第3章⑧:クインシーの心
帰り道、夜の街を歩くBE-COOLの三人。
ハロルドは興奮冷めやらぬ様子で、通信システムの改良案について早口で語り続けていた。
「やっぱりデバイスの小型化が課題かな、それと通信の安定性をもっと高めるために……」
トリアは楽しそうに笑いながらハロルドの言葉に相槌を打つ。
「ハロルド、みんなに認められてよかったね!」
クインシーは二人の少し後ろを歩きながら、トリアの笑顔に癒される。
表の軽薄な態度とは違う、心の中の密かな、それでいて静かな感情。
胸の奥がほんのり温かくなるのを感じながら、クインシーは慌ててトリアから視線を逸らした。
そしてハロルドの方に向き直る。
「なあ、ハロルド」
クインシーが声をかける。
「うん?」
ハロルドが振り向く。
「やっぱりお前の腕、本物だな」
その言葉には、普段の茶化すような調子がなかった。
「え?まあな、でも、まだまだ」
「謙遜するなよ。お前のハッキング技術がなかったら、作戦成功してなかっただろ」
ハロルドは足を止め、クインシーの方を振り返る。
「クインシーこそ、すごかったよ。ロイさんたちと、まるで昔から組んでいたみたいな連携だったじゃないか」
「ま、ざっとこんなもんさ」
クインシーは軽く笑う。
その瞳の奥に一瞬、何かが揺れた。
「あ!」
トリアが突然声を上げる。
「もうこんな時間! ハロルド、帰らないと!」
「本当だ!」
ハロルドも慌てる。
「マキシマスにどやされちゃうよ」
「じゃ、解散!」
クインシーが明るく言い放つ。
そして意図せずトリアの方向に視線を向ける。
「明日も頑張ろうな」
「うん!」
トリアが無邪気に応える。
三人は別れ際、互いに軽く手を振る。
そこには確かな信頼関係が、さりげなく、しかし確実に芽生えていた。
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街灯に照らされた帰り道。
クインシーはひとり、ゆっくりと歩を進める。
空を見上げる瞳に、星明かりが小さく揺れていた。
ふと、トリアの笑顔が心に浮かび、胸の奥がまた温かくなる。
その感情が何なのか、まだ自分でも分からないまま、クインシーの姿は夜の街へと消えていった。




