間章――霧島岬の戦い
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自己紹介は順調に進み、最後の二人となった。
その二人は岬と由井である。
由井は修介が心配だったため保健室にいったためで、また岬もそれに付き添ったため最後となったためである。
もっとも岬の場合はそれ以上の理由があるのだが。
ここに神野と修介、それに何人かの生徒はいない――保健室でやすんでいるままだ。
「出席番号8霧島 崎です、よろしくお願いします」
「1年1組2番上野 由井よ、よろしくね」
名乗り、頭を下げる。
校庭の中心で二人は相対し、その距離は20メートル。
「いくわっ、よ!」
宣言し、由井はイメージを顕現させた。
「――生み出すは水、圧縮、そして撃ち出す!」
2秒ほどの時間をかけて作り出された10リットルほどの水が、瞬時に拳大に圧縮され、撃ち出された。
(優秀、ね)
それを見て岬はそう判断した、普通ならあと1秒はかかるだろう魔術。
それだけで由井が優秀だということは判断できた。
効率の良い魔術を少しでも早く撃ち出すというのはとても正しい。
だが、時には効率よりも威力を重視しなければならない時がある。
例えば神野を倒そうとすれば一定以上の威力の魔術をあてるしかない――威力の弱い魔術では破砕されておわるだろう。
例えば修介を倒そうとすれば彼の魔術障壁を突破したうえで、倒しうる威力をもつ魔術をあてるしかない――この場合も同じである。
「…………」
自らに向かって撃ち出されたそれ、高速で接近する水弾を見て岬は何もしなかった。
「……え?」
着弾、消滅。
否、着弾できずに直前で消滅。
――魔術障壁というものがある、これは術者の意志によって発動できる固定魔術であり、効果は分かりやすいもので、魔術をもって生み出された攻撃を己が体内魔力を放出することによって減衰するというものである。
つまりは、由井の攻撃はそれに阻まれたのだ。
「……ウソ?」
あり得ないでしょ、と由井の唇が動いた。
魔術障壁とはいわゆる防御を突破された際の保険的なもので、あくまでも減衰するという効果のものである。
それで自分の魔術が消滅させられたのだ――あり得ないでしょともう一度由井は繰り返した。
由井は修介と模擬戦闘を何度かしたことがある、勿論それは手加減をされたうえで、尚且つ全敗だったのだけれど……魔術が消滅させられるなんていうことはなかった。
そう、修介という規格外の才能をもった人間でもなかったのだ。
今うった魔術とて、減衰され遅くなり水弾は小さくなるだろうが、それでもあたるはずなのだ。
だが、現に今無効化された。
つまるところそれは一定以下の攻撃はいくら放とうが無効化されるということだ。
「今から攻撃するけれど、防御できないようなら降参して頂戴」
宣言――瞬間由井に冷え切った何かがはしった。
悪寒などと言うなまやさしいものではない。
予感――自分が死ぬのだという絶対的な予感。
「――魔力よ、在れ」
集まる/集っていく/集合する/呼び寄せられる/固まっていく/圧縮されていく
校舎一つ分――周囲200メートルほどの魔力がすべてそこに集った。
「……あ、あ」
由井は呻いた、歪んでいるのだ視界が。
魔術を扱うためのもので、不可視のはずである魔力によって。
岬が口を開いた、歪んだ視界の中でそれが見えた気がした。
否、口を開いていた。
断言できる、何故ならば既に歪みはなくなりはっきりと見えたからだ。
魔力の枯渇が起きた。
――詠唱
「――風よ在れ、そよ風を起こし、つむじ風を起こし、暴風を起こし、そこに在れ」
由井の思考はここで停止した。
理解できなかったのだ目の前のそれを。
風が在った――岬の周りを覆いつくし、吹き続ける風が。
それはまわりに被害がでないように制御されていた――風が一定の範囲から出ないようにと。
ここで繰り返す、吹いているのは風である。
――それが地面を抉り粉微塵に砕きながら範囲外へと砂塵を撒き散らしていた
それは見たものにとって魔術ではなく、災害だった。
「……どうにかできそうかしら?」
尋ねる岬にこの大魔術とでもいうべきものを成しえた誇らしさというものはまるで見えなかった。
できて当然のことをしたのだというかのように。
尋ねられた由井は、しかし答えることができなかった――目の前の光景に呑まれていたからだ。
だから、答えたのは別の人物である。
「……降参、する――これを防いで生徒や校舎の被害をなくすなど出きる気がしないからだ」
教師が、信一がそう答えた。
こくりとそれに頷いた崎はパチンと指を鳴らし暴風を消した。
ケホッ、と咳を鳴らした岬は思う。
まだ足りないのでしょうね、と。
間章は終了です――多分。
崎の実力がお伝えできたのかなーと。
主人公より能力面においてヒロインのほうが圧倒的に高いというのはどうなんだろうなーと思いつつ。