ロイ 第8章①:父と子の邂逅
湾岸地区の夜。
冷たい風が鉄骨の隙間を抜け、錆びた壁に不気味な音を立てる。
ロイとトリアは倉庫の影に身を潜め、ユージーンからの合図を待っていた。
足元に散らばる砂利が、微かな風に揺れる度に音を立てる。
頭上では暗雲が月を覆い、わずかな明かりさえも遮っていた。
ロイは暗い空を見上げながら、先日の作戦会議を思い返していた。
---
作戦会議室で、ロイはメンバーの表情を一人一人確認しながら、ユージーンに向かって静かに尋ねた。
「情報はどうだ? 奴に接触するチャンスを掴めそうか?」
ユージーンは眼鏡のブリッジを軽く押し上げ、冷静な表情を崩さずに答えた。
「魔術師教会エニグマの動向と裏社会ネットワークを使って得た情報を分析した。1週間後の夜に湾岸地区の倉庫で大規模な取引が行われる。そこにジャンカルロが現れる可能性が高い」
シルヴェスターがその言葉を引き継いで続ける。
「取引は極秘裏に行われるが、シャドウベインの主要幹部がジャンカルロの側を離れ、警備が手薄になる時間がある。ここでジャンカルロに直接接触を図り、他のメンバーは取引を妨害する。これが最良のタイミングだ」
ロイは深く息を吐き、決断を下した。
「よし、それで行こう。あくまで最優先は、Destrion計画を止めることだ」
---
「ここからが本番だ」
ロイの声には、時を超えた父親との因縁の重みが滲んでいる。
トリアはロイの横顔を見つめ、彼の中にある複雑な感情の揺れを感じ取っていた。
父との対面を前に、戦いに向かう覚悟と、知られざる親子の絆への想いが交錯している。
「ロイ、私も一緒だよ」
「ああ、頼りにしてる」
トリアの優しい声が、ロイの心の中の迷いを静めた。
やがて合図が来た。
ロイは短く頷き、目の前の倉庫に向かって確かな一歩を踏み出した。
二人は薄暗い倉庫の中を進んでいく。
足音が冷たい鉄骨に反響し、緊張感が増していく。
埃っぽい空気が肺に染み込み、かすかな金属の匂いが鼻をつく。
そこにジャンカルロの姿があった。
シャドウベインの首領であり、同時にロイの父親。
だが、今はDestrion計画を止めることだけを考えなければならない。
倉庫の中央に佇むジャンカルロの背中が見えた瞬間、数人のボディガードが影から現れ、二人を取り囲むように動き出した。
「ロイ……」
トリアは心の中で強く祈りを捧げる。
その祈りには、戦いの勝利だけでなく、ロイへの想いと、親子の和解への願いも込められていた。
「トリア、頼む」
ロイが短く声をかけ、トリアは頂点に達した祈りの力をロイへと送る。
ロイの体が青白い光に包まれ、足元から青い閃光が走る。
彼が静かに腕を上げると、愛車|STORMBRINGERが光の中から姿を現した。
「|KING OF SPEED!」
ロイは瞬時にSTORMBRINGERの運転席へと移動する。
青白く輝く車体が倉庫内を駆け抜け、光の軌跡を描きながら疾走した。
「|BLUE BLAZE DRIFT!」
STORMBRINGERが超高速でドリフトを繰り返し、倉庫内を縦横無尽に駆け回る。
残された青白い光の軌跡がボディガードたちの動きを封じ込めていく。
ロイはその瞬間を逃さず、一撃一撃を確実に敵へと叩き込んでいった。
「|PHANTOM ACCELERATION!」
STORMBRINGERの驚異的な加速により、ロイは敵の周囲を瞬時に移動しながら攻撃を繰り出す。
その動きは異次元の速さで、ボディガードたちはロイを捉えることすらできない。
全てのボディガードが倒れ、ロイはSTORMBRINGERをジャンカルロへと向けた。
そのまま躊躇することなく、父の立つ位置へと肉薄する。
しかしジャンカルロは微動だにせず、威圧的な存在感を放ったまま立ち続けていた。
STORMBRINGERが迫ったその瞬間、ジャンカルロは右手一本でその猛スピードの車体を受け止めた。
「何!?」
ロイの目が一瞬見開かれる。
改めて、父の持つ圧倒的な力に驚愕する。
しかしその驚きは、すぐさま冷静さへと変わる。
ロイはSTORMBRINGERを停止させ、静かに車を降りる。
青白い光が収まり、倉庫の中に再び重苦しい静寂が戻る。
ジャンカルロは一顧だにせず、氷のような声で言い放った。
「雑魚は去れ」
その言葉に、ロイは全く動じなかった。
鋭い眼差しをジャンカルロに向け、確かな声で告げる。
「俺を見ろ、アンタには俺が誰かわかるはずだ」
その瞬間、ジャンカルロの瞳に微かな驚きが映る。
かつて愛した女性、アレッサンドラの面影が、目の前の若者の中に確かに息づいていた。
30年前の記憶が、彼の心の奥底で静かに揺れ動く。
「そうか……俺には息子がいたのか」
その言葉と共に、ジャンカルロの冷たい表情が僅かに崩れた。
それは確かに、父と子の邂逅が果たされた瞬間だった。




