ロイ 第6章②:灼熱の救護活動
突如、静かな夜の空気を破るように、カーナビからの着信音が響いた。
ロイは一瞬眉をひそめ、通信の内容に耳を傾ける。
「ロイ! 今ベイサイドハイウェイにいるだろう!」
緊迫感を帯びたユージーンの声が、車内に鋭く響き渡る。
「すぐ先で大きな事故が発生した。救急と消防に連絡したが、お前が現場に到着する方が早い。すぐ現地に向かってくれ!」
その言葉と同時に、地図情報がカーナビに青白く浮かび上がる。
ロイは瞬時に状況を把握し、無言でハンドルを切った。
STORMBRINGERのエンジン音が低く唸り、スピードが一気に上がる。
「何が起こったの?」
助手席のトリアが、不安げな声で尋ねた。
「大事故だ。俺たちが一番早く助けに行ける」
STORMBRINGERは闇夜の中を一筋の光のように疾走し、事故現場へと向かった。
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事故現場に到着したロイとトリアの目に飛び込んできたのは、炎と煙が渦巻く地獄のような光景だった。
複数の車が折り重なるように衝突し、横転した車両があちこちに散らばり、赤い炎が夜空を不気味に染め上げている。
粘り着くような黒煙が空高く立ち上り、焦げた金属とゴムの臭気が鼻腔を突き刺す。
パチパチと炎が燃え上がる音と、金属が歪む不気味な軋みが響く中、火の手は次第に広がり、車体が今にも爆発しそうな危険な状態だった。
「そんな……」
トリアは息を呑み、その光景に圧倒されて立ちすくむ。
炎の熱が肌を刺すように感じられ、あまりの惨状に彼女の足は震えていた。
だがロイは一瞬の迷いもなく、すぐさま車外に飛び出した。
「お前はここで待ってろ!」
短く言い残し、彼は燃え盛る車両に向かって全力で駆け出す。
炎の熱気が顔を焦がすように迫る中、ロイは近くに倒れ込んでいた若い女性を見つけた。
彼女はかすれた声で助けを求め、車体に足を挟まれて動けないでいた。
煙にむせる彼女の目は恐怖で見開かれ、顔には黒い煤が付着している。
「大丈夫だ、俺が助ける」
ロイは優しく声をかけ、女性の足元に倒れた車体の残骸に手をかけた。
強靭な腕の筋肉が盛り上がり、金属が軋むような音とともにその重さを持ち上げ、女性をそっと抱きかかえ、安全な場所へと運んだ。
「すぐ戻る!」
汗が滴る顔を拭いながら、ロイは再び現場に戻り、次の負傷者を探し出す。
パニックに陥った人々の悲鳴と、炎が舐めるような音が混ざり合う中、ロイは次々に負傷者の元へ向かった。
片手で炎を押しのけ、もう片手で車の窓を割り、変形したドアを力ずくで引き剥がして閉じ込められた人々を救出していく。
彼の動きには無駄がなく、まるで時間との戦いを演じているかのようだった。
「まだ誰かいるか!」
息を切らしながらも力強い声で叫び、ロイは最後の車に目を向けた。
すると、炎に包まれかけた車の中に、取り残された小さな子供の姿が見えた。
子供は泣きながら後部座席のシートにしがみついている。
「怖くない、俺が助けるから」
ロイは静かに語りかけ、素早く窓を叩き割って中に手を伸ばした。
灼熱の空気が肺を焼くように突き刺さる中、シートベルトを外し、子供を優しく抱き上げる。
背後で炎が轟音を立てて燃え上がる。
ロイは子供の体を守るように抱きしめ、最後の力を振り絞って安全な場所まで走り抜けた。
「ロイ!」
トリアが叫んで駆け寄る。
彼女の目には涙が溢れ、その瞳にはロイへの感謝と尊敬の色が浮かんでいた。
「バーカ、これくらい朝飯前なんだよ」
息を切らしながらも、ロイは笑顔を浮かべ、トリアの頭をぽんぽんと軽く叩いた。
その優しい仕草に、トリアの目から堰を切ったように涙が溢れた。
疲労の色が濃く滲むロイは、泣きじゃくる彼女に温かな手を差し出した。
「もう大丈夫だ、みんな助けた」
遠くから、複数のサイレンが夜の闇を切り裂くように近づいてくる。
消防車と救急車の赤い光が、次第に現場を包み込んでいく。
ロイは深く息を吐き、汗を拭いながら「さあ、行こう」とトリアの肩に手を置いた。
「ロイ、ありがとう」
トリアは涙を拭いながら、感謝の言葉を紡いだ。
ロイは満足げな笑みを浮かべ、何も言わずに彼女を見つめ返す。
二人は再びSTORMBRINGERに乗り込み、救助隊のサイレンを背に、静かな夜の闇へと消えていった。




