらずといった感じだった。京子はそれがどういうことなのか察しがついていたが、決定的な言葉を言わせないように、余地を与えないように、陽気に喋しゃべり続けた。
「それでね……ダニエルもよくやるわよね。ジョニーがトイレでタバコを吸っている時に、上からホースで水をかけて逃げたんだから。痛快だったなぁ。ダニエルだって、あんなことされたら、仕返ししたくなるのは当然よねー」
京子の言葉が2人の間で虚しく響いた。
「食べ終わったし、もう出よう」
和也が京子を促すと、2人はイタリアンレストランを出た。
京子は、和也があの言葉を言い出さなかったことにホッとして、ショッピングモールを歩き出すと、また喋しゃべりだした。
「昔の映画も結構おもしろいね」
リバイバル映画鑑賞は和也の趣味だが、和也は何も答えずに、何やら思いを巡らしながら、スタスタ歩く。京子もその後に続いて歩いたが……。
突然、和也が立ち止まり、京子に振り返った。
「あの、俺さあ……」
京子は、やめて!と心の中で叫んだが、和也は続きを話し出した。
「もう、京子とはつき合えない。好きな人ができたんだ。ごめん」
と、和也は京子に頭を下げると、走り去ってしまった。
京子はそこから一歩も動けずに立ちすくんだ。
わかってた。わかってたけど……
涙が溢れてきて、頬を伝った。京子の涙とともに、近くのストリートピアノから『アメリカンパトロール』のメロディが流れてきた。
タタタタ、タタタタ、タタタタ、タタタタ♪
タータッタタタタ、タッタータタタタ……
何でこんな時に、歩がよく弾いている曲が流れてくるの?
京子は涙を抑えることもできずに、こんなことを考えていた。
歩とは、京子の幼なじみで、京子の家の隣に住んでいて、よく『アメリカンパトロール』をピアノで弾いていた。
ストリートピアノの『アメリカンパトロール』は、20代くらいの見知らぬ女性が弾いていてたが、その奏者を挟んだ反対側から、歩は、京子の姿を心配そうにじっと見ていた。
この物語に出てくる映画は、ベスト・キッドの最初の作品です。
再掲載です。
AIは使っていません。