勝敗
既に魔力は希薄、反撃に耐えうるレベルの魔術は生み出せない。
故にこれよりは格闘戦――そして俺の土俵だ。
足を踏み出し、残りは一歩――仕掛ける、ぞ!
「霧島流近接格闘術――」
左手を前に、腰を落とし、右手を極限まで引き戻す。
構えるは己が武術――崩掌。
修介にとって焼きついているであろう一撃――一撃必殺の己が技。
「崩――」
技に、しかし修介は両手を胸の前でクロスすることによって受けようとし。
「――掌、とでも言うと思ったか?」
一度見せた技である以上、警戒されるのは当然――むしろそれを逆手に取らせてもらう!
――さらに半歩踏み込み伸ばした左手で修介の服を掴み引き寄せる。
なっという修介の驚きを置き去りにして引き寄せた勢いを活かし、右足で足払いをかけた。
そのまま宙に浮いた修介の体を、左手ごと地面に叩き付ける。
「――がっ!」
空気を吐き出し、衝撃によって現状が把握できていないだろう修介に向かって右拳を振り下ろし、
「……クソ、が」
それを修介の顔の直前で寸止めした。
以前の戦闘において強化魔術においてのみはそこまでの差はないことが分かっている。
つまりは入れば決定打だったはずだ。
「俺の勝ちだ」
「チッ……ああそうだ、俺の負けだ」
そう認めた修介は、しかし――眉間に皺を寄せたまま、
「アレか、まんまと一杯食わされたってわけか?
いや、二杯か――途中のこっちの魔術を避けたアレ、アレもこっちのことを逆手にとったって訳か。
違うな、アア、違うな。
逆手に取ったのは違いないが、それでもこっちの魔術は本来あたったはずだ――何しろ止まっても当たるように魔術をうったんだからな。
神野、テメエ何をした?」
その問いに、左手を修介の服から離し、右手を修介に差し出し助け起こしつつ、考える。
つまりは自分が生み出した炎で見えなかったってことか。
見れば一発で俺が何をしたかなんて分かるはずなのだから。
「魔術はつかってないぞ?」
「ンナもん魔力が消費されなかったんだから分かってんだよ」
立ち上がった修介の瞳はゴマかさざず早く言えといっている。
タネ明かしは簡単だ――何しろすぐにでも出来る。
「何をしたか、までは見せれるけども――どうやってやったかまでは教えられないから、多分見ないほうがいいぞ?」
「アン?」
「いや、霧島流格闘術って名前の通り、俺が作った武術ではなく先生に教えてもらったものなんだけどな。
先生の教訓というか命令でこういう技は教えられないことになってるんだよ。
……けど、まあ――多分軍祭で斉藤先輩と当たった時に使うからな、そのときに見てれば多分分かるぞ?」
第三者の視点で見たことを試行錯誤すれば、それが実戦に耐えうるレベルかはおいておいておそらく答えにはいきつくだろう。
何しろ格闘術というのは魔術師のものではなく、人のものなのだから。
「……ハッ、わぁーったよ、そん時まで答えは待ってる」
「悪い」
「けどよォ?そん代わり勝てよ?
あの生徒会長に打ち破られるような何かを理解さえできませんでしたってことになったら情けないってレベルじゃねえからよォ?」
「当然、勝つさ」
言いつつ、しかしこれもまた切り札足りえないだろうことを理解している。
修介と斉藤先輩ではそもそも戦闘スタイルが違う。
とはいえ手ごたえはあった。
申し訳ない、今回短いです。
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