おはよう神くん
――結局のところ俺はどの程度まで強くなれたのだろうか?
夢から覚めるときそんなことを思った。
「……ん」
ゆっくりと瞳を開けると白い天井。
ああ、とつぶやいて思い出す。
今日は入学式だ。
「おはよう、神くん」
「ああおはよう岬」
上半身を起こしつつ左手に向く。
視線を向けるのは部屋の片隅に置かれた勉強用机。
ギッ、と音を立ててその前のイスに岬は座っていた。
文庫本を片手に足を組んでいる岬を見て、もしかすると俺よりもそこに座っている時間が長いのでは?なんてくだらないことを考えた。
そんなことを考えてから気づく、岬は制服だった――見慣れたものではなく崎守学園の。
胸元にユニコーンが刺繍されたブレザー、それとこれが決定的に違うのだがスカートではなくズボンなのである。
――まあ、スカートで飛んだりはねたりしながら戦闘はできないよなそりゃ。
「……ん、ん」
両手を天井に向け、ゆっくりと伸びをする。
ゴキゴキと間接が音をたてて、はあーと息を吐くころには眠気はとんでいた。
さて、とつぶやいてベッドから抜け出す、ついでカーテンを開けて日光を取り入れる。
ベッドに戻り、毛布をたたみ、その脇に腰掛ける。
「…………」
時計が指し示す時間は6時。
いつも通りの朝だ。
「……うん」
パタンと小さな音がした。
岬が文庫本を閉じた音だろう、そしておそらく区切りのいいところでしおりを挟んだんだろう。
「お待たせ、神くん」
「いつも言ってるけどな、岬の方がまってるだろう?」
たまに30分ほど早起きしても先はそこに座っているのだ。
ちなみに我が部屋の本棚は岬の文庫本によって大多数を占められている。
「私はいいのよ、習慣だから」
「なら俺もいいんだよ習慣だからな」
「あらそう?なら問題はないわね、それに楽しいのよ、神くんの寝顔を見るのも」
満面の笑みでそんなことを言われた――まて赤くなるな神野森人!
あれは悪女の笑みだ、つまるところからかわれているのだ!
「そう、かよ」
視線どころか顔までそらして俺はそういった――ああ、くそ分かってる。
「やっぱり照れた顔を見るのも楽しいわね」
「勘弁してくれよ……」
クスクスと笑う彼女を見て思う。
まあいいか……
「とにかく、朝食をとろうぜ」
はあ、とわざとらしくため息をつくと同時俺は言った。
立ち上がりドアノブを回し――まあいいかなんて思えたとしても変えられないものがあって、
「あ、ちょっと――」
うるさい、まだ顔が赤いんだよこっちは!
あせって降りていると思われないように、かつ迅速に俺は階段を降り始めた。