表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5 let it be (そのままでいい)





 日向(ひなた) 拓人(たくと)は、いつも窓際の席でぼんやり外を眺めていた。

 昼休みの教室では、誰かが笑い、誰かが走り回り、誰かがため息をついている。


 そんな中で、ひときわ静かな子がいた。

 白石あかり。

 目立つタイプではない。

 でも、花瓶の水を替えたり、黒板消しを洗ったり、誰も見ていないところで小さな仕事をしていた。


 ある日、拓人が声をかけた。


「なあ、それ、誰かに頼まれたの?」


「あ、ううん。気になっただけ」


「真面目だな」


「そう? きれいな方が気持ちいいでしょ」


 あかりは笑った。

 その笑顔が、春の陽みたいに柔らかくて、拓人は思わず目をそらした。


***


 土曜の午後。

 ショッピングモールの吹き抜けに、1台のストリートピアノ。

 拓人は練習を兼ねて、時々そこへ弾きに来ていた。

 ピアノだけが、自分の気持ちを正直にできる場所だった。


 その日、ピアノの前に座ろうとしたとき――。


「ちょっと、あんたさ。何、いい子ぶってんの?」


 聞き覚えのある声。

 視線を向けると、あかりがクラスの女子たちに囲まれていた。


「別に……いい子ぶってなんかないよ」


「うそ。先生の前ではニコニコして、陰では優等生気取りじゃん」


「やめてよ」


 あかりが小さく言った瞬間――ぱしん。

 乾いた音が広場に響いた。


 頬を押さえて立ち尽くすあかり。

 周りの人たちは一瞬見ただけで、すぐに通り過ぎていく。


 拓人の胸の奥が熱くなった。

 気づいたら、ピアノの椅子に座っていた。

 何も言えない代わりに、彼は指を鍵盤に置いた。


 流れ出す音――Let it be。


 静かに、やさしく、でも確かに。

 「そのままでいいんだよ」と伝えたくて。


 最初のフレーズで、あかりが顔を上げた。

 涙が頬を伝っていたけど、目の奥に光があった。


 ピアノの音が止むと、あかりはゆっくり近づいてきた。

 人々のざわめきの中で、彼女の声だけがはっきりと届いた。


「……拓人くん、今の、私のために?」


「さあ、どうだろ」


 拓人は少し照れくさそうに笑った。


「でも、そう聞こえたなら、それでいいと思う」


 あかりは、頬に残る赤みを隠すように髪を耳にかけて言った。


「ありがとう。……嬉しかった」


「ううん。俺こそ。あかりは、あのままでいいと思うよ」


 そう言って、拓人はもう一度だけ鍵盤を叩いた。

 最後の和音が響き、二人の間にやわらかな沈黙が降りた。


 吹き抜けを抜ける風が、二人の頬を撫でた。

 ――Let it be。


 そのままで、いい。



-



アイデアを出してAIが書きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ