間章――先生
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ゴーストタウンと呼ぶのがふさわしいだろう――戦争の長期化により放棄された町、整備されずでこぼこになったコンクリートの道路。
暗く、はっきりと見通すことが出来ない視界の中、そこに長身の男がいた。
身につけるは白のコート――しかしこの闇の中ではわかるのはそれだけ。
男は右手を顔の横にやり、
プップップッというコール音が聞こえた。
「――どうも、国王陛下」
敬いなどカケラも感じられない言葉を放った。
侮蔑していると捉えられてもおかしくはないその声色、言葉遣い――しかもその言葉が本当ならば相手は国王である。
だというのに会話は続く。
敬語が交えられたその言葉はしかし無理をして使っているような雰囲気を感じさせ、あたかも獣が本能を抑えて話している様を彷彿させる。
「ええ、はい……いつも通りに殺しましたがね――はあ、強かったかですか?
ふむ……なるほど、俺に任務が来るあたり強かったですな。
所謂天才ってやつでしょう、少なくとも俺よりは強かったとは思いますな。
まあだからこそ負けて死んだのは皮肉としか言いようがありませんがね」
そういう男の足元には一人の青年が倒れていた。
雲から顔を出した月が一瞬照らし出したそれは――武蔵国軍中尉本庄政義のものであった。
彼はこう呼ばれていた。
希望の光、と。
しかし彼は死んでいる。
これといった外傷は見当たらない、だが彼は死んでいるのだ。
心臓は既に活動を停止し、脳は既にその機能を果たしていない
時間がたてば体は冷え切り、死後硬直も始まるだろう。
――月はまた雲に隠された。
「――は? 生かしておいた方が有益だったか、ですか?
知っているでしょうに、天才というものは競い合う相手ではないのですよ。
高め合う存在ではなく、魔法使いとは別の意味で異端。
こういう敵を生かしておいても百害あって一利しかありませんな。
――いえいえ一利なしって言葉は知ってますよ。
ようするにあれですな。
99人が殺されて、1人だけが逃げ延びて――ああ化け物はいるんだなと学習するわけです。
ま、魔術戦なんてものはタイマンが基本ですからその程度では化け物でもなんでもないんですがね。
ようするに1対1で99回勝てばいいだけですから。
本当の化け物は100対1で勝てるような奴ですよ」
そういう男、声色に変化はなく、ただ厳然たる事実を告げるように話し続ける。
この場に第三者がいればあるいはこう思っただろう。
――どちらも化け物だろう、と。
「――化け物をしっているような口ぶりだな、ですか?
はははっ、そんな人間がいないのは国王陛下もご存知でしょう?
まあ、あるいはそうなっていたかもしれない人間は知っていますがね。
そいつは復讐にいきるためにその可能性を捨てましたよ」
そういう男の声色に一瞬だが感情らしきものが浮かび出た。
あまりに小さな感情で、それがどんなものだったか判断することはできない。
何より男自身が理解していないだろう。
「――化け物は生まれながらにして化け物だろう?
なるほど、確かにそうですな。
しかしそれならあいつは化け物ではないということですかね」
再び声色が戻り、
「――は、少女ですか?
ああ、なるほど嬢……いや、彼女ですか?
あれは化け物なんて恐ろしいものじゃありませんな。
一人じゃ生きられない化け物なんてものは存在しませんよ。
何よりそうでなくともアレなら殺せますからな」
電話の先、国王がもらしたであろう笑え声がスピーカーより吐き出された。
「ま、そんじゃそろそろ切らせてもらいますかね。
おっと、いつも思ってたんですがね――こんな携帯電話なんてチャチなもんを連絡手段にしていいんですかね?」
盗聴、機密性そういったことをさして男はいったのだろう。
それに対して国王は答えた。
――構わんよ、盗聴でも傍受でもなんでも好きにさせてやるがいいさ!
すればするほど戦うのしかないのだと、戦い続けるしかないのだと彼らは理解するだろうからな!
スピーカーからもれた、若さを感じさせるハリのある声は確かにそういった。
「なるほど……理解しましたよ、まあそれじゃ今度こそこれ――で?
は、どうかしたんですか?
いい忘れていた?
――ほう、なるほど競い合いですか?
いやしかし何故それを?
そんなもの別に珍しいことじゃないでしょうに。
はあ、きな臭い、ですか。
何を言いたいか理解はしましたが不可能ですな、俺は今武蔵にいますので。
は、いやそれは確かに国境近くではありますがね、しかし国境といっても南北で離れていましてね。
帰還するには三日はかかりますな。
第一、俺が得意なのは1対1のみですよ。
そういうのは魔法使いにでも頼んでくださいな。
では今度こそこれにて」
プツンという音。
そこで男はああと気づいた。
そういえば坊主はあそこにすすんだか、と。
雲がまた途切れ、一瞬だけその男の素顔が視認できた。
しかしその一瞬でそれが誰だか判断できる人間はいなかっただろう。
否、一人だけいるかもしれない。
一人の青年だけは気が付くだろう。
そうして彼は言うだろう。
先生、と。
予約掲載機能を初めて利用してみました。
本当は間章をいれるつもりはなかったのですが……いつの間にか書いてました(あ
いやまあ、必要な描写もありましたしどこかでは入れなきゃいけなかったのですが。
先生の初登場ですかね(最初のは記憶だったので)。
とはいっても姿の描写はほとんどありませんが。
小説情報を変更しました。
いつも通り感想誤字脱字お待ちしています。