霧島流
拳を構え、深呼吸を一つ。
「この距離でやんのか?」
彼我の距離は2――これは俺の距離だ。
だというのに修介はむしろ望むところといった表情をしており、何か対策を考えてきたのかもしれない、だが、
「いや、20メートルくらいは離れたい」
この距離では意味がない。
ああそうだ意味がない――斉藤先輩とは接近戦になるだろう。
だが、接近戦でこれをやるのでは意味がない。
「了解した、神野。
アア、やる前に聞いとくけどよ――お互い手加減はいらねえな?」
つまりは試合という名の殺し合い――俺はこくりと頷いた。
ギリギリの勝負でなければ意味がない。
そうでなければ何の意味もない。
反転し、背中を見せる修介。
「今度は勝たせてもらうぞ?」
その背中に言葉を返す。
「いや、今回が初めての勝負だ」
「ア?」
「あれは自分の実力を確かめるための戦い。
今ここでするのは――霧島流神野森人の戦い、だ」
その答えに後姿でもわかるほどいぶかしげに首をかしげる修介。
「……霧島流、ねえ。
この前テメエがいっていた捌く砕く避けるっていのがそれじゃねえのか?」
「確かにそれが霧島流の基本だ。
けど、それだけじゃない」
「……ハッ!」
クルリと視界の先で修介が反転しなおした。
相対する――距離は確かに20。
「グダグダと話すより――一戦交えたほうがよっぽど分かりやすいだろ、オイ!」
「違いない!」
獰猛な顔で吼えた修介。
示し合わせたわけではない、だがそうであることが自然であるかのように。
「霧島流――神野森人」
「魔術師――御堂修介」
名乗りあい
『いく、ぞ!』
咆哮しつつも思考する――おそらく勝負は5秒もあればケリがつく。
お互いの魔術の手数は2――そうなる状況を作り出す。
一手目。
「――身体活性化」
「――肉体強化を開始する」
唱えるは強化魔術――驚きはない、俺に対して魔術障壁を維持するメリットがないからだ。
ならば初めから強化魔術を行使し、加速した世界で距離を保ちつつ戦ったほうがいい。
――どうよ!
そういいたげな修介の表情に、しかし甘いと言葉に出さず思考した。
体感速度が変わらないまま、加速した世界。
下準備はここに完了。
だからこれより戦闘が始まる。
残りは一手、それで勝てなければこちらの負けだ。
否、恐らくそのときには負けている。
上半身を倒し、前傾姿勢。
口を開く修介と同時、こちらも足を踏み出し、
「土よ顕現――」
「――リミットオフ」
――修介より先に詠唱を終え、
――爆発的な加速。
ギチ、リ、と筋組織が悲鳴を上げる。
踏み出すは只一歩のみ。
だがその踏み込みは神速。
一足で5メートルを詰め、そして幾分減速させるも勢いを殺さずに二歩目!
――人間が使える筋肉はえいぜいが30%程度、それがリミットだ。
だがそんな枷は魔術でとっぱらってしまえばいい。
しかしこれを使い続けることは不可能――一瞬が限界だ。
身体能力が向上している状態で使う以上その負担も増大する――故にこの魔術を使えるのは只一歩のみ。
魔術が終了した二歩目にはもう加速する力はない――だがその速度を出来るだけ殺さずに地を蹴る。
「な――ん」
修介が発した驚愕の声はそれだけ、驚愕の声は途中で挑戦的な声色に変わり。
「火柱を――」
魔術の切り替え――それを確認し、三歩目を。
左足に力を込め、しかしそれは減速のため。
グッと速度が落ち、そして彼我の距離は既に5。
この速度では己が距離に踏み込むには二歩が必要だろう。
だからこそ――最初に加速したときと同じように前傾姿勢を取る!
「――顕現す!」
周囲の魔力が希薄になり、魔術の完成を意味した。
――殺った!
そう確信するかのような修介の表情。
それもそのはずだ、魔力の集まる範囲が俺と修介の間すべてを埋めている。
加速し距離をつめようがあたり、ましてやここにいても当たる。
不可避かつ防御不可――単純ゆえに強い。
――だからこそ、俺は自分の勝ちを確信した。
轟と音を立てて、召喚された炎の柱。
「なん、だと?」
――顕現された炎は目の前で燃えていた。
驚愕の声は修介が魔術をはずしたものからくるものだった。
いつも通り感想誤字脱字報告をお待ちしております。
戦闘の説明話なのでいつも以上に先頭にスピードがないorz