斬魔刀
――肉薄する!
最初の一歩は同速、しかしあちらは後ろに飛んだ以上その速度は2歩目以降は続かない。
着地後の硬直をねら、
「――甘いぞ神野君!」
着地と同時に上段から振り下ろされる一撃。
距離は3。
つまりは突っ込む形の俺に斬撃を置いておく形、かっ!
「甘いのは――」
右に大きくステップを踏み斬撃の範囲から逃れ――違和感。
斉藤先輩――否、目の前にいるのは己が敵、恭介の構え。
振りかぶっていない、コンパクトな上段からの一撃――明らかに体重が乗っていない。
――ま、ずい!
「――君のほうだ!」
ビタリと上段からの一撃は止まり、刃の向きが変わる――縦から横へ。
――見ている、それを見ながら次の行動を予測し。
斬魔刀から右手が離れ、左手のみによって斬撃が放たれる。
あたかも初めから横殴りの斬撃だったかのように動き出す斬魔刀。
――当然だ、重心を置いてなかったのだから!
しかし予想通り、予想通りそう繋げた。
だからこそ、と左足に力をこめる。
腰を狙う斬撃――ならば掻い潜ればいい。
いつもより深く、深く!
つま先で地面と強く蹴りだす。
上半身を倒し尚且つ這うように――
「――せいっ!」
疾風が頭を通り過ぎた。
やり、過ごした!
しかし同時に気づく。
距離は既に1、ここは己が間合いである。
だというのに攻撃できない。
極限までの前傾姿勢――そこから打ち出せる攻撃は存在しない。
「まずっ――」
「――しっ!」
ここで恭介が逆に肉薄する。
同時に放たれるは右の回し蹴り。
――避けられない、捌けない、か!
左手を持ち上げ脇腹をガードするように上げ――お構いなしに蹴りが叩き込まれた。
「がっ――は!」
衝撃に吹き飛ばされ、空気も吐き出し、しかし右手と両足を使い衝撃を地に流す。
飛びずさるように立ち上がり、拳を構えようと――
「――炎よ!」
構える前に追撃がきた。
くみ出された魔力といい平凡な火球――だというのにやっかいだ!
炎である以上打ち砕けない――魔力を拳にまとわせる時間もない。
受けるしか、ない!
胸を穿つ炎を無視し、拳を構え切る。
業と迫る炎に対し、心構えをし、
「づうっ」
胸を穿たれた――だが耐えられるレベルだ。
「らっ、ああ!」
吼える――恭介の狙いは読めている。
先ほどの炎に対処を迫られた瞬間に生じる隙をつくことだろう!
「ぬっ!?」
眼前に迫るはやはり恭介。
距離は1もなく。
先ほど左薙ぎに使われた斬魔刀は、その握り方を反転させ、あたかもトンファーのごとく腕に張り付きながら振るわれようとしている。
おおよそ日本刀の使い方ではない、だが斬魔刀に限ってはこれで正しいのだろう。
左拳を振るう――狙いは恭介の左手!
刀をたたけないのであればその握り手を、そしてこの距離ならば先にこちらが穿つ!
だが、恭介の斬撃は先ほどのように1から0へ、ピタリと止まる。
動いた先を計算に入れて放った拳は宙を切り、
「ちっ」
舌打ちを鳴らしつつカバーの右回し蹴りを放つ。
それに対して恭介はさがることによってそれを回避し、賞賛した。
「……正直、最初の何手かで詰むと思っていた」
その言葉はおごりでも何でもなく事実だろう。
危うくその通りになりかけた。
はっと息を吐き、しかし拳の構えは解かないまま言う。
「お褒めにあずかり光栄ですね、けど先輩――対等な条件でというのならもう少し詳しく説明をしてほしかったですね」
「しっかりと言っただろう?相性の問題だ、と!」
言い捨て踏み込んでくる恭介。
速い――急激に距離が詰まる。
「意地が悪い!」
つまるところ、恭介はどんな体勢でもいいから斬魔刀さえあてれば勝ちなのだ。
あたりさえすればこちらの強化魔術は霧散し、強化が継続されているあちらと比べ、否比べるのがバカらしいほど虚弱な体がさらされる。
故に通常の剣技のように人を殺しうる重みのある斬撃は必要がない。
重みのない攻撃――だからこそ変幻自在。
そして、すっ、と魔力が集まっていく。
「――土よ!」
土槍が襲い掛かる――これもまた通常の魔力。
しかし今度は捌ける――否、捌くしかない。
物理的なものであるかわり、土は固いのだ。
避けるという選択肢はない――体を崩せば追撃にて確実に詰まされる。
左衝掌で土槍をそらし、やはり追撃に来ていた恭介を右拳で迎撃しようとして――不可能と判断し、上体をそらす事によって横殴りの斬激をやり過ごす。
「くっ」
思わずうめきをもらした。
こちらの攻撃が届かない距離――斬魔刀分のリーチの差。
その範囲から攻撃、かっ。
間合いをつめようにも主導権はあちらにあり、無理に攻めれば態勢を崩す。
崩せば斬撃は喰らわないにしろ間違いなく体術で一撃と共に突き放される。
しかし守ってもジリ貧――打開策、をっ!
――――――――――
斬撃が俺の体を捉え、しかし直前で停止した。
「俺の、負けです」
結局主導権を握られたまま押し切られた、か。
息を整えながら一礼した。
長く続けてもうまくしまりそうにないので戦闘は中略をしました。
主人公は強いけれど、必ず勝てるわけではないということがつたわったらなーと><
と、これもある意味肉体のみで戦っている神野のリスクでもあります。
接近戦でもし劣ってもその劣ったものでしか勝負をできません。
しかし、生徒会長は万能キャラだったはずなのにどちらかというと接近戦キャラになってしまったような……
いつも通り感想や誤字脱字など待ちしております。