間章――その少女は、
「お友達……に?」
そう、少女は確かにそういった。
見据える、見つめる、見通す。
目の前にはおそらく自分と同じくらいであろう12~14才ほどの少女。
踵まで伸びた美しい黒髪、整い、そしてうっすらと化粧をされたその容姿はお姫様としかとらえようがなく――だからこそ恭介は自分が呼ばれたのか?と思った。
中将の息子、斉藤恭介――姫君の友達役としてはちょうどいい位だろう。
そう打算で判断し、首肯しようとしたまさにそのとき、大和が、魔法使いがこう言った。
「くくくっ、それが契約の一部だそうだ――否、これこそが契約」
――目の前の少女はお姫様などではない。
そう理解した、理解してしまった。
王子は、大和は、契約を結ぶ。
それこそが大和の魔法。
――絶対の契約
契約内容を施行させるものではない。
契約内容を違反した場合の罰則によって施行せざるをえないものとする――それが絶対の契約。
矛盾、絶対でありながら破ることができるというものは。
だが、それでもこれは絶対なのである。
罰則――違反の対価は基本的に己が死、だ。
死を賭してしか契約を破棄することは敵わない。
故に絶対――命を賭せる人など存在しない。
――それを、結べというのか?
だが、それに対して大和はクククッと笑い。
「何を考えているか分かるがな、斉藤の?
それは違うとだけ言っておこう。
何、契約などと言ったがな?
これは魔法ではない、ただの言葉。
口上での約束だよ。
いやなに、端的に行っておもしろかったのでな?
魔法使い――己が命を預ける対価に求めるものが友達などとは。
クククッ、理解できないな。
ああ、だからこそおもしろい。
だからこそ魔法などで縛ってしまってはつまらない。
だから、繰り返すぞ斉藤の?
それは違う。
これは魔法ではない、契約でもない。
まあそんなものは俺が王子である時点でなんの意味もないがな?
さてどうする、斉藤の?」
訊ねられ、我に返った恭介は――しかし考える時間はあまりないのだと理解していた。
時間はない、それでも思考する。
ああ、だがそんなものはまるで無意味だったと先に述べておこう。
何故ならば、
「む、無理はいいません」
そう言った少女が、己よりも小さく、儚げで、
「い、一週間で、一週間だけでいいんです」
そして何よりもそう繋げていった少女の言葉が恭介の胸にささったからだ。
ここに打算は、父の思惑も、王子の思惑も、そして自分の思惑も――なにもかもがなくなった。
だから恭介はあたまをさげたのだ。
「こちらこそお願いします」
と。