電車に乗り駅で降りて見上げるは……
「うーん、案外人がすくないんだな」
境市で降りたとき俺はそうつぶやいた。
電車の中でもそうだったけれど人はまばらだ。
以前見たとおり駅前だというのに活気がない。
並んでいる店も食堂や雑貨屋が大部分を占めている。
「そうね、新入生三百人っていっても入学式は午後からだから……近くにいる人はもう少しあとにくるでしょうし、寮に住む人は多分前日には入寮してる人が多いからじゃないかしら?」
要するに中途半端な時間なんだろう、何もない駅前の広場にポツンと一つだけたっている時計をみれば10時を指していた、入学式は1時からだから確かに微妙な時間だ。
さて、現実を見よう。
ぐるりと首を回す。
崎守学園へと続く道。
二車線の道路はきれいに舗装されている。
……問題は30度ほどの坂道が3キロ続いてることだけれども。
「……これ登るのに魔術つかっちゃいけないっていうのは絶対におかしい」
「追突事故で捕まりたいのならご自由にどうぞ?」
走っている最中に肉体強化をして時速100キロで走って人にぶつかったとすればそれは立派な追突事故である。
当然のことではあるけども常時自分に防護魔法をかけている人はいないので、下手をすれば殺人事件にまで発展する、するのだが、
「――イイイイイイイイイイヤッホぉぉぉぉぉぉ!」
「……おいおい」
「……信じられない」
踵から火を吐き出しながら(恐ろしいことに比喩ではない)ものすごいスピードで車道を登っていく赤い長髪の馬鹿がいた。
まるでスキーでもしているかのような姿勢で、だ。
「ひゃっはああああああああああああああああ!」
明らかに時速150キロは超えている。
下手をすれば殺人事件どころの騒ぎではない、下手をしなくともぶつかれば殺人事件だ。
驚いている間にその姿が霞んですぐに見えなくなった。
「あのさ」
「ええ」
「俺、ここでやっていけるのか先行き不安になってきた……」
「……奇遇ね、私もよ」
となりを見れば岬が引きつった顔でこちらを見ていた。
「さて、普通に登ろうか」
「ええ、そうするのが一番ね」