表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】トランセンディア・スパイラル  作者: Maya Estiva
ロイ -運命と変革の物語-
72/142

ロイ 第5章②:ガレージにて

 ガレージには工具が軽くぶつかる音が響いていた。


 ロイは愛車|STORMBRINGERストームブリンガーのボンネットを開け、4リッターフラット6エンジンの調整に没頭していた。

 青と黒のストライプが施された車体が、ガレージの照明を受けて艶やかに輝いている。


「よし、これでいいな」

 一息つき、手を軽く拭いながら工具を片付ける。


 彼自身が鍛え上げた愛車は、今や彼自身の誇りだ。

 500馬力を超えるエンジンと、カーボンファイバーで補強されたボディは、どんな追跡任務にも対応できる性能を備えている。


 ガレージの外から軽い足音が聞こえてきた。

 ロイは振り返り、扉が開く音を聞く。


 そこにいたのはトリアだった。

「ロイ、ここにいたんだね」


 トリアは少し息を切らしながらロイに声をかけた。

 その手にいくつかの袋を持っている。

 よく見ると、中には食べ物や飲み物が入っていた。


「お前、わざわざ差し入れか?」

 ロイは笑いながら手を差し出す。


「悪いな、こんなに気を使ってくれるなんて」

「いつも頑張ってるから」


 トリアは明るい笑みを浮かべ、ロイに袋を手渡した。

 ロイは袋を受け取り、軽く中を確認してから笑顔を見せた。


「助かるよ。お前が来ると、どんな場所も明るくなるな」


 トリアはその言葉に少し照れたような表情を浮かべたが、すぐに真面目な顔に戻った。


「でも、ロイ……今日はちょっと心配で来たの」

「心配?」


 ロイは怪訝な顔をする。

 トリアは少し声を落として続けた。


「Destrion計画のこと、それにあなたのことも。あまり無理してないかなって」


 ロイは一瞬黙り込んだ。

 30年前のあの大惨事が、また繰り返されようとしている。


 シャドウベインによって人工的にABYSSを再現するその計画は、既に実行段階に入っているとみていい。

 ユージーンとシルヴェスターが情報収集に奔走しているが、今はまだ彼らの成果を待つしかない。


「俺が無理してるって?そんな風に見えるか?」

 彼は作り笑いを浮かべた。

 疲れを悟られまいとする彼の仕草に、トリアの心配は深まる。


「ううん、でもなんとなく感じるの。いつもより張り詰めてるっていうか」


 ロイはその真剣な眼差しを見て、少しだけ肩の力を抜いた。

「まあ、気にしすぎだろ」


 彼は軽く首を振ったが、その表情にはプレッシャーが滲んでいた。

 自らがリーダーとなって世界を救うという使命は、事実ロイを消耗させている。

 それでも、何としてもDestrion計画は阻止しなければならない。


「でも、ありがとう。気にしてくれてるのはわかるよ」


 その時、ガレージの空気が急に変わった。

 温かかった空間が、突然木枯らしに吹き込まれたかのように冷えていく。

 二人の吐く息が、白い霧となって宙に漂った。


「え、何?」

 トリアが驚いてロイの背後を指さす。


 黒い霧が渦巻き、ゆっくりとその中から一人の女の姿が浮かび上がった。

 漆黒のローブに身を包み、感情を持たない瞳で二人を見つめる。


 冷たい眼差しが、静寂を切り裂いた。

 その瞳には、人の感情とは無縁の冷たさが宿っている。

 その存在だけで、周囲の空気が凍りつくかのようだった。


 ノクテリア(闇の魔女)・エステルだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ