10 ウィリアム・テル序曲
藤堂聡は、終業チャイムの音を聞いても立ち上がれなかった。
会議室でのプレゼンは、またしても上司の佐伯に潰された。
「理想論だな」「数字が甘い」「そんなことは現場じゃ通用しない」
佐伯の言葉は、まるで冷たい雨のように彼の心を打ち続けた。
資料の端が震える。
努力を笑われるのが、いちばん堪える。
この数ヶ月、休日も削って準備したのに――。
聡はパソコンを閉じ、ネクタイを緩めてオフィスを出た。
夜風が、思いのほか優しかった。
駅前の広場にさしかかると、白いストリートピアノがぽつんと置かれていた。
昼間は人だかりで賑わうその場所も、今は誰もいない。
街灯の光が鍵盤に反射して、淡く輝いていた。
聡は立ち止まり、深呼吸した。
「ウィリアム・テル序曲」――。
学生時代、彼が唯一、人前で自信を持てた曲。
自由を求めて立ち上がる英雄の旋律。
もう何年も弾いていない。けれど、今は無性にその音を出したかった。
指が鍵盤に触れる。
静かな“夜明け”が広場に広がる。
朝日が山の向こうから差し込むように、音が息を吹き返す。
やがて、嵐のパート。
右手と左手がぶつかり合い、激しく音がうねる。
佐伯の言葉、焦り、悔しさ――すべてを叩きつけるように。
鍵盤の上に汗が落ちた。
嵐が過ぎると、牧歌が始まる。
彼の呼吸もゆっくりと整っていく。
アルプスの風のように、やさしく、自由な音。
こんな風に生きられたら――。
聡の唇が、かすかに笑った。
そして、最後の行進。
タッタカタッタカタッタカターン――。
両手が駆ける。音が疾走する。
通りの向こうで、誰かが立ち止まった気配がした。
だがもう関係ない。
彼はただ、音の中で自由を取り戻していた。
最後の和音を打つ。
その瞬間、街の灯りが少し滲んで見えた。
拍手はなかった。
けれど、心の奥には確かな光があった。
聡は小さく息を吐き、ネクタイを結び直した。
「……明日、もう一度やってみよう」
ピアノの蓋を静かに閉じ、夜風の中を歩き出す。
風が頬を撫でる。
まるで、ウィリアム・テルがそっと肩を叩いたようだった。
-
アイデアを出して、AIが書きました。




