祭――予告
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「神野、おはよう」
「ああ、おはよう修介」
シャコシャコと歯ブラシを動かしていると修介が現れ、隣についた。
「もう立ち直ったか」
「ひょへ?」
――ほへ?といいたかった。
それだけでもアウトだけどもそれをさらにもごもごとした感じでいってしまった。
手を止めて、
「くくっ、こりゃ本当に大丈夫そうだ」
「……何がだよ?」
笑われ、しかし安堵したような修介の表情にそう返した。
「あん? ああいや、昨日のお前負けてから大分落ち込んでたみたいだったからよォ?」
「…………ああ、もう大丈夫だよ。
何より、次やれば勝てる算段がついたしな」
実際は気安く勝てると言うほど簡単なものじゃなく、お互いの意思疎通が出来なければ俺がぶったぎられるんだけども。
「そうかそうか! ああ、でもよ? 俺もあの生徒会長殿とはやってみたいからよォ、再起不能にするんじゃねえぞ?」
冗談――それと分かるような表情でいう修介に苦笑した。
歯磨きを再開。
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「あ、その……おはよう岬」
コンコンとノックを。
岬の部屋の前に立ち、暫く待つと。
「おはよう神くん」
昨日のことですこし恥ずかしかったというか調子がちがったというか、とにかくそんな俺とは違って普段通りの岬がいた。
「そろそろいこーよ?」
「……まっ、なんだかんだでいつも通りギリギリだな」
「そうね、待たせてごめんなさい。
行きましょ神くん?」
「あ、ああ」
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四人で登校、短い道のりといっても男女のグループに分かれることになる。
岬と由井が先に、俺と修介が後に。
そこで信じられないものをみた。
――ノックしてから出てくるのがおそ――
そこから先は聞こえなかった、というよりも由井が意図して聞こえないように声を潜めたんだと思う。
問題はそこじゃあない。
岬の顔が真っ赤にそまったのだ。
照れるように恥らうように。
唇がどうしてわかったの?と動き、
「アン? はっ、青春してんな」
そう言った修介の意図が良く分からなかった。
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朝のSHRの時間。
俺たちはいつも通り右側一番手前の席に座り、雑談を交わしながら信一先生をまっていた。
やがて信一先生が現れ、教卓につくと同時先生はこういった。
「軍祭を知っているか?」
その言葉に修介の唇がニイと釣りあがった。
「当然じゃないすか!」
獣といった表情で言う修介に信一先生は苦笑し、まあ知っているとは思うがと言い。
「それの正式な日程が決まった。
今月、5月20日に行う。
丁度二週間後な訳だが、まず俺が貴様らに聞かないといけないことがある。
お前らは軍人を希望しているはずだ。
そういう人間があつまってこの1組を作っている。
ああ、だから聞くまでもないことなんだが。
軍祭に参加するかね?」
――当然という声が重なった。
「よろしい、過半数をこえたものと判断する。
勿論個人単位での辞退は自由だ。
ではリーダー……小隊長を決めようか?」
と尋ねた信一先生は、しかし。
「いや、それよりも前に説明か。
皆も知っているとは思うが、これはクラス単位――40人規模の小隊戦だ。
勝敗条件は二つ、時間切れ時点の戦闘可能人数の差。
もうひとつは敵小隊長の撃破。
この二つが勝利条件だ、逆に言えば敗北条件でもあるが。
さてこの後の特別ルール。
新1年生は担当の教師一人が参戦して良いということになっているが、今回俺はそれを辞退した。
理由はいわずとも分かるとは思うが――それだけじゃない。
お前らは例年に比べ優秀だ。
2年生と比べて遜色ないほど、とまでは言わないが――正直にいって去年の新1年生より実力があると断言してやる。
だから俺は辞退をした。
問題があるとすれば新一年生の小隊長をカバーするのが教師の役目でもあったということだが。
さて、小隊長は誰がやるべきだと思う?
自薦他薦なんでも構わん」
……まず、視線が俺たちがいる席に集まった。
俺は修介を見る――俺を見ている。
俺は由井を見る――俺を見ている。
俺は岬を見る――俺を見ている。
三人揃って口を開き。
『神野君がいいかと』
賛同するようなこえがちらほらと聞こえた。
――どうしてこうなる……
祭編というほど長いものじゃなかったりします。