現実
「尋ねよう、魔術とは何に使われる?」
ではそこの君と橘学園長は最前列の生徒を指差した。
その男子生徒は緊張をはらんだ声でしかしはっきりと答えた。
「はい、日々の暮らしを支えるため――例えば土木や建築などに用いられます」
模範的な解答ではないものの正しい答えだと俺は思った。
けれどきっと間違っている、そういう教科書的なことを聞かれているのではないのだ。
「正しい、ああ正しいなその答えは。
土木や建築などもそうだが、他にも医療や発電などにも魔術は携わっている。
故にその答えは正しい――間違っていたのは私の問いだ」
「この学園で習う魔術は、否、今現在のこの国において魔術は何に最も用いられている?」
どうかね?と橘学園長は先ほどの男子生徒に尋ねた。
短い沈黙、やがて男子生徒は答えた。
「……分かりません」
そうかと橘学園長は返し、では君は?と近くの生徒を指差し尋ねる。
その生徒も答えられない。
違う、答えないのだ。
橘学園長が何人に尋ねたのか分からなくなった時、ようやく指された一人の男子生徒が意を決したように答えた。
「っ、戦争です!」
聞こえたその答えに俺は思わず首を横に振っていた。
「おしい……が、違う。
ではそこの一番後ろの席にいる男子生徒、君はなんだと思う?」
学園長の指差すはこちら、加えて最後尾であり男子というと俺のことだろう。
一瞬、首を振っているのをみられたかと思ったけれど、思考を取り消す。
そんなことを考えても仕方が無い。
ドン、ドンと心臓がやかましい音を立てる。
答えは分かっている、ただそれを声に出すのが恐ろしいだけだ。
ゴクリとつばを飲み、口を開く。
つまるところ、それが現実なのだと。
「人殺しです」
橘学園長はうなずいた。